Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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01 チュートリアル

16 Baltroy (アイデンティティ)

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 翌日、端末から戸籍の開示を請求する。リースリー・キマ。レプリカント。銀髪、オッドアイ。本人画像。間違いない。イグニスだ。配偶者はなし。どうしよう。本人に聞くわけにもいかない。お前レプリカントだろ? 偽名使ってるよな。なんで?

 でも俺が聞かなくてどうする。

 一応、ヴェスタが調べたことにちゃんと目を通してみる。オートキャリアの予約履歴。1日につき平均550万件。これが三日分。1650万件。定期便をまずは消して600万件になる。それでも膨大。
 昼時の会社員と学生の利用をさらに引く。この人たちはレプリカントを連れて帰っている場合じゃないから。半分程度になる。ここで、オートキャリアに乗せられている画像があったレプリカント……ニフェルトとニゲイラ、そしてバニーノのレプリカントの攫われた日に共通する人物の予約を突き合わせる。何百人がピックアップされる。

 まあ、やってやれない数ではないが、相当面倒な作業だ。正確には728名。そのうちさらに攫われた時間の前2時間に絞る。64名。

 リースリー……イグニスはそのうちの一人。

 少しほっとする。さほど有力な容疑者とは言えない。でもヴェスタの言うことも正しいのがわかった。これは俺が一度ちらっと考えて、数が多すぎると諦めたやり方。

 ──あの子、ちょっと怖いんだよね。

 イグニスの言ったことが少し理解できた。執念というか、底知れないしつこさ。ちらっと斜め後ろのブースのヴェスタを見る。青緑色の髪だけが見える。

 結局、家で会うとヴェスタの反応が怖いからというイグニスの希望で、昼にステーションで会った。そうだった。イグニスは待ち合わせと言えばステーションを使う。たぶん仕事の時もそう。だから変な時間にステーションに車を回していても不思議ではないんだ。

「……なんか、誤解されちゃって……」

 イグニスは目を伏せて話した。

「ブリングを勝手に触ったのは悪かったけど……自分のブリングの充電が切れちゃったから、ちょっと急ぎのコールだけと思って借りたの。そしたら、あの子がすごい剣幕でやめろって」

 そうだよな。別に後ろ暗いことはない。

「ねえ。やっぱりぼく、あの子とは暮らせないと思う。怖いもん」
「そうか。まあ、ヴェスタも最近少しナーバスになってるんだ。そのうち一人暮らししてもらうからさ」
「だってレプリカントなんでしょう? ナーバスって……」

 ふと違和感を感じた。前にヴェスタのことを二人で話した時も。

「……お前もレプリカントなんだろ? なんでそんな風に言うんだ」

 イグニスが目を上げた。色違いの目。

「……どうして知ってるの」
「たまたま。……名前も偽名だろ? なんで?」

 色違いの瞳から、ぽろぽろと見る間に涙が溢れ出した。両手で顔を覆って肩を震わせる。

「知られたくなかった! わかるでしょう? 名前だって……ぼく、オーナーに見つかりたくなかったから……そんなに悪い事?」
「イグニス。ごめん。俺は気にしないから」

 イグニスは突っ伏してしばらく泣いていた。震える肩に手を置いて泣き止むのを待った。泣き止んだイグニスは、オーナーから虐待を受けていたこと、なんとか逃げ出して一人で生活を始めたこと、でも連れ戻されたくなくて偽名を使っていたことを話してくれた。

 よくあると言えばよくある話。レプリカントだと戸籍をロックしてもらえないから、オーナーから逃げたければそうするしかない。

「……そういえば、この前ぼく、何か忘れていかなかった? バッグに入れてたはずだったんだけど」
「どんなの?」
「ううん、勘違いだったかも。いいんだ」

 なんとなく、俺も豚の子だと言い損ねた。でも今日話して余計混乱させても仕方がない。まさかこれでおしまいだとも思っていなかった。





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