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06 パイド・パイパー 連邦捜査官ザムザ・ホープの事件簿
02 Wdgat (消えた子ども)
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「変わったこと……そうですね、特には」
児童養護施設の施設長は首を傾げた。三十代くらいに見える中央アジア系のがっちりとしたその施設長は、見るからにげっそりしている。隈が濃く、髭を剃るのも忘れているようだ。
「どんな小さなことでもいいんです。例えば、子どもたちの様子が変わったとか、誰かが訪ねてきたとか」
「子どもたちは特に……ああ、訪問者記録は取ってあるはずです」
「どこに?」
それと思われるものは見つかっていない。
「職員室に付いている受付窓口に。誰か部外者が来ると、受け付けた職員が受付用のブリングに入力することになってるんです」
「そのファイルは誰かと共有していたりしますか?」
「えーと……いいえ。何かあった時に確認するくらいのもので……こんなことがあるとも思っていなかったので」
「うーん……他に? 昨日はどうでした? 昼間はいらっしゃいましたか?」
「ええ。19時までおりました。まったく普段通りで……」
「誰かが立ち寄ったり、急にシフトが変わったりもしていない?」
「ええ。何も。夜勤のシフトは18時半からなんですが、3人とも普通に出勤して、昼番と入れ替わりました」
「そのあとは?」
「私もその後すぐに帰宅したので……でもいつも通りだった……」
「3人はそれぞれどんな人でした?」
「ナラは5年目で、真面目でしっかりしていて頼りになる職員でした。子供たちは厳しすぎると思うこともあったみたいですが……彼女にも子どもがいて。イリーナは一番の古参で、もう20年以上勤めてくれていました。子どもたちのお母さんみたいな存在で……マリオは3年目でしたが、子どもたちとよく遊んでやっていました。履歴書がありますので後で送ります。我々のコメントシートも付いています」
「恨みを買っていたようには見えない?」
「もちろんです。普通の……みんないい人たちです」
「子どもたちのことはどうでしょう。15人ですよね。勝手に出て行ったりしますか?」
「うーん、中にはそういう子もいました。寝ぼけて施設の外に出てしまう子は。でも全員で出て行くなんてことは……」
「大人の言うことなら聞く?」
「それはそうかも知れません……集団行動に慣れていますし、こうしなさい、と大人から言われたらやるかも」
「恨まれていたり、不審者を見かけたりといったことはありましたか?」
「いやあ、恨まれてる……うーん……不審者もねえ、この立地でしょう。誰も来ないですよ。業者くらいですかね」
ザムザは施設長の調書をまとめながら首を傾げた。
「何もわからないな」
「指紋も体液も外部の者のはなし……」
大したものだ。防犯カメラを壊して行ったり、指紋の一つ、足跡の一つ残さないというのは。
「前科者だとは思うんだけどな。すごいよ。落ち着いてる。初めてならこんなにちゃんと証拠を消せないよな」
「感心してる場合ですか」
「似たような手口のはないのかな。子どもの誘拐事件か」
保育士たちの殺傷に使われた凶器も分かっていない。ただものすごく切れ味がいいというだけ。詳細は検視待ちだ。
子どもの誘拐でデータをサーチする。何件も引っかかるが、こんな大人数なのはなかなかない。5名の小学生が行方不明になった事件がヒットする。これが近年では最多。中身を確認してみる。子どもたちがキャンプに行って一グループが丸ごとはぐれて行方不明になった。リーダーの子が沢を下ることを提案し、二人が川に流されて遺体で発見……傷ましいが、今回の事件に関係はなさそうだ。
「アルミスたちならどう解決するかな……」
ザムザが頬杖をついて言った。
「なんでですか! 俺たちは俺たちでしょう」
