119 / 229
04 (e)VAC(u)ATION
03 Vesta (酔う)
しおりを挟む
「かんぱーい」
ザムザの音頭でみんなが最初の一杯を飲み干す。どんと空のグラスをテーブルに置く。
「わー! 回る」
「お前こういうの初めてだろ」
バルに言われて初めて気がついた。言われてみればそうだった。ザムザと二人でお酒を飲みながら食事したり、バルと家で食後にちょっと飲んだりはしたけど、みんなで飲み会ってしたことがない。お腹が減ってるからすぐに酔う。
「ヴェスタは結構飲むんだよなーこの顔で」
「顔は関係ないだろ」
普通のパブでの飲み会。バルは大丈夫かな? 今のところ平気そうな顔をしている。
「レップの勝ちかぁ」
ウジャトが悔しそうに言った。
「レップ?」
「レプリカント・ライツ・プロテクション・エージェンシー(レプリカント人権保護局)。レップ」
「ウジャト、こういうのは勝ち負けじゃないって言ってるだろ。相手は時間だ。どれだけ犯人逮捕までの時間を短縮できたかが一番大事。バルトロイとヴェスタを巻き込んで良かっただろ?」
ヒューマンとレプリカントの連続殺人事件を解決した打ち上げだった。犯人は16歳の少年。バルが並のヒューマンなら三回は殺されてるような傷を負わせられながらも逮捕にこぎつけた。
「何よりバルトロイ様様でした。女装して囮になってくれた上に」
「女装を強調すんなよ。お前らのせいだろ」
「一時は死にかけるほどの怪我までして」
「何で警察は来なかったんだ?」
「警察の方にあのアパートの情報が行ってなくて、空き家扱いになってたんだ。だから誤報だと思ったらしい。俺たちに照会が来てたけど俺たちはもう出た後で……」
「やれやれ」
逮捕の日、バルは俺が刺されそうになったのを庇って、犯人から刃渡り8センチのナイフで背中から刺された。俺がそれを抜いた。肺の損傷と大量の出血で本当に死ぬところだった。でもバルはそのことを一言も言わず、おかげで俺は誰からも責められなかった。
たぶんそれが局長の耳に入っていたら、またバディを変える話になったと思う。
「バルトロイがまさかのハイブリッドだったとはなあ」
「言うなよ。もう珍獣扱いはうんざりなんだ」
今回の件でバルの体質のことはザムザやウジャトにもバレてしまった。3リットルの出血が翌日には完治してるなんて、普通ならありえないから。
「両方絶滅危惧種のコンビだったわけだ」
ウジャトが口を挟んだ。何こいつ。ずっとこうなの?
「なんでウジャトはいつもそうなの? 失礼だよね」
「ごめん。ヴェスタ」
謝ったのはザムザだった。なんで?
「こいつ、前からそうなんだ。お前と組んだ時も、こいつ、上司に生意気言って研修に回されてたんだ。俺が躾けてるんだけど全然学ばなくて」
「そんなの、本人の責任だろ。ザムザが謝るのはおかしい」
「……ヴェスタ、酔ってる?」
「酔ってない!」
「たまにヴェスタも暴発するんだ。微妙なとこだな、酔ってるかもしれない」
今度はバルが口を挟んだ。まだそんなに酔ってないと言いかけた時、ウジャトがどんとグラスの底をテーブルに叩きつけた。
「なんだよ。ハイブリッドのバディ頼みのレプリカントのくせに」
「ウジャト!」
「お前なんか、囮にさえなれないでオタオタしてただけのくせに!」
「………」
言葉が出なかった。髪が青白くなるのがわかった。一気に酔いが覚めた。俺が、バルが囮になれば、なんて軽口を言ったから、バルは刺されることになった。俺が囮になれば良かったのに。
「おい」
バルだった。
「もう一回言ってみろよ。そのレプリカントの助けがなかったらもう一人二人殺してただろ? お前らにとってはレプリカントなんか被害者のうちに入りませんてか?」
「お前らに頼まなくても……」
「解決できた? 俺らに話を持ってきた時点で四人殺されてたやつに言われたくないね」
「それは……」
「黙れウジャト!」
ザムザが初めて見るような顔でウジャトを叱りつけた。
「ウジャト。お前少し頭を冷やせよ。本当ならこっちが土下座して謝らないといけないとこなんだ。バルトロイに怪我させたことも、警察に連絡がちゃんと行かなかったことも」
ウジャトは顔を赤くして席を立ち、椅子を蹴るようにして出て行ってしまった。なんかもう、めちゃくちゃだ……。
「ごめん。俺が余計なこと」
