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03 トライアル (2)エア・ランナー
02 Vesta (答え)
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次の週だった。その日は雨で、それまでなら飛行訓練はやめようかって連絡が来るような天気だった。でもその日はいつも通り、午前中にエアランナーが飛んできた。すごくドキドキした。
「もうヴェスタなら雨でもいいかなって」
アラスターはいつも通りだった。優しくて、いつも微笑んでいて、紳士的。普段通りに俺をコックピットに引き上げてくれて、フライトヘルメットを渡してくれた。雨。
「雨の時は視界が悪いからね。あと、飛んでみるとわかるけど重くなるよ」
「重くなる?」
「そう。やってみればわかる。全体的に動きが鈍くなる」
「離陸は普通でいい?」
「いいよ。でもいつもより力がいると思う」
操縦桿を握ってロックを外す。持った感じは変わらない。READY表示。離陸!
「わ、本当だ! 重い……」
動かないほどじゃないけど、重いと知っていなければ何かの異常なんじゃないかと思ったと思う。これで風があったりしたら俺には動かせない。なんとか浮く。
「上出来。どこに行こうかな?」
「これ、降りる時もこうなの?」
「そう。ゆっくり押さないとドンと落ちちゃう」
「そんな……」
アラスターが背中越しにモニタを押して目的地を入れる。いつもと同じなのにすごく緊張する。
「静かなところに行こうか。ちゃんとポートもあるよ」
オートに切り替わったランナーが進み始める。たしかにいくぶんゆっくりな感じ。街がけぶるように灰色に見える。雨粒ごしの風景。到着予定時刻は二十分後。
「いつもは警告音が出たら他のランナーの位置をモニタと目視で確認するけど、雨の日は目視がしづらいから注意してね。まあこんな日はあまり飛んでないけどね」
機体が発光している。雨の時と夜は自動で点灯するんだ。静かだ。ノイズのような雨音だけが聞こえる。翼が雨に打たれているのが窓から見える。
「最近は仕事はどうなの?」
アラスターが話しかけてくれる。これもいつもと同じ。
「うん、最近は平和って言うか……ルーティンばっかりやってる。人のサポートにも入れるようになったよ。来月から当直もしようねって」
「当直か。一人前だね」
「そうなのかな……アラスターは? 当直ないの?」
「あるよ。でもオンコールだから」
「オンコールって?」
「呼び出されたらすぐ出動するってこと。この前三人でゲームしてた時、あっただろう」
「あれか! 泊まりがけの当直はないの?」
「よほどあらかじめわかってる時はやるけどね。レプリカント人権保護局だとあまりないね。休みの日の救急搬送とかはレスキューセンターが受けるから」
そうなんだ。まだまだ知らないことがたくさんある。ポートが見えてきた。着陸しないと。ロックを外す。重い……けど離陸より楽だ。軟着陸。
「うまい」
「うまくいった!」
降りてみる。大きなガラスのドーム状の建物。中が見える。
「植物園?」
「そう。中がカフェになってるんだよ」
入ってみると、別世界だった。秋の初めなのに暖房が入っているみたいで、蒸すように暑い。でも不快なほどではない。いろんな色の鳥が枝枝を飛び交っている。見たことのない遠い国の木々。カラフルな甘い香りの花。
「きれい!」
「喜ぶと思った」
ぐるっと一周、コースを回った。やしの木。タビビトの木という木は扇みたいな形で、必ず南を向いて生えて枝からは水が出るんだって。道標になった上に喉の渇きも潤してくれるから、旅人の木。繊細な細工のような花を咲かせるネムノキ。蛍のブースがあって、たくさんの蛍が点滅するのを見た。
「楽しい?」
「楽しい!」
うずを巻くシダの仲間たち。湿った土のにおい。
「これで一周だよ。何か飲もうか」
「うん」
つたの仲間が一面に這った、森の一部みたいなカフェで冷たいカフェオレを頼んだ。足元は苔。森の中にいるみたい。外の景色が見える。まだ雨がやまない。
「……それで、返事を期待してもいいのかな?」
はっとした。あんまりにも植物園が初めてみるものばっかりで、夢中で忘れていた。
いいことだと思う。お前にとってさ。
だから。やってみろよ。
ほんとに? バル……。本当にそう思う?
俺のこと何とも思ってないんだね……。
バルはバディの俺しかいらないんだ。
「……俺」
わかってたよね。あの時のあれはバルがにおいのせいでおかしくなってただけ。本当なら俺になんて最初から指一本触れないはずだったんだ。
それなのにバルを。バルが。バルにそうして欲しいと思うのは……
「わがままだよ。何もできないし……それでもいい?」
「ヴェスタ」
アラスターの手が俺の手を取った。温かい手。
「嬉しいよ。すごく」
大丈夫。アラスターなら大丈夫。俺はアラスターが好き。それは間違いない。
「もうヴェスタなら雨でもいいかなって」
アラスターはいつも通りだった。優しくて、いつも微笑んでいて、紳士的。普段通りに俺をコックピットに引き上げてくれて、フライトヘルメットを渡してくれた。雨。
「雨の時は視界が悪いからね。あと、飛んでみるとわかるけど重くなるよ」
「重くなる?」
「そう。やってみればわかる。全体的に動きが鈍くなる」
「離陸は普通でいい?」
「いいよ。でもいつもより力がいると思う」
操縦桿を握ってロックを外す。持った感じは変わらない。READY表示。離陸!
「わ、本当だ! 重い……」
動かないほどじゃないけど、重いと知っていなければ何かの異常なんじゃないかと思ったと思う。これで風があったりしたら俺には動かせない。なんとか浮く。
「上出来。どこに行こうかな?」
「これ、降りる時もこうなの?」
「そう。ゆっくり押さないとドンと落ちちゃう」
「そんな……」
アラスターが背中越しにモニタを押して目的地を入れる。いつもと同じなのにすごく緊張する。
「静かなところに行こうか。ちゃんとポートもあるよ」
オートに切り替わったランナーが進み始める。たしかにいくぶんゆっくりな感じ。街がけぶるように灰色に見える。雨粒ごしの風景。到着予定時刻は二十分後。
「いつもは警告音が出たら他のランナーの位置をモニタと目視で確認するけど、雨の日は目視がしづらいから注意してね。まあこんな日はあまり飛んでないけどね」
機体が発光している。雨の時と夜は自動で点灯するんだ。静かだ。ノイズのような雨音だけが聞こえる。翼が雨に打たれているのが窓から見える。
「最近は仕事はどうなの?」
アラスターが話しかけてくれる。これもいつもと同じ。
「うん、最近は平和って言うか……ルーティンばっかりやってる。人のサポートにも入れるようになったよ。来月から当直もしようねって」
「当直か。一人前だね」
「そうなのかな……アラスターは? 当直ないの?」
「あるよ。でもオンコールだから」
「オンコールって?」
「呼び出されたらすぐ出動するってこと。この前三人でゲームしてた時、あっただろう」
「あれか! 泊まりがけの当直はないの?」
「よほどあらかじめわかってる時はやるけどね。レプリカント人権保護局だとあまりないね。休みの日の救急搬送とかはレスキューセンターが受けるから」
そうなんだ。まだまだ知らないことがたくさんある。ポートが見えてきた。着陸しないと。ロックを外す。重い……けど離陸より楽だ。軟着陸。
「うまい」
「うまくいった!」
降りてみる。大きなガラスのドーム状の建物。中が見える。
「植物園?」
「そう。中がカフェになってるんだよ」
入ってみると、別世界だった。秋の初めなのに暖房が入っているみたいで、蒸すように暑い。でも不快なほどではない。いろんな色の鳥が枝枝を飛び交っている。見たことのない遠い国の木々。カラフルな甘い香りの花。
「きれい!」
「喜ぶと思った」
ぐるっと一周、コースを回った。やしの木。タビビトの木という木は扇みたいな形で、必ず南を向いて生えて枝からは水が出るんだって。道標になった上に喉の渇きも潤してくれるから、旅人の木。繊細な細工のような花を咲かせるネムノキ。蛍のブースがあって、たくさんの蛍が点滅するのを見た。
「楽しい?」
「楽しい!」
うずを巻くシダの仲間たち。湿った土のにおい。
「これで一周だよ。何か飲もうか」
「うん」
つたの仲間が一面に這った、森の一部みたいなカフェで冷たいカフェオレを頼んだ。足元は苔。森の中にいるみたい。外の景色が見える。まだ雨がやまない。
「……それで、返事を期待してもいいのかな?」
はっとした。あんまりにも植物園が初めてみるものばっかりで、夢中で忘れていた。
いいことだと思う。お前にとってさ。
だから。やってみろよ。
ほんとに? バル……。本当にそう思う?
俺のこと何とも思ってないんだね……。
バルはバディの俺しかいらないんだ。
「……俺」
わかってたよね。あの時のあれはバルがにおいのせいでおかしくなってただけ。本当なら俺になんて最初から指一本触れないはずだったんだ。
それなのにバルを。バルが。バルにそうして欲しいと思うのは……
「わがままだよ。何もできないし……それでもいい?」
「ヴェスタ」
アラスターの手が俺の手を取った。温かい手。
「嬉しいよ。すごく」
大丈夫。アラスターなら大丈夫。俺はアラスターが好き。それは間違いない。
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