Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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04 (e)VAC(u)ATION

06 Vesta (訪問者)

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 家に帰ってすぐにバルにコールした。

「バル」
『よう。あの女は来てないな?』
「それどこじゃないよ」

 俳優が殺されてバルが容疑者になっていることを伝える。なんとかしないと捕まるよ。

『昨日の夜中? うーん、何もしてなかったからな……。アリバイはない』
「ホテルかなんかに泊まったんじゃないの?」
『俺、匂いがだめで泊まれないところが多いんだ。昨日はオートキャリアをレンタルしてそこで寝たんだよ』
「もう! なんでよりにもよって……。帰ってきてよバル」
『嫌だね。あの女とは会いたくも話したくもない。局に出入りする時が一番危ないんだ』
「じゃあ家の中にいたらいいじゃん!」
『せっかく休暇取ったんだぜ? どっか行くだろ!』
「もう……」
『まあ、俺やってないから。殺人事件の方は大丈夫だろ。優秀な捜査官が当たってんだろ? やってないやつ捕まえないよ』
「うん……」
『そんな顔すんなよ。そのうち帰るから』

 コールが終わる。バルはやってないから大丈夫って言うけど、ザムザの話を聞くとそんな感じじゃない。ハイブリッドの人ってそんなに珍しいんだ。知らなかったなあ……。

 プロジェクションをつけてみる。デイノス・フォルトバーグの急死についてのニュースが流れる。殺人と見て捜査を進めている。犯人は長身の男性……。壁のメッセージの件は伏せられている。

「デイノス・フォルトバーグ……」

 ブリングで検索をかける。ものすごい量の情報が引っかかってくる。映像作品、映画、ドラマ、舞台。四十年前のが一番古い。今と変わらない外見だけど……。

「夕食ができましたよ」
「ありがとう」

 レッダの夕食を食べながら考える。昨日からいろんなことが起こりすぎて、頭の中が片付かない。

 まずバルの母親を名乗る女性がバルを探しにきた。そしてバルが出て行った。たぶんこれはバルが母親に会いたくないから。その夜、有名な俳優がハイブリッドのBを名乗る男に殺された。バルに容疑がかかっているけど、バルは気にしてない。

 いいのかな? このままバルを待っていれば。帰ってくるって言ってるんだからきっと帰ってくる。バルは犯人じゃないって連邦捜査局の人たちも分かるはず………。

 本当かなあ。

 ザムザの方にコールする。

「さっきバルとブリングで話したよ」
『話した? 殺人事件のこと』
「うん。アリバイはないなあって。でも俺じゃないから別にって言ってたよ」
『別にって……少しは疑いを晴らそうとかしろよ』
「優秀なら犯人じゃない奴を逮捕したりしないんじゃないの?」
『そう言われるとな。でもアルミスとテナーは……その事件担当の二人なんだけど……バルトロイからとにかく話を聞きたがってるよ。一番手前にいるハイブリッドだから。あいつらしつっこいからちゃんとした方がいいと思うけどな』
「ハイブリッドが珍しいなら、抽出してどんどん話聞いてけばいいじゃん」
『お前らと違って、ハイブリッドは戸籍にも何も載らないからわからないんだよ。バルトロイみたいに病院にでもかかれば記録は残るだろうけど、ハイブリッドは基本的にかなりの大怪我でもしない限り病院には来ないからな』
「………」

 バルは二回も入院した。二回とも俺のせい。

『だからね、目下、ハイブリッドだってわかってる185センチくらいのBがつく犯罪の手口に詳しそうな人間ってのは、バルトロイしかいないわけ』
「そうなんだ……」
『明日あたり、お前にもどっちかから連絡が行くだろうよ。容疑者の相棒として』
「えー! 何を聞かれるの?」
『バルトロイを知ってるか、どんな関係か、事件当時何をしていたか、今バルトロイはどこにいるか、だな』
「なんて答えたらいい?」
『無実なら普通に答えろよ! なんかやってんのか?』
「そうか……」
『バルトロイがピンときてないなら、今度は俺にコールさせて。ちゃんと状況を話すから』
「わかった」

 コールを切る。落ち着かない。今バルはどこにいるのかなあ? 今日はちゃんと眠れるのかな。車の中じゃなしに………。

 一人でいる家は白々として、少し怖い。テーブルに突っ伏していたら、インターフォンが鳴った。びっくりした。誰? うちにはほとんど誰かがこんな風に訪ねてきたことはない。

「レッダ、誰?」
「男性と女性の二人組に見えますね。私の知らない人です」
「要件を聞いてくれる?」

 しばらくレッダが相手をしている気配がした。まさかだけど、もう?

「連邦捜査局の捜査官だと言っています」

 やっぱり! もう来たの?

 玄関先に出てドアを薄く開けたら、ガッと隙間に指とブリングが差し込まれた。

「バルトロイ・エヴァーノーツさんのお宅ですよね?」

 勢いに後ずさると、ドアは大きく開かれてがたいのいい男性と女性が入ってきた。

「あなたのお名前を確認しても?」
「………ヴェスタ……ヴェスタ・エヴァーノーツです……」
「未婚になってるけど?」
「更新されてないのかな?」

 男女はひそひそというよりは、俺なんかいないかのように二人で話した。

「た、対遇じゃなくて、あの……俺はバルのレプリカントなんです」
「ああ。なるほどね」

 女の方がブリングに何かを書き足した。

「我々は連邦捜査局のF147560089とF146320085です。バルトロイさんにお話を聞きたくてお尋ねしたんですが、いますか?」
「留守にしてます。休暇を取ったので、二週間くらい戻りません」
「それはいつから?」
「昨日から」
「昨日はいたんですか? バルトロイさんは」
「昨日の午後からいません」
「行き先は?」
「わかりません」
「失礼ですが、バルトロイさんとはどんなご関係で? 対遇ではないんですよね?」
「ええ……と、仕事の……バディで、一緒に住んでます、それだけ」

 それだけ。

「お仕事は何を?」
「レプリカント人権保護局の捜査官です」
「バルトロイさんがこんな風に一人でどこかに行って行き先もわからないということはよくあるんですか?」
「いや……初めてです」

 次々に質問されて、考える隙もない。

「何か聞いていますか? 行き先、目的……」
「せっかくの休暇だからでかけるって」
「一人で? 何をしに行ったと思いますか?」
「さあ……バルはほとんど有給も取らないから……息抜きかなって」
「バルトロイさんがハイブリッドなのはご存知?」
「はい」
「ちなみにあなたは昨日の夜何をしていました?」
「え? 家にいました。普通に」
「昨日はヴェスタは18時52分に帰宅して19時12分から夕食を食べ、23時14分に自室に入りました」

 レッダが助け舟を出してくれた。

「ホームキープドロイドの言うことは証拠になりません」
「私はバルのホームキープドロイドなのでヴェスタのために事実と違うことを話すことはありません」
「じゃあ参考程度にね」

 さらさら。

「バルトロイさんは二週間後に帰ってくる? 連絡は取れますか?」
「コールすれば出てはくれます」
「では、連邦捜査局にコールするようお伝えください。あなたのIDももらえますか? またお伺いすることがあるかも」

 IDを渡したら、二人は嵐のように去って行った。あれが。アルミスとテナー……かな? どっちがどっち? とりあえずまたバルにコールする。

「バル! 家に連邦捜査官が来たよ」
『はあ? ザムザじゃなくて?』
「だから、殺人事件のやつだってば」
『戸籍にロックかけてるのになあ。関係ねーのかあいつらには』
「どこにいるの? 捜査局にバルからコールしてって言ってたよ」
『めんどくせえなあ。こっちは休暇中なんだよ……まあ、わかったよ。適当に掛けとくよ』
「バル」
『ん?』
「今日はちゃんと寝られるの?」
『ハ……お前に心配されることじゃねえよ。大丈夫だ。慣れてるんだ。こんな感じでふらふらすんのは初めてじゃない。入職したばっかりのころは結構あったんだ』
「そうなの?」
『ああ。年頃だったからな。今より酷かった』
「としごろ? 酷かった?」
『母親がさ。俺を金とコネに変えようとして追っかけ回して、そのたび消えて。ここ三年あの女が音沙汰なかったのは奇跡みたいなもんだ』
「どういうことなの?」
『そのうち話すよ。じゃあな。おやすみ』

 コールが切れる。本当にそのうち話してくれるのかな。

「俺、バルのことよく知らないのかな?」
「データは多ければいいと言うわけでもありませんよ。必要なものがあるかどうかです」
「うーん」





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