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03 トライアル (2)エア・ランナー
13 Baltroy (茶番)
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レイ・ウィリントン。製造は3年前。オーナーとは養子縁組をしている。息子扱い。そういう人も多い。下手に実子を持つよりも、レプリカントを養子にして家業や財産を継がせる。誰と結婚する必要もないし、レプリカントは裏切らないから。
皮肉だ。
もらった画像をもう一度眺める。そういうビジネスライクな縁だとしても、画像の中のレイは底抜けに明るい笑顔で笑っている。いい家族だったんだろう。まあ、そうでもないと一晩帰ってこないくらいで人権保護局に捜索依頼したりしない。
最悪なのは死んでるパターン。こういう時、画像照合の一回目は少しばかり緊張する。身元不明の遺体データが引っかからないようにと祈る。何枚かのデータがぱっと上がってくる。どうやら警察からのデータはない。
一番最近のを開いた。友人とやらの庭の画像。これが最後か……。この画像を撮った防犯カメラの録画を見てみる。レイが袋に入った果物か何かを持って友人宅のインターフォンを押す。誰かが家から出てきてそれを受け取る。レイもその人も軽く手を振って、レイは乗ってきたオートキャリアに、友人はそのまま家の中に。オートキャリアが走り出して画面から消えてしまう。終わり。
「うーん……」
この先。この先か。
「おい、ヴェスタ」
いつも通りヴェスタが隣に座る。録画を見せる。
「家出じゃない。この友人とやらに話を聞きに行く」
「どうして家出じゃないの?」
「家出ならこの後の映像も出てこないとおかしいだろ。街の方に行くだろうから」
「そっか。でもこの人だって行き先は知らないんじゃない?」
「友人とやらに聞きたいのはオーナーとレイの普段の関係だよ」
ヴェスタは返事をしない。髪はブルーに近い。
「ヴェスタ、どうした?」
「え」
「聞いてたか? 大丈夫か?」
「聞いてたよ! アポ取る。車もつけておくね」
ちょっと前までは緑の髪しか見ないレベルだったから、青みが強いと変な感じがする。いつからだ?
アラスターと付き合い始めてから?
馬鹿なことを考えるな。たまたまだ。単純に俺と仕事するのが嫌になってきたのかも知れない。これまでのバディみたいに。でもこればっかりは我慢してもらうしかない。2人で車でレイが最後に尋ねた家に行く。
「その日ね。サリムが、なんだっけな、まだ家にあるんだけど、外国の丸い大きな果物をくれてね。毎回なんだ。レイが代わりに届けに来てくれたんだよ。受け取ったらすぐに帰ったんだけど……」
「普段から行き来はあったんですか?」
「うん。サリムは仕事柄いろいろともらうらしくてね、よく分けてもらってたんだ。サリムが届けてくれることもあったし、レイが来てくれることもあったよ」
「お二人はどんなご関係に見えましたか? サリムさんとレイさんは」
「いや、仲良いよ。サリムはレイに会社も何もかも継がせるつもりで学校とかにも入れてやって。社会勉強ってね。レイも反抗したとか聞いたことないな。だってね、仲が悪かったら、サリムのおつかいなんてやるかい? やらないだろ?」
「そうですね。レイさんの行方に心当たりはありますか?」
「いやあ……。でも、どうなんだろう。自分が十代のころなんて、遊びたい盛りだっただろ。レプリカントがどうなのかわからないけど、一晩くらい帰らずに遊びに行くこともありそうだけどね」
「では、サリムさんが恨まれているようなことはありますか?」
「やだね……事件なのかい? サリムはねえ……思い当たらないな。でも社長だろ? 少しは恨まれたり妬まれたりしてるんじゃないのかい?」
「どう思う?」
ヴェスタがぼんやりしているので、公用車に戻ってから試しに聞いてみた。
「レイの行方?」
「お前は遊びたかったりすんの?」
「ヒューマンの人たちは年齢によって遊びたくなったりそうじゃなくなったりするの?」
「うーん、まあそうだ。十代二十代って、学校行って家に帰ってって時だからひまなんだな。外から与えられたものを否応なく片付けてくだけって時期だから、一番刺激が欲しくなるのかもしれない。レイは学校行ってたみたいだから、そういう時期だったかもな」
「仕事と何が違うの?」
「仕事はそれなりに結果を出さないといけない。自分でやり方を考えてさ。自分がやった仕事が誰かの人生を変えてしまうこともある。責任が違うだろ。学校のお勉強は点数はつくけど、変わるのは自分の人生だけだ」
「学校……」
「お前も行ってみたかったか? いきなり仕事に放り込んじゃったからな」
レプリカントは基本的な知識は全て培養中にインプットされている。だから通常なら学校には行かなくていい。余程専門的な知識を付けないといけない時だけ、大学に行ったり別途特別なデータをインストールしたりする。
レイが学校に行っていたというのは、集団生活や人とのコミュニケーションを体験させたかったのかも知れない。大切に育てていた感じがある。
なんだか知らないけどヴェスタの髪が緑色になってきた。少しほっとする。
「ううん。俺バルとすぐ仕事できて良かったと思う。やっと二年だろ。三年目か」
「そうだな。もっと長くやってる気になってたけど……まあいいや。脱線だな。社長の息子だ。誘拐かな?」
「レイはオートキャリアで一旦家に戻ったのかな? そのままオートキャリアを止められるなりして捕まったのかな?」
「それ調べてみよう。サリムの家くらいなら、自分の家に防犯カメラを入れてるかもしれない」
局に戻る頃には、ヴェスタの髪はすっかり緑色になっていた。アラスターが通りかかって手を振った。俺はパーティ以来だけど、ヴェスタは週末にも会ってるはずだった。
「よう、なんだか久しぶりだな」
「そうだね、ゲームも全然進まないね」
「今度また行こう。今から出動?」
「そう。今日はフォルタのコンビのとこ」
「気をつけてな」
「うん。じゃあね、バル、ヴェスタ」
アラスターがヴェスタのほおに少しだけ触れて、ポートに向かって行った。
さて。サリムにコールする。
『何かわかりましたか?』
「今のところはまだ何も。本人から連絡はありませんか?」
『ありません。学校にもないようです』
「確認したいことがありまして。お宅には防犯カメラはついてますか?」
『玄関先と裏口に付いています。録画をすぐに送ります』
「助かります。それから、レイさんの通われていた学校を教えていただけますか? 念のため」
誘拐………。
「バルは誘拐だと思う?」
「うーん」
「あんまり思ってないんだ」
「だって一晩経っても要求がないってな。それに……」
「それに?」
「お前には言いたくないけど、レプリカントを誘拐しても身代金が払われる確率が低いんだよ。また買えるだろ? 身代金が払えるような人はさ。他に何かあるって感じでもないし……」
「じゃあ家出?」
「街の防犯カメラがないような僻地に家出……ぴんとこないな」
「どっちもなし?」
「じゃあなんだよって話だな」
「監禁されてるとか……事故って動けない?」
「お。その発想はなかった。まず録画見てみるか」
録画は人感センサーがついたカメラだったので、ただ見ているだけでちゃんとレイが出てきた。袋を持って出かけるレイ。家の前についたオートキャリアに乗る。時間が飛んで二時間後の動画。レイが帰ってきた。
「帰ってきたんだ」
家の中に入る。大きめの使い込まれたリュックを持ち、また出て行く。その後、また時間が飛んでサリムが帰ってくる。翌日以降にレイの姿はない。
「何時?」
「三時半。まあ、出かけてもおかしくない時間」
「画像になる?」
「なる」
家から出て行くレイの部分を抽出して画像データに変換する。
「この格好だと、ヒューマンならどこに行きそうな感じ?」
「んー、学生だろ。学校かゲーセンか、どっか溜まり場」
「で、街の防犯カメラがないところはどこ?」
「学校。さすが」
ヴェスタが少しはにかんだ。
学校の区画には街の防犯カメラはない。その代わり、学校が設置した見守りカメラがあって、それなりの機関から請求すれば見せてもらえる。
「どうして?」
「学生の未来を守るため。学校は自治機関だから、余程のことがないと警察も介入できない。前科がついてしまうだろ。ある程度の犯罪なら学内で処理して履歴に残さない」
「ある程度ってどのくらい?」
「禁止薬物のうち常習性の低いものの使用、窃盗、剽窃、軽微な加害行為……まあいじめとか」
「犯罪じゃん。前科つけて欲しい」
「その話は昔から争点になってる。でもやるのはたいてい権力者の子供だから。いつも立ち消え」
聞いておいたレイの通う私立高校に照会をかける。かなりの有名高だ。ただ、決裁がいると言われて申請から二日後に録画が送られてきた。消えた日の三時半からチェックする。
「いない」
四倍速で見るが、それらしい姿はない。
翌朝の録画。たくさんの生徒たちがぞろぞろと学校に吸い込まれていく。でもレイはいない。帰りの時間にも。
「バル、学校じゃないってことだよね。他の……」
「……まだわからない。全部見る」
「本気? 半日分の録画だけど、校門と駐車場と校舎内各所と……延べで何時間?」
「さあな。大丈夫だ。全部見る前になんとかなるだろ、多分」
「いかにもバルと俺の仕事って感じ」
「そりゃそうだろ。俺とお前の仕事だ」
「ふふっ」
かなり飛ばしながら。消えた当日の夜中までだ。12時で録画も切り替わる。校舎内は後回しにして、校門や裏口の辺りから手をつける。レイの姿はない。
「そっちにはあったか?」
「ない。でも……」
ヴェスタが緑の髪で顔を上げた。
「録画の長さがおかしい」
「長さ?」
「三時半から十二時まで。八時間半あるはずだろ。でも駐車場の動画は……」
「何時間?」
「七時間」
ほかのも見る。正門の録画。八時間ちょっとしかない。体育館のも。誰かがカットしてるんだ。なぜ?
「隠蔽しようとしてるわけだ。この録画に映ってたやつを。レイの件で依頼してこの動画が出てくるってことは、十中八九レイがらみの部分を二日かけて削ったってことだな」
「これって何か罪になる? どんな罪になる?」
「そりゃ。公益に対する証拠隠滅罪だよ。レイの件がなくたって学校に令状が出せる。よく気づいたな、えらいぞヴェスタ!」
夜中になっていた。明日。もう四日目になってしまう。
翌日、始業時間から学校に乗り込んだ。幸い校長はいたので話はついた。これで断ると校長が警察から逮捕されることになるからだ。レイがまだ学校にいるとしたら、消されていた時間が一番長かった駐車場だろう。
「どこから調べる?」
「ま、一箇所しかないよな」
駐車場のはしの、ぼろぼろのオートキャリアのドアを蹴り開ける。殴られてボコボコのレイが出てきた。
「呼吸確認」
「被害者確保。検査室……救急かな。ユミンにコールして」
かなり怪我がひどいし、四日間こんなところに閉じ込められていたら脱水が起こっているだろう。ヴェスタがブリングでユミンに状態を診せる。
『四日? だめだめ。検査室では足りない。エアランナーで病院に連れて行く。こっちからすぐ向かわせるから』
「どうして? 誰がこんなことするの?」
「どうしてだと思う? びっくりするようなくだらないことだと思うね、俺は」
五分ほどでエアランナーが降りてくる。アラスターだ。搬送用のストレッチャーが入るやつ。
「昨日に引き続き?」
「バルとヴェスタの現場っていうからもらったんだ」
ゆっくりレイをストレッチャーに移してエアランナーに載せる。とりあえずできることはやった。
「あとは? 学校の逮捕? 犯人の逮捕?」
「残念ながら……たぶんそうはならない」
「どうして?」
「すぐにわかる」
職員室に行き、録画の編集をやったのはだれか尋ねた。委託先の警備の担当者と言われる。でもその日は出勤していなかった。自宅まで話を聞きに行くと、そいつは学校から指示があったと言った。ある生徒たちの映っているシーンをカットしてから渡すように。
学校に改めて問い合わせると、学校からは数日後に文書でそんな事実はないと回答が来た。その間に実際に録画をいじった担当者は、自分が出来心でやったと証言を翻した。たぶんいろんなところからいろんなものを握らされて、罪を被ることにしたんだろう。様式美ってやつ。
「犯人はわからないの?」
「わからない。本人に聞くしかない。依頼者に連絡しよう。搬送先を確認しないとな」
皮肉だ。
もらった画像をもう一度眺める。そういうビジネスライクな縁だとしても、画像の中のレイは底抜けに明るい笑顔で笑っている。いい家族だったんだろう。まあ、そうでもないと一晩帰ってこないくらいで人権保護局に捜索依頼したりしない。
最悪なのは死んでるパターン。こういう時、画像照合の一回目は少しばかり緊張する。身元不明の遺体データが引っかからないようにと祈る。何枚かのデータがぱっと上がってくる。どうやら警察からのデータはない。
一番最近のを開いた。友人とやらの庭の画像。これが最後か……。この画像を撮った防犯カメラの録画を見てみる。レイが袋に入った果物か何かを持って友人宅のインターフォンを押す。誰かが家から出てきてそれを受け取る。レイもその人も軽く手を振って、レイは乗ってきたオートキャリアに、友人はそのまま家の中に。オートキャリアが走り出して画面から消えてしまう。終わり。
「うーん……」
この先。この先か。
「おい、ヴェスタ」
いつも通りヴェスタが隣に座る。録画を見せる。
「家出じゃない。この友人とやらに話を聞きに行く」
「どうして家出じゃないの?」
「家出ならこの後の映像も出てこないとおかしいだろ。街の方に行くだろうから」
「そっか。でもこの人だって行き先は知らないんじゃない?」
「友人とやらに聞きたいのはオーナーとレイの普段の関係だよ」
ヴェスタは返事をしない。髪はブルーに近い。
「ヴェスタ、どうした?」
「え」
「聞いてたか? 大丈夫か?」
「聞いてたよ! アポ取る。車もつけておくね」
ちょっと前までは緑の髪しか見ないレベルだったから、青みが強いと変な感じがする。いつからだ?
アラスターと付き合い始めてから?
馬鹿なことを考えるな。たまたまだ。単純に俺と仕事するのが嫌になってきたのかも知れない。これまでのバディみたいに。でもこればっかりは我慢してもらうしかない。2人で車でレイが最後に尋ねた家に行く。
「その日ね。サリムが、なんだっけな、まだ家にあるんだけど、外国の丸い大きな果物をくれてね。毎回なんだ。レイが代わりに届けに来てくれたんだよ。受け取ったらすぐに帰ったんだけど……」
「普段から行き来はあったんですか?」
「うん。サリムは仕事柄いろいろともらうらしくてね、よく分けてもらってたんだ。サリムが届けてくれることもあったし、レイが来てくれることもあったよ」
「お二人はどんなご関係に見えましたか? サリムさんとレイさんは」
「いや、仲良いよ。サリムはレイに会社も何もかも継がせるつもりで学校とかにも入れてやって。社会勉強ってね。レイも反抗したとか聞いたことないな。だってね、仲が悪かったら、サリムのおつかいなんてやるかい? やらないだろ?」
「そうですね。レイさんの行方に心当たりはありますか?」
「いやあ……。でも、どうなんだろう。自分が十代のころなんて、遊びたい盛りだっただろ。レプリカントがどうなのかわからないけど、一晩くらい帰らずに遊びに行くこともありそうだけどね」
「では、サリムさんが恨まれているようなことはありますか?」
「やだね……事件なのかい? サリムはねえ……思い当たらないな。でも社長だろ? 少しは恨まれたり妬まれたりしてるんじゃないのかい?」
「どう思う?」
ヴェスタがぼんやりしているので、公用車に戻ってから試しに聞いてみた。
「レイの行方?」
「お前は遊びたかったりすんの?」
「ヒューマンの人たちは年齢によって遊びたくなったりそうじゃなくなったりするの?」
「うーん、まあそうだ。十代二十代って、学校行って家に帰ってって時だからひまなんだな。外から与えられたものを否応なく片付けてくだけって時期だから、一番刺激が欲しくなるのかもしれない。レイは学校行ってたみたいだから、そういう時期だったかもな」
「仕事と何が違うの?」
「仕事はそれなりに結果を出さないといけない。自分でやり方を考えてさ。自分がやった仕事が誰かの人生を変えてしまうこともある。責任が違うだろ。学校のお勉強は点数はつくけど、変わるのは自分の人生だけだ」
「学校……」
「お前も行ってみたかったか? いきなり仕事に放り込んじゃったからな」
レプリカントは基本的な知識は全て培養中にインプットされている。だから通常なら学校には行かなくていい。余程専門的な知識を付けないといけない時だけ、大学に行ったり別途特別なデータをインストールしたりする。
レイが学校に行っていたというのは、集団生活や人とのコミュニケーションを体験させたかったのかも知れない。大切に育てていた感じがある。
なんだか知らないけどヴェスタの髪が緑色になってきた。少しほっとする。
「ううん。俺バルとすぐ仕事できて良かったと思う。やっと二年だろ。三年目か」
「そうだな。もっと長くやってる気になってたけど……まあいいや。脱線だな。社長の息子だ。誘拐かな?」
「レイはオートキャリアで一旦家に戻ったのかな? そのままオートキャリアを止められるなりして捕まったのかな?」
「それ調べてみよう。サリムの家くらいなら、自分の家に防犯カメラを入れてるかもしれない」
局に戻る頃には、ヴェスタの髪はすっかり緑色になっていた。アラスターが通りかかって手を振った。俺はパーティ以来だけど、ヴェスタは週末にも会ってるはずだった。
「よう、なんだか久しぶりだな」
「そうだね、ゲームも全然進まないね」
「今度また行こう。今から出動?」
「そう。今日はフォルタのコンビのとこ」
「気をつけてな」
「うん。じゃあね、バル、ヴェスタ」
アラスターがヴェスタのほおに少しだけ触れて、ポートに向かって行った。
さて。サリムにコールする。
『何かわかりましたか?』
「今のところはまだ何も。本人から連絡はありませんか?」
『ありません。学校にもないようです』
「確認したいことがありまして。お宅には防犯カメラはついてますか?」
『玄関先と裏口に付いています。録画をすぐに送ります』
「助かります。それから、レイさんの通われていた学校を教えていただけますか? 念のため」
誘拐………。
「バルは誘拐だと思う?」
「うーん」
「あんまり思ってないんだ」
「だって一晩経っても要求がないってな。それに……」
「それに?」
「お前には言いたくないけど、レプリカントを誘拐しても身代金が払われる確率が低いんだよ。また買えるだろ? 身代金が払えるような人はさ。他に何かあるって感じでもないし……」
「じゃあ家出?」
「街の防犯カメラがないような僻地に家出……ぴんとこないな」
「どっちもなし?」
「じゃあなんだよって話だな」
「監禁されてるとか……事故って動けない?」
「お。その発想はなかった。まず録画見てみるか」
録画は人感センサーがついたカメラだったので、ただ見ているだけでちゃんとレイが出てきた。袋を持って出かけるレイ。家の前についたオートキャリアに乗る。時間が飛んで二時間後の動画。レイが帰ってきた。
「帰ってきたんだ」
家の中に入る。大きめの使い込まれたリュックを持ち、また出て行く。その後、また時間が飛んでサリムが帰ってくる。翌日以降にレイの姿はない。
「何時?」
「三時半。まあ、出かけてもおかしくない時間」
「画像になる?」
「なる」
家から出て行くレイの部分を抽出して画像データに変換する。
「この格好だと、ヒューマンならどこに行きそうな感じ?」
「んー、学生だろ。学校かゲーセンか、どっか溜まり場」
「で、街の防犯カメラがないところはどこ?」
「学校。さすが」
ヴェスタが少しはにかんだ。
学校の区画には街の防犯カメラはない。その代わり、学校が設置した見守りカメラがあって、それなりの機関から請求すれば見せてもらえる。
「どうして?」
「学生の未来を守るため。学校は自治機関だから、余程のことがないと警察も介入できない。前科がついてしまうだろ。ある程度の犯罪なら学内で処理して履歴に残さない」
「ある程度ってどのくらい?」
「禁止薬物のうち常習性の低いものの使用、窃盗、剽窃、軽微な加害行為……まあいじめとか」
「犯罪じゃん。前科つけて欲しい」
「その話は昔から争点になってる。でもやるのはたいてい権力者の子供だから。いつも立ち消え」
聞いておいたレイの通う私立高校に照会をかける。かなりの有名高だ。ただ、決裁がいると言われて申請から二日後に録画が送られてきた。消えた日の三時半からチェックする。
「いない」
四倍速で見るが、それらしい姿はない。
翌朝の録画。たくさんの生徒たちがぞろぞろと学校に吸い込まれていく。でもレイはいない。帰りの時間にも。
「バル、学校じゃないってことだよね。他の……」
「……まだわからない。全部見る」
「本気? 半日分の録画だけど、校門と駐車場と校舎内各所と……延べで何時間?」
「さあな。大丈夫だ。全部見る前になんとかなるだろ、多分」
「いかにもバルと俺の仕事って感じ」
「そりゃそうだろ。俺とお前の仕事だ」
「ふふっ」
かなり飛ばしながら。消えた当日の夜中までだ。12時で録画も切り替わる。校舎内は後回しにして、校門や裏口の辺りから手をつける。レイの姿はない。
「そっちにはあったか?」
「ない。でも……」
ヴェスタが緑の髪で顔を上げた。
「録画の長さがおかしい」
「長さ?」
「三時半から十二時まで。八時間半あるはずだろ。でも駐車場の動画は……」
「何時間?」
「七時間」
ほかのも見る。正門の録画。八時間ちょっとしかない。体育館のも。誰かがカットしてるんだ。なぜ?
「隠蔽しようとしてるわけだ。この録画に映ってたやつを。レイの件で依頼してこの動画が出てくるってことは、十中八九レイがらみの部分を二日かけて削ったってことだな」
「これって何か罪になる? どんな罪になる?」
「そりゃ。公益に対する証拠隠滅罪だよ。レイの件がなくたって学校に令状が出せる。よく気づいたな、えらいぞヴェスタ!」
夜中になっていた。明日。もう四日目になってしまう。
翌日、始業時間から学校に乗り込んだ。幸い校長はいたので話はついた。これで断ると校長が警察から逮捕されることになるからだ。レイがまだ学校にいるとしたら、消されていた時間が一番長かった駐車場だろう。
「どこから調べる?」
「ま、一箇所しかないよな」
駐車場のはしの、ぼろぼろのオートキャリアのドアを蹴り開ける。殴られてボコボコのレイが出てきた。
「呼吸確認」
「被害者確保。検査室……救急かな。ユミンにコールして」
かなり怪我がひどいし、四日間こんなところに閉じ込められていたら脱水が起こっているだろう。ヴェスタがブリングでユミンに状態を診せる。
『四日? だめだめ。検査室では足りない。エアランナーで病院に連れて行く。こっちからすぐ向かわせるから』
「どうして? 誰がこんなことするの?」
「どうしてだと思う? びっくりするようなくだらないことだと思うね、俺は」
五分ほどでエアランナーが降りてくる。アラスターだ。搬送用のストレッチャーが入るやつ。
「昨日に引き続き?」
「バルとヴェスタの現場っていうからもらったんだ」
ゆっくりレイをストレッチャーに移してエアランナーに載せる。とりあえずできることはやった。
「あとは? 学校の逮捕? 犯人の逮捕?」
「残念ながら……たぶんそうはならない」
「どうして?」
「すぐにわかる」
職員室に行き、録画の編集をやったのはだれか尋ねた。委託先の警備の担当者と言われる。でもその日は出勤していなかった。自宅まで話を聞きに行くと、そいつは学校から指示があったと言った。ある生徒たちの映っているシーンをカットしてから渡すように。
学校に改めて問い合わせると、学校からは数日後に文書でそんな事実はないと回答が来た。その間に実際に録画をいじった担当者は、自分が出来心でやったと証言を翻した。たぶんいろんなところからいろんなものを握らされて、罪を被ることにしたんだろう。様式美ってやつ。
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