「ヴェスタのせいではない。ウジャトはちょっと……難しいんだ。悪く思うなとは言わないよ。腹が立って当たり前だと思う。あいつは旧家の生まれでプライドが高くて、なまじそこそこできるもんだから反省できないんだな。自分が絶対正義なとこがあって」
「首にしろ」
バルがあんな風に怒ったのを初めて見た。むっとしたりイラッとしてるなっていう時は結構あったけど、こんなに露骨に人に怒ったのは。怒ってくれたんだ。
「ふふ。ヴェスタ、髪が忙しいな。どうなってんの?」
エメラルドグリーンになっている。ザムザは条件を知らないから、ただ変わってると思ってるだろう。ウジャトは結局席に戻ってこなかった。
「あれの面倒見ないといけないんじゃザムザも大変だな」
帰りのオートキャリアの中でバルが言った。でもウジャトから言われたことは真実だった。ウジャトはいつも痛いところを突く。バルがやり返してくれなかったら、俺には何も言えなかった。
「ありがとう。ごめん」
「あのな」
バルが俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「お前はよくやってる。誰からもあんな言われ方をされるいわれはない」
「刺されたのだって俺のせいだ」
「違う。あれはまず初手を間違った俺が悪い。素人にやられてベッドルームに逃げ込んでたなんてのは俺の恥だ」
「そうじゃなくて。俺が、バルが囮になるって言ったんだなんて……」
「実際言っただろ。俺が。気にすんなよ。結果的に全部うまくいった」
バルを見上げた。黒曜石みたいな瞳。
「飲み直すか?」
「ふふ」
思わずバルの肩に顔を伏せた。優しいよね。ほんと。ぽんぽんと頭を大きな手が軽く叩く。俺が元気になったのわかってるだろ? 髪がこんなに緑になっている。あーあ。死ぬほど好き。心臓が止まりそうなくらい好き。
「ごめんね。俺がんばるからさ。ウジャトみたいなやつも何も言えなくなるくらい」
「今度は『絶滅危惧種コンビ』か。色んな言い方があるな」
「はは」
酔ったふりしてそのまま家までバルにもたれていた。
ザムザの音頭でみんなが最初の一杯を飲み干す。どんと空のグラスをテーブルに置く。
「わー! 回る」
「お前こういうの初めてだろ」
バルに言われて初めて気がついた。言われてみればそうだった。ザムザと二人でお酒を飲みながら食事したり、バルと家で食後にちょっと飲んだりはしたけど、みんなで飲み会ってしたことがない。お腹が減ってるからすぐに酔う。
「ヴェスタは結構飲むんだよなーこの顔で」
「顔は関係ないだろ」
普通のパブでの飲み会。バルは大丈夫かな? 今のところ平気そうな顔をしている。
「レップの勝ちかぁ」
ウジャトが悔しそうに言った。
「レップ?」
「レプリカント・ライツ・プロテクション・エージェンシー(レプリカント人権保護局)。レップ」
「ウジャト、こういうのは勝ち負けじゃないって言ってるだろ。相手は時間だ。どれだけ犯人逮捕までの時間を短縮できたかが一番大事。バルトロイとヴェスタを巻き込んで良かっただろ?」
ヒューマンとレプリカントの連続殺人事件を解決した打ち上げだった。犯人は16歳の少年。バルが並のヒューマンなら三回は殺されてるような傷を負わせられながらも逮捕にこぎつけた。
「何よりバルトロイ様様でした。女装して囮になってくれた上に」
「女装を強調すんなよ。お前らのせいだろ」
「一時は死にかけるほどの怪我までして」
「何で警察は来なかったんだ?」
「警察の方にあのアパートの情報が行ってなくて、空き家扱いになってたんだ。だから誤報だと思ったらしい。俺たちに照会が来てたけど俺たちはもう出た後で……」
「やれやれ」
逮捕の日、バルは俺が刺されそうになったのを庇って、犯人から刃渡り8センチのナイフで背中から刺された。俺がそれを抜いた。肺の損傷と大量の出血で本当に死ぬところだった。でもバルはそのことを一言も言わず、おかげで俺は誰からも責められなかった。
たぶんそれが局長の耳に入っていたら、またバディを変える話になったと思う。
「バルトロイがまさかのハイブリッドだったとはなあ」
「言うなよ。もう珍獣扱いはうんざりなんだ」
今回の件でバルの体質のことはザムザやウジャトにもバレてしまった。3リットルの出血が翌日には完治してるなんて、普通ならありえないから。
「両方絶滅危惧種のコンビだったわけだ」
ウジャトが口を挟んだ。何こいつ。ずっとこうなの?