「大切なことだよ、ウジャト。他の視点から見てみるって言うのは」
ザムザに言われて、面白くはないが考えてみる。もしアルミスとテナーのコンビなら? 有無を言わさず聞き込みに行くだろう。関係する人を洗い出して、怪しいところからどんどん訪ねて、尋問に近いくらいの勢いで聴取する。苦情もくるが解決もする。
「誰が怪しいんでしょうね?」
「そうだなあ~……。全員大人は殺されちまってる。普通に考えれば、大人の男一人、女二人を殺せるくらい体格のいいやつ……そして前科のあるやつ」
「……ナイフでの殺害事件をサーチしますね」
犯人が男性とは限らない。性転換薬を飲めば女性でも男性並みの力を出せるようになる。サポートマシンを装備していたかも知れない。凶器が刃物のものを絞り込む。かなり件数は多い。そのうち、犯人が逮捕されて収監中のものを外す。それでも残る。
「ふふっ。ヴェスタたちに頼んだ方がいいみたいだな」
ザムザが笑う。その名前を聞いてまたむっとした。なんでここであいつらが出てくるんだよ。ここからは事件の概要を見ていく。痴話喧嘩は外す。通り魔と強盗が残る。でも子どもを攫ったのはない。ふと目が止まる。
……殺害されたのは俳優のデイノス・フォルトバーグとオットー・ベルナール。ナイフのようなもので心臓を一突き。犯人はゴーシェ・ノッディングハム、長身でハイブリッド。壁にメッセージを残していた……。
バルトロイとヴェスタが解決した事件だ。アルミスとテナーがハイブリッドで背の高いバルトロイを容疑者として追っかけ回してるうちに出し抜かれたやつ。二人が恥をかかされたことを露骨に喜んだやつも多かった。犯人のゴーシェは収容された病院から逃走。今も見つかっていない。
この事件にも切れ味のいいナイフが使われている。アルミスたちが取った調書を見てみる。凶器は詳細不明。発見されなかった。ゴーシェ本人の証言によると、大型のナイフ。被害者は二人ともほぼ即死。
「ウジャト」
はっと顔を上げる。バルトロイ達のことを考えている場合ではない。
「急がば回れだ。まず聴取しよう」
手探り。イライラする。現場の証拠品を並べて推理して犯人はこの中にいる、なんてものじゃないのはわかってるけど。早く進めないといけないから、手の空いた人からどんどんコールしてもらう。生きている職員は20人だ。
「最近変わったことは?」
「犯人に心当たりは?」
「気になったことはありますか?」
「被害者はどんな人でしたか?」
「子どもたちの様子はどうでした?」
「犯行時刻はどこで何を?」
延々と繰り返す問いかけ。
「変わったこと……特には」
「恨んでる人? さあ……みんないい人でしたよ」
「子どもたちが誘拐されたなら帰ってきて欲しい」
大半はこれ。いかにも悲しそうな人、どこかウキウキしている人、他人事みたいに話す人。さらっとしたコールでの聴取は2日ほどで全員終わった。あまりに情報が少ない……。
ブリングにピンとメールが入る。情報班のメカニックからだ。監視カメラの一部のデータの復元に成功。行こう、とザムザが立ち上がる。
情報班のブースは別棟にある。いつもはサイバー関係の犯罪捜査をしている部署で、こんなことでもなければ行き来はない。実際、行くのは初めてだった。長い渡り廊下を通り、情報棟と呼ばれる建物に入る。
「早く見つけてやらないとな。一番下の子は二歳だろ。死んでしまう」
「なんでそんな小さな子が施設なんかに」
ザムザがくすっと笑った気がした。
「お前も世間知らずだよ……ヴェスタに言えないな」
またむっとする。あんなレプリカントと一緒にしないでほしい。でもザムザはヴェスタと二人で飲みに行ったり遊びに行ったりする友達みたいだ。どうしてなんだろう。
児童養護施設の施設長は首を傾げた。三十代くらいに見える中央アジア系のがっちりとしたその施設長は、見るからにげっそりしている。隈が濃く、髭を剃るのも忘れているようだ。
「どんな小さなことでもいいんです。例えば、子どもたちの様子が変わったとか、誰かが訪ねてきたとか」
「子どもたちは特に……ああ、訪問者記録は取ってあるはずです」
「どこに?」
それと思われるものは見つかっていない。
「職員室に付いている受付窓口に。誰か部外者が来ると、受け付けた職員が受付用のブリングに入力することになってるんです」
「そのファイルは誰かと共有していたりしますか?」
「えーと……いいえ。何かあった時に確認するくらいのもので……こんなことがあるとも思っていなかったので」
「うーん……他に? 昨日はどうでした? 昼間はいらっしゃいましたか?」
「ええ。19時までおりました。まったく普段通りで……」
「誰かが立ち寄ったり、急にシフトが変わったりもしていない?」
「ええ。何も。夜勤のシフトは18時半からなんですが、3人とも普通に出勤して、昼番と入れ替わりました」
「そのあとは?」
「私もその後すぐに帰宅したので……でもいつも通りだった……」
「3人はそれぞれどんな人でした?」
「ナラは5年目で、真面目でしっかりしていて頼りになる職員でした。子供たちは厳しすぎると思うこともあったみたいですが……彼女にも子どもがいて。イリーナは一番の古参で、もう20年以上勤めてくれていました。子どもたちのお母さんみたいな存在で……マリオは3年目でしたが、子どもたちとよく遊んでやっていました。履歴書がありますので後で送ります。我々のコメントシートも付いています」
「恨みを買っていたようには見えない?」
「もちろんです。普通の……みんないい人たちです」
「子どもたちのことはどうでしょう。15人ですよね。勝手に出て行ったりしますか?」
「うーん、中にはそういう子もいました。寝ぼけて施設の外に出てしまう子は。でも全員で出て行くなんてことは……」
「大人の言うことなら聞く?」
「それはそうかも知れません……集団行動に慣れていますし、こうしなさい、と大人から言われたらやるかも」
「恨まれていたり、不審者を見かけたりといったことはありましたか?」
「いやあ、恨まれてる……うーん……不審者もねえ、この立地でしょう。誰も来ないですよ。業者くらいですかね」
ザムザは施設長の調書をまとめながら首を傾げた。
「何もわからないな」
「指紋も体液も外部の者のはなし……」
大したものだ。防犯カメラを壊して行ったり、指紋の一つ、足跡の一つ残さないというのは。
「前科者だとは思うんだけどな。すごいよ。落ち着いてる。初めてならこんなにちゃんと証拠を消せないよな」
「感心してる場合ですか」
「似たような手口のはないのかな。子どもの誘拐事件か」
保育士たちの殺傷に使われた凶器も分かっていない。ただものすごく切れ味がいいというだけ。詳細は検視待ちだ。
子どもの誘拐でデータをサーチする。何件も引っかかるが、こんな大人数なのはなかなかない。5名の小学生が行方不明になった事件がヒットする。これが近年では最多。中身を確認してみる。子どもたちがキャンプに行って一グループが丸ごとはぐれて行方不明になった。リーダーの子が沢を下ることを提案し、二人が川に流されて遺体で発見……傷ましいが、今回の事件に関係はなさそうだ。
「アルミスたちならどう解決するかな……」
ザムザが頬杖をついて言った。
「なんでですか! 俺たちは俺たちでしょう」
「大切なことだよ、ウジャト。他の視点から見てみるって言うのは」
ザムザに言われて、面白くはないが考えてみる。もしアルミスとテナーのコンビなら? 有無を言わさず聞き込みに行くだろう。関係する人を洗い出して、怪しいところからどんどん訪ねて、尋問に近いくらいの勢いで聴取する。苦情もくるが解決もする。
「誰が怪しいんでしょうね?」
「そうだなあ~……。全員大人は殺されちまってる。普通に考えれば、大人の男一人、女二人を殺せるくらい体格のいいやつ……そして前科のあるやつ」
「……ナイフでの殺害事件をサーチしますね」
犯人が男性とは限らない。性転換薬を飲めば女性でも男性並みの力を出せるようになる。サポートマシンを装備