Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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05 追跡

08 Vesta (思いつき)

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 ウーナとハックルトンのことをあれからずっと考えていた。

 ── ウーナはどうしてハックルトンから離れないのかな。

 どうして。

 ウーナは34%のレプリカントだから。ハックルトンがどんな男でも、「離れるな」と言われたら言うことを聞くしかない。でもハックルトンは彼女にそんな事を言うでもないらしい。彼女は自分の意思で彼と一緒にいるみたいだ。ハックルトンもまるで……

 ──オーナーだからか?

 ウーナを空気みたいにそばに置いている。命令するまでもない、当たり前に。バルが言うみたいに、オーナーとレプリカントだから? 違う……。だってオーナーとレプリカントなだけじゃ捨てられちゃう……。ReLFで出会った人たちみたいに。

 結婚してるから?

 「結婚」という言葉をブリングで検索してみる。配偶関係の締結。性的・社会的・経済的結合関係を契約として結ぶこと。子どもを生育する基盤となる家庭形成の発端。

 次に、「家庭」と検索してみる。家族の生活を行う場所、またその集団。動画もたくさん表示されている。男女と子どもの動画が多い。適当に一つをタップすると、子どもが遊ぶのを見守る2人のおとな。無垢な子どもの笑顔。

 ヒューマンの子どもってかわいいんだよね。俺たちレプリカントには「子ども時代」ってないから、不思議。赤ちゃんからだんだん大きくなって、姿が変わっていく……。「成長」。それをずっと好きな人と見守れるなんて、なんて素敵なんだろう。

 次々に動画やドキュメントをザッピングする。楽しいこと、苦労話、子どもの泣き顔、じだんだ、特有の事故や病気、学校や幼稚園のこと。「親子のきずな」。

「いいなあ……」

 バルは若い頃、早く結婚しちゃいたかったんだって。お母さんに追いかけ回されるから。今は? 今も早く結婚したい?

 もしそうなら、俺も結婚したい。バルと。何があっても離れなくて済むように。オーナーとレプリカントっていうだけじゃない、ちゃんとした契約がしたい。

 俺は今は死ぬほど幸せだけど、いつもどこか綱渡りをしてるみたいな気持ちになる。バルが他のオーナーとレプリカントたちのように、何の前触れもなく俺から手を離すんじゃないかって。

 ウーナとハックルトンみたいに、ただのオーナーとレプリカントじゃなくて、もし結婚もできてたら、少しは安心できる気がする。そして、いつかザムザとマリーンさんみたいに子どもを貰って、 2人で育てて……。どんな子が貰えるのかなあ。

 結婚。

 自分の部屋のドアが閉まっているのを確認して、そっと指をザムザから聞いたIDに走らせる。呼び出し開始。マリーンさんと話をしてみたくなった。マリーンさんには数えるほどしか会ったことがない。マリーンさんを保護した時と、挨拶に局に来た時と、結婚式の時。俺が唯一職務外でIDを知っているレプリカント。俺の知り合いの中で唯一、好きな人と結婚して幸せに暮らしてるレプリカント。

『はい、どなたでしたでしょう』
「あ。と、突然ごめんなさい。俺、ヴェスタ・エヴァーノーツです……ザムザの友達の」
『ああ! 弟のガートルードね』

 マリーンさんは画面の向こうで大輪の花のように笑った。きれいな人。マリーンさんを探す時、俺は彼女に似たブロンドに髪を染めて、彼女の弟を装って情報提供を呼びかけた。その時使った偽名がガートルード。

『どうしました?』
「あの……聞いてみたいことが、あって。ザムザが、マリーンさんに聞いてもいいって言うから」
『ええ。ザムザから聞いているわ。私にわかることなら』
「……変な話なんですけど、ヒューマンの人と結婚するってどんな感じなんですか?」
『うーん、それは手続き的なことかしら? もっと、そうね……生活とかそういうことかしら』
「両方……」
『うふふ。手続きは簡単なの。レプリカントには親がいるわけじゃなし……役所に結婚契約書のIDをもらって、アクセスして、生体認証をかけるだけ』
「そうなんだ……」
『もちろん、契約する前にザムザのお父さんやお母さんには挨拶に行ったわ』
「どうして? ザムザとの結婚なのに?」
『結婚するっていうのはね、ザムザがこれから関わる全てのことを私も一緒にするっていうことなの。だから、ザムザのお友達や家族に、私のことを知っておいてもらわないといけないの』
「そうなんだ……」
『私がレプリカントだって知って嫌な顔をする人もいたわ。でもそれは仕方ない。わかってたことだから』

 そうなんだ。マリーンさんみたいなきれいなちゃんとした人でもそんなことになるんだ。

「難しいね……」
『それでも結婚したい人がいるのね』
「うん……」
『当ててもいい? オーナーの人でしょう?』

 返事の代わりに、髪が白っぽくなった。彼女はそれをみてクスクスと笑った。

『仲良さそうだったもの。オーナーの人もあなたのことをずっと見てた。結婚パーティの時はすごく驚いたのよ……』

 俺のエスコートがアラスターだったから。

「結婚すると、変わりますか? なんていうか……生活が」
『変わります。恋人の時と同じとはいかないわ。ますます好きになるところもあるけど、もう! って言いたくなるところも目に入るようになっちゃうわね。前は好きだったところも、慣れてしまうし』
「そっか………結婚して良かったですか?」
『それは、良かったです。これからも色んな問題や苦しいことに直面すると思うけど、わたしにはザムザがいるし、私もザムザを助けることができる。それはすごく強くなれることよ』

 いいなあ。

 ザムザとマリーンさんは俺の中では理想の二人だ。ザムザがマリーンさんのことをどんなに必死に探していたのか知っている。俺が居なくなったら、バルはこんなに探してくれるだろうかと思った。まあ俺の場合、ブリングやビーコンですぐに探知されちゃうんだけど。

「ありがとう……突然こんな個人的なお話を聞いてごめんなさい。俺、周りに他にレプリカントの人でこういうこと聞ける人っていないから……」
『いいのよ、ガートルード。弟じゃない』

 マリーンさんはまたクスクスと笑った。

『またコールして。何でも聞いてください。ザムザには聞きづらいこともあるでしょう。あの人あんな感じだから』
「……ふふ」

 コールが終わった画面を見る。いいなあ。どんな感じで結婚しようってなるんだろう。ザムザなら普通に言うのか。あいつはそういうタイプ。気負いなくなんでも飄々とやる。うらやましい。俺は何でもつっかえつっかえだ。

 ザムザと仲良くなってから、なんで最初に会った時に俺だけ食事に誘ったのって聞いてみたことがある。
 ザムザは、マリーンさんのことをもっと知りたかったからと言った。マリーンさんはレプリカントだから、同じようにレプリカントの俺の話を聞いてみたかったんだって。どんなことに困るのか。ヒューマンをどう思っているのか。

 いいなあ。バルなんて、俺よりレプリカントに詳しいもんね。プロだから。誰かに聞いてまで俺のことをわかろうとなんてしないよな。

 そもそも、俺ってバルの中ではどんな感じなんだろう。そのうち結婚してもいいなって感じなのか、「今付き合ってるやつ」くらいの立ち位置なのか。そういえば全然わからない……。

 ふと、ザムザとマリーンさんが結婚一周年で子どもをもらう手続きの話をした時のバルの横顔を思い出した。少し俯き加減に目を逸らしたバル……。




 もしかして、一生そばにいたいなって思ってるのは俺だけなのかもしれない。










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