「なんでウジャトはいつもそうなの? 失礼だよね」
「ごめん。ヴェスタ」
謝ったのはザムザだった。なんで?
「こいつ、前からそうなんだ。お前と組んだ時も、こいつ、上司に生意気言って研修に回されてたんだ。俺が躾けてるんだけど全然学ばなくて」
「そんなの、本人の責任だろ。ザムザが謝るのはおかしい」
「……ヴェスタ、酔ってる?」
「酔ってない!」
「たまにヴェスタも暴発するんだ。微妙なとこだな、酔ってるかもしれない」
今度はバルが口を挟んだ。まだそんなに酔ってないと言いかけた時、ウジャトがどんとグラスの底をテーブルに叩きつけた。
「なんだよ。ハイブリッドのバディ頼みのレプリカントのくせに」
「ウジャト!」
「お前なんか、囮にさえなれないでオタオタしてただけのくせに!」
「………」
言葉が出なかった。髪が青白くなるのがわかった。一気に酔いが覚めた。俺が、バルが囮になれば、なんて軽口を言ったから、バルは刺されることになった。俺が囮になれば良かったのに。
「おい」
バルだった。
「もう一回言ってみろよ。そのレプリカントの助けがなかったらもう一人二人殺してただろ? お前らにとってはレプリカントなんか被害者のうちに入りませんてか?」
「お前らに頼まなくても……」
「解決できた? 俺らに話を持ってきた時点で四人殺されてたやつに言われたくないね」
「それは……」
「黙れウジャト!」
ザムザが初めて見るような顔でウジャトを叱りつけた。
「ウジャト。お前少し頭を冷やせよ。本当ならこっちが土下座して謝らないといけないとこなんだ。バルトロイに怪我させたことも、警察に連絡がちゃんと行かなかったことも」
ウジャトは顔を赤くして席を立ち、椅子を蹴るようにして出て行ってしまった。なんかもう、めちゃくちゃだ……。
「ごめん。俺が余計なこと」
「ヴェスタのせいではない。ウジャトはちょっと……難しいんだ。悪く思うなとは言わないよ。腹が立って当たり前だと思う。あいつは旧家の生まれでプライドが高くて、なまじそこそこできるもんだから反省できないんだな。自分が絶対正義なとこがあって」
「首にしろ」
バルがあんな風に怒ったのを初めて見た。むっとしたりイラッとしてるなっていう時は結構あったけど、こんなに露骨に人に怒ったのは。怒ってくれたんだ。
「ふふ。ヴェスタ、髪が忙しいな。どうなってんの?」
エメラルドグリーンになっている。ザムザは条件を知らないから、ただ変わってると思ってるだろう。ウジャトは結局席に戻ってこなかった。
「あれの面倒見ないといけないんじゃザムザも大変だな」
帰りのオートキャリアの中でバルが言った。でもウジャトから言われたことは真実だった。ウジャトはいつも痛いところを突く。バルがやり返してくれなかったら、俺には何も言えなかった。
「ありがとう。ごめん」
「あのな」
バルが俺の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「お前はよくやってる。誰からもあんな言われ方をされるいわれはない」
「刺されたのだって俺のせいだ」
「違う。あれはまず初手を間違った俺が悪い。素人にやられてベッドルームに逃げ込んでたなんてのは俺の恥だ」
「そうじゃなくて。俺が、バルが囮になるって言ったんだなんて……」
「実際言っただろ。俺が。気にすんなよ。結果的に全部うまくいった」
バルを見上げた。黒曜石みたいな瞳。
「飲み直すか?」
「ふふ」
思わずバルの肩に顔を伏せた。優しいよね。ほんと。ぽんぽんと頭を大きな手が軽く叩く。俺が元気になったのわかってるだろ? 髪がこんなに緑になっている。あーあ。死ぬほど好き。心臓が止まりそうなくらい好き。
「ごめんね。俺がんばるからさ。ウジャトみたいなやつも何も言えなくなるくらい」
「今度は『絶滅危惧種コンビ』か。色んな言い方があるな」
「はは」
酔ったふりしてそのまま家までバルにもたれていた。
10
あなたにおすすめの小説
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
【R18+BL】空に月が輝く時
hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。
そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。
告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。
★BL小説&R18です。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる