Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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04 (e)VAC(u)ATION

04 Vesta (置き去り)

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 その日は珍しく、俺だけデスクに残ってバルは外回りに出ていた。裁判所に届けないといけない物品があったからだ。受け渡しにバルのサインが必要なやつで、俺が行くわけにいかなかった。

 一人でコールしていると、受付からコールが回ってきた。

『A492090rpに面会希望の方がいらしています』
「今外出しているので、俺が代わりに受けます」

 バルに面会? 解決したケースの関係者かな? 

 ロビーに行くと、ほっそりしたシルエットの女性が立っていた。

 あっと思った。

 女性化した時のバルにそっくりだ。バルほど背は高くない。整えたばかりといった印象のボブの黒い髪。バルが女性化した時はワイルドな印象が抜けなかったけど、この人はすごく洗練されている。似ているのに全く違う。

「A492090rpの副担当官のC571098rpです。本人は今外出中です。どういったご用件でしょうか」
「バルはいないの?」
「はい。今は不在です」
「じゃあ自宅を教えて」
「個人情報なのでお知らせできません」

 女性はあからさまにむっとした顔をした。

「私はバルの母親なの。自宅を教えなさい」

 母親! 血縁だろうとは思ったけど。バルとあまり年齢が変わらなく見える。

「申し訳ありません。ご家族でも本人からしかお知らせできないことになっております」
「副担当官? 小間使いの間違いじゃないの? 役に立たない子」

 女性はくるりと身を翻し、まるでランウェイを歩くように素晴らしいウォークで去っていった。

「…………」

 役に立たない子………。

 しかもバルの母親に言われた。最近一番のショックだった。ふらふらとデスクに戻って、コールの続きをしていたらバルが戻ってきた。

「ただいま……どうした? 誰かに何か言われたか?」
「あ……え?」

 髪が真っ青だった。こんなに青くなるのは久しぶりだった。

「バルがいない間にさ、バルが女の人になってた時とそっくりな人が来たんだ。バルのお母さんだって本人は言ってたんだけど」
「……来たのか」
「住所教えてって言うから、教えられないって言った」
「嫌な思いしただろ。悪かったな」

 バルは俺が何を言われたのか分かってるみたいに言った。

「今緊急で解決しないといけないのはないよな?」
「ない。さっきまでルーティンのコールしてたけど何もない」
「悪いけど、俺しばらく休むわ」
「……え」
「夏のバケーションも取ってない。とりあえずあれ消化する。二週間だな」
「そ………」
「たぶんまた来ると思うけど、今日みたいにいなしといてくれ。お前も一緒に取っちまうか?」
「……や」
「まあいいや。俺、家にも帰らないからそのつもりでいろよ。午後からいなくなるからな」
「バル……」

 は?

 バルがすぐに有休とバケーションの申請をして、端末の電源を落とした。ブリングだけ抱える。

「なるべく連絡してくるな。どこから足が着くかわからないからな。尾行に気をつけろ………まあ、俺と同居してるとは思わないかな」
「待って! バル………」

 どこに行くの? なんで? 俺は?

「お前がアラスターと付き合ってる時だったら安心だったんだけどな。何かあったらコールして来てもいいけど、必ず誰にも見られないところからしろ。盗聴器にも気をつけろよ。念のためザムザとアラスターにも言っとくけど。家にいられないような事があったら、BCストリートのコインフリッパーズ・カフェって店に行け。俺の友達がやってる。マップ送る」

 わけを教えてほしい。行かないで。ひとりにしないで。

「じゃ。俺からはそんなに連絡できないからな」

 バルはさっと局から出て行ってしまった。全く状況が理解できない俺だけを残して。二週間? バルがいないの? 家にもここにも? そんなのは初めてだ。バルと別々に暮らしてる時だって、局で昼間に会ってた。そんな………。

 頭がぐわんぐわんと痛んだ。何が起こっているのかさっぱりわからない。本当に?

 仕事を曲がりなりにも終えて、家に戻ってみたけど、やっぱりバルはいなかった。がらんとした家。

「おかえりなさい、ヴェスタ」
「ただいま、あのねレッダ、バルから何か連絡来てない?」
「二週間はヴェスタしかいないと聞きました」
「なんで? わけを知らない?」
「個人的な情報はお知らせできないことになっているんです」
「知ってるんだね?」
「バルに似て来ましたね。揚げ足の取り方が」
「本当に………困ってるんだよ。知ってるなら教えてって」
「じゃあ、個人的な情報ではなくて普遍的な事実なら。世の中の母親というのは須く聖母であるということはないし、子も須く母親を愛するわけではないということです」
「バルとバルのお母さんは仲が悪いんだね?」
「さあどうでしょう。夕食にしますか?」
「やっぱりレッダはバルに似てるよね」
「お互い様ですね」

 寂しい。でもバルが困るのなら言うことを聞くしかない。大丈夫。今回は別に殺人鬼に会いに行ってるわけじゃないんだから。お母さんに会いたくないだけ。バケーションだ。どこかでくつろいでいてくれるといい………。

「あーあ……俺も一緒に休暇取るって言えば良かった……」
「バルがあなたを同行させるとは限りませんよ」
「う……」
 






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