Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

文字の大きさ
67 / 229
03 トライアル (2)エア・ランナー

02 Vesta (答え)

しおりを挟む
 次の週だった。その日は雨で、それまでなら飛行訓練はやめようかって連絡が来るような天気だった。でもその日はいつも通り、午前中にエアランナーが飛んできた。すごくドキドキした。

「もうヴェスタなら雨でもいいかなって」

 アラスターはいつも通りだった。優しくて、いつも微笑んでいて、紳士的。普段通りに俺をコックピットに引き上げてくれて、フライトヘルメットを渡してくれた。雨。

「雨の時は視界が悪いからね。あと、飛んでみるとわかるけど重くなるよ」
「重くなる?」
「そう。やってみればわかる。全体的に動きが鈍くなる」
「離陸は普通でいい?」
「いいよ。でもいつもより力がいると思う」

 操縦桿を握ってロックを外す。持った感じは変わらない。READY表示。離陸!

「わ、本当だ! 重い……」

 動かないほどじゃないけど、重いと知っていなければ何かの異常なんじゃないかと思ったと思う。これで風があったりしたら俺には動かせない。なんとか浮く。

「上出来。どこに行こうかな?」
「これ、降りる時もこうなの?」
「そう。ゆっくり押さないとドンと落ちちゃう」
「そんな……」

 アラスターが背中越しにモニタを押して目的地を入れる。いつもと同じなのにすごく緊張する。

「静かなところに行こうか。ちゃんとポートもあるよ」

 オートに切り替わったランナーが進み始める。たしかにいくぶんゆっくりな感じ。街がけぶるように灰色に見える。雨粒ごしの風景。到着予定時刻は二十分後。

「いつもは警告音が出たら他のランナーの位置をモニタと目視で確認するけど、雨の日は目視がしづらいから注意してね。まあこんな日はあまり飛んでないけどね」

 機体が発光している。雨の時と夜は自動で点灯するんだ。静かだ。ノイズのような雨音だけが聞こえる。翼が雨に打たれているのが窓から見える。

「最近は仕事はどうなの?」

 アラスターが話しかけてくれる。これもいつもと同じ。

「うん、最近は平和って言うか……ルーティンばっかりやってる。人のサポートにも入れるようになったよ。来月から当直もしようねって」
「当直か。一人前だね」
「そうなのかな……アラスターは? 当直ないの?」
「あるよ。でもオンコールだから」
「オンコールって?」
「呼び出されたらすぐ出動するってこと。この前三人でゲームしてた時、あっただろう」
「あれか! 泊まりがけの当直はないの?」
「よほどあらかじめわかってる時はやるけどね。レプリカント人権保護局だとあまりないね。休みの日の救急搬送とかはレスキューセンターが受けるから」

 そうなんだ。まだまだ知らないことがたくさんある。ポートが見えてきた。着陸しないと。ロックを外す。重い……けど離陸より楽だ。軟着陸。

「うまい」
「うまくいった!」

 降りてみる。大きなガラスのドーム状の建物。中が見える。

「植物園?」
「そう。中がカフェになってるんだよ」

 入ってみると、別世界だった。秋の初めなのに暖房が入っているみたいで、蒸すように暑い。でも不快なほどではない。いろんな色の鳥が枝枝を飛び交っている。見たことのない遠い国の木々。カラフルな甘い香りの花。

「きれい!」
「喜ぶと思った」

 ぐるっと一周、コースを回った。やしの木。タビビトの木という木は扇みたいな形で、必ず南を向いて生えて枝からは水が出るんだって。道標になった上に喉の渇きも潤してくれるから、旅人の木。繊細な細工のような花を咲かせるネムノキ。蛍のブースがあって、たくさんの蛍が点滅するのを見た。

「楽しい?」
「楽しい!」

 うずを巻くシダの仲間たち。湿った土のにおい。

「これで一周だよ。何か飲もうか」
「うん」

 つたの仲間が一面に這った、森の一部みたいなカフェで冷たいカフェオレを頼んだ。足元は苔。森の中にいるみたい。外の景色が見える。まだ雨がやまない。

「……それで、返事を期待してもいいのかな?」

 はっとした。あんまりにも植物園が初めてみるものばっかりで、夢中で忘れていた。


 いいことだと思う。お前にとってさ。

 だから。やってみろよ。


 ほんとに? バル……。本当にそう思う? 

 俺のこと何とも思ってないんだね……。

 バルはバディの俺しかいらないんだ。


「……俺」

 わかってたよね。あの時のあれはバルがにおいのせいでおかしくなってただけ。本当なら俺になんて最初から指一本触れないはずだったんだ。

 それなのにバルを。バルが。バルにそうして欲しいと思うのは……

「わがままだよ。何もできないし……それでもいい?」
「ヴェスタ」

 アラスターの手が俺の手を取った。温かい手。

「嬉しいよ。すごく」

 大丈夫。アラスターなら大丈夫。俺はアラスターが好き。それは間違いない。






しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖
BL
溺愛ドS社長×ツンデレ高校生。年の差恋愛。社長からの告白と束縛に戸惑う高校生。すれ違いばかりの片想いから恋人同士へ。ひねくれもの天使的な高校生と心を閉ざした会社社長との年の差BL。中山夏樹(18)は従姉妹の結婚式の2次会で、倒れてきた酔っ払いの下敷きになり左手に怪我を負った。助けてくれたのが、会場レストラン経営の黒崎ホールディングス代表取締役社長・黒崎圭一(33)。左手の抜糸がすむまで黒崎の車で送迎されることになった。黒崎は誰にも心を開かない。夏樹も同じである。しかしながら、夏樹は黒崎の前だけは自分の意思とは反対に、本音を吐き出す。2人は孤独を抱えており、夏樹は黒崎に惹かれていく。黒崎は夏樹に一目惚れし、執着する。

【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子
BL
 この世界は、αとβとΩで出来てる。  生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。  今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。    βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。  小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。  従って俺は戸籍上、β籍になっている。  あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。  俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。  今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。  だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。  だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。  学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。  どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。  『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。

処理中です...