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05 追跡
09 Vesta (横顔)
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「たくさん入るのがいい」
「そんなに撮るかあ?」
写真って言うのはとっても古いものだから、フレームなんて選ぶほどないかも知れないと心配していたけど、そんなことなかった。土曜日、バルとショップの中を見て歩いていた。いろんな種類がある。
「これとこれならバルならどっち?」
「こっちかな」
「一枚しか入らないだろ」
「じゃあ聞くなって」
バルはずっと付き合ってくれている。嬉しい。何枚か入るやつがいい。
「手持ちの画像をね、印刷してみようかなって」
「なるほど。おばちゃんに影響されたな?」
「だって素敵だっただろ」
最後まで悩んだのが、モザイクかコラージュみたいに何枚も写真を入れられるやつと、観覧車みたいに写真がくるくる回るやつだった。悩んだ末にモザイクの方にした。
「壁に付けるのがいいからなあ」
「ま、足りなくなったらまた買ったらいい。プリントアウトしていくか? 端末があるよ」
バルがブリングをプリントアウト用の端末に繋いでくれたから、早速何枚かを写真にした。海の写真。ザムザの結婚パーティの時の、ザムザとマリーンさん。バルが女性化してた時、セントラルゲームセンターでカメラマンに撮ってもらったやつ。
「それやめろって」
「やだ! これを写真にしたかったんだよ」
まだフレームには空きがある。一枚はおばちゃんがくれた二人の写真を入れるつもり。
「あとは、バルとこれから一緒に撮る」
バルは少し困ったような顔をした。最近よくそんな顔をする。どうして? アラスターもそうだった。また不安になる。アラスターみたいに、バルにぽいって捨てられたらどうしよう。俺って恋人を困らせるの? バルと手を繋ぐ。優しく握り返してくれる。お店を出て二人で歩く。モールは広くて、沢山のお店がある。
「あれは何のお店?」
立ち寄りやすいように他の店はオープンになっているのに、そこだけドアがついていて、ドアの横に大きな花が生けてある。小さな看板。パンフレットのIDコードが壁に書かれている。
「結婚プランニングの店だな」
「えー!」
見たい! 思わずバルの手を引いて駆け寄ってしまって、あっと思った。バレバレじゃん。バルの顔をちらっと見る。顔がカッと熱くなるのを感じた。もう隠しようがない。
「……あのね、バル」
俺がザムザだったら、うまく言えるんだろうな。
「俺、結婚したいの。バルと」
「結婚……」
バルは見るからに戸惑っていた。だめ? いや? 考えてくれるだけでいい。
「……どうして?」
「だって俺……バルと一緒にいたい……」
「今だって一緒にいるだろ」
「ん……だって、結婚したら……」
もっと自然にバルのそばにいられる気がする。空気みたいに。バディなだけじゃなくて、恋人なだけじゃなくて、ただ安心して……。
「……だめ? だって……昔、婚約したこともあったんだろ」
「あったけど。あれは何も考えてなかったからな。将来のことを考えると……」
「嫌? 俺と結婚するの、だめ?」
ザムザとマリーンさんみたいに。結婚して、好きなところも嫌なところも見つけて、そして……。
「子ども貰ったりして、バルと『家庭』っていうのしてみたい……」
バルはふっとため息をついた。
「普通はそうだよな」
眉間のシワ。逸らされた黒い瞳。
「家で話そう、ヴェスタ」
悪い予感。俺としては、すごく……
すごく勇気を出したんだけど。
無言でオートキャリアに乗ると、バルのブリングが鳴った。連邦捜査局と表示されている。眉間に皺を寄せたままバルが出る。
『バルトロイ・エヴァーノーツ捜査官。ゴーシェ・ノッディングハムが病院から脱走しましたのでお知らせします』
「いつ?」
『今日の昼食後から、2時の検温の時間までの間に。まだ抗がん剤を続けていましたし、施錠もされていたのですが……あなたに危害を加えに向かうと言うことがあり得るかも知れないので』
「追っていますよね? 捕まえたらまたご連絡ください。お知らせありがとう。こちらも注意します」
コールが終わる。バルの横顔は厳しい。
「……局に行っていいか? ちょっと……」
仕方ない。頷く。
「お前は家に帰ってな。絶対ドアを開けるなよ」
「………」
俺も行く、と言いたかった。バディだろ? 追うんだろ? なんで言えなくなっちゃうんだろう。恋人になると色んなことがわかるようになっちゃうから? 色んなことを知らないままだってわかっちゃうからかな……。
家に一人帰る。レッダがコーヒーを出してくれた。
「ありがとう。バルはね、局に行っちゃったよ。誰がきてもドアを開けないようにって」
「はい。聞いてますよ。あなたが出かけようとしても今日はドアは開けません」
レッダと二人で話すのも久しぶりだ。
「一緒に行けば良かった……」
「そう言えばよかったのでは」
「なんだか言えなかったんだよね。前なら言えてたかも……レッダはどうしてだと思う?」
「関係性の変化によって人の態度は変わるものです」
全くその通り。さすがレッダ、ぐうの音も出ない。
「関係性を保持したい場合、人は保守的になります。保持したいのですか?」
「……んー……したい。かな。でももっと踏み込みたい……」
「関係性の向上を図るのであれば、情報を共有し改善点を検討するべきです」
「なるほど……」
「決裂する可能性はあります。ただし、保守的な態度を継続しても同様に決裂する場合があります」
「それはどうして?」
「現状維持というのは、少しずつ時勢に合わせて変化させるということの言い換えだからです。変化を望まないのであれば周囲の変化に馴染むように変化しなければなりません。それをしないのなら歪みが生まれます。ものごとは何もかも少しずつ変化を続けているからです」
「難しい」
でもなんとなくわかる。ただ諾々と時が流れるのを見送るだけではだめなんだ。
どうしたらいいのかな? 俺はどうしたいのかな……。
「……バルは結婚したくないのかな?」
「さあどうでしょう」
「またそれか。その話をしたくなさそうなんだ」
「なぜ話したくないのか聞いてみては」
「まだ早かったのかな?」
「さあどうでしょう」
「もう!」
ちゃんと話さなくちゃ。バルが帰ってきたら。
「そんなに撮るかあ?」
写真って言うのはとっても古いものだから、フレームなんて選ぶほどないかも知れないと心配していたけど、そんなことなかった。土曜日、バルとショップの中を見て歩いていた。いろんな種類がある。
「これとこれならバルならどっち?」
「こっちかな」
「一枚しか入らないだろ」
「じゃあ聞くなって」
バルはずっと付き合ってくれている。嬉しい。何枚か入るやつがいい。
「手持ちの画像をね、印刷してみようかなって」
「なるほど。おばちゃんに影響されたな?」
「だって素敵だっただろ」
最後まで悩んだのが、モザイクかコラージュみたいに何枚も写真を入れられるやつと、観覧車みたいに写真がくるくる回るやつだった。悩んだ末にモザイクの方にした。
「壁に付けるのがいいからなあ」
「ま、足りなくなったらまた買ったらいい。プリントアウトしていくか? 端末があるよ」
バルがブリングをプリントアウト用の端末に繋いでくれたから、早速何枚かを写真にした。海の写真。ザムザの結婚パーティの時の、ザムザとマリーンさん。バルが女性化してた時、セントラルゲームセンターでカメラマンに撮ってもらったやつ。
「それやめろって」
「やだ! これを写真にしたかったんだよ」
まだフレームには空きがある。一枚はおばちゃんがくれた二人の写真を入れるつもり。
「あとは、バルとこれから一緒に撮る」
バルは少し困ったような顔をした。最近よくそんな顔をする。どうして? アラスターもそうだった。また不安になる。アラスターみたいに、バルにぽいって捨てられたらどうしよう。俺って恋人を困らせるの? バルと手を繋ぐ。優しく握り返してくれる。お店を出て二人で歩く。モールは広くて、沢山のお店がある。
「あれは何のお店?」
立ち寄りやすいように他の店はオープンになっているのに、そこだけドアがついていて、ドアの横に大きな花が生けてある。小さな看板。パンフレットのIDコードが壁に書かれている。
「結婚プランニングの店だな」
「えー!」
見たい! 思わずバルの手を引いて駆け寄ってしまって、あっと思った。バレバレじゃん。バルの顔をちらっと見る。顔がカッと熱くなるのを感じた。もう隠しようがない。
「……あのね、バル」
俺がザムザだったら、うまく言えるんだろうな。
「俺、結婚したいの。バルと」
「結婚……」
バルは見るからに戸惑っていた。だめ? いや? 考えてくれるだけでいい。
「……どうして?」
「だって俺……バルと一緒にいたい……」
「今だって一緒にいるだろ」
「ん……だって、結婚したら……」
もっと自然にバルのそばにいられる気がする。空気みたいに。バディなだけじゃなくて、恋人なだけじゃなくて、ただ安心して……。
「……だめ? だって……昔、婚約したこともあったんだろ」
「あったけど。あれは何も考えてなかったからな。将来のことを考えると……」
「嫌? 俺と結婚するの、だめ?」
ザムザとマリーンさんみたいに。結婚して、好きなところも嫌なところも見つけて、そして……。
「子ども貰ったりして、バルと『家庭』っていうのしてみたい……」
バルはふっとため息をついた。
「普通はそうだよな」
眉間のシワ。逸らされた黒い瞳。
「家で話そう、ヴェスタ」
悪い予感。俺としては、すごく……
すごく勇気を出したんだけど。
無言でオートキャリアに乗ると、バルのブリングが鳴った。連邦捜査局と表示されている。眉間に皺を寄せたままバルが出る。
『バルトロイ・エヴァーノーツ捜査官。ゴーシェ・ノッディングハムが病院から脱走しましたのでお知らせします』
「いつ?」
『今日の昼食後から、2時の検温の時間までの間に。まだ抗がん剤を続けていましたし、施錠もされていたのですが……あなたに危害を加えに向かうと言うことがあり得るかも知れないので』
「追っていますよね? 捕まえたらまたご連絡ください。お知らせありがとう。こちらも注意します」
コールが終わる。バルの横顔は厳しい。
「……局に行っていいか? ちょっと……」
仕方ない。頷く。
「お前は家に帰ってな。絶対ドアを開けるなよ」
「………」
俺も行く、と言いたかった。バディだろ? 追うんだろ? なんで言えなくなっちゃうんだろう。恋人になると色んなことがわかるようになっちゃうから? 色んなことを知らないままだってわかっちゃうからかな……。
家に一人帰る。レッダがコーヒーを出してくれた。
「ありがとう。バルはね、局に行っちゃったよ。誰がきてもドアを開けないようにって」
「はい。聞いてますよ。あなたが出かけようとしても今日はドアは開けません」
レッダと二人で話すのも久しぶりだ。
「一緒に行けば良かった……」
「そう言えばよかったのでは」
「なんだか言えなかったんだよね。前なら言えてたかも……レッダはどうしてだと思う?」
「関係性の変化によって人の態度は変わるものです」
全くその通り。さすがレッダ、ぐうの音も出ない。
「関係性を保持したい場合、人は保守的になります。保持したいのですか?」
「……んー……したい。かな。でももっと踏み込みたい……」
「関係性の向上を図るのであれば、情報を共有し改善点を検討するべきです」
「なるほど……」
「決裂する可能性はあります。ただし、保守的な態度を継続しても同様に決裂する場合があります」
「それはどうして?」
「現状維持というのは、少しずつ時勢に合わせて変化させるということの言い換えだからです。変化を望まないのであれば周囲の変化に馴染むように変化しなければなりません。それをしないのなら歪みが生まれます。ものごとは何もかも少しずつ変化を続けているからです」
「難しい」
でもなんとなくわかる。ただ諾々と時が流れるのを見送るだけではだめなんだ。
どうしたらいいのかな? 俺はどうしたいのかな……。
「……バルは結婚したくないのかな?」
「さあどうでしょう」
「またそれか。その話をしたくなさそうなんだ」
「なぜ話したくないのか聞いてみては」
「まだ早かったのかな?」
「さあどうでしょう」
「もう!」
ちゃんと話さなくちゃ。バルが帰ってきたら。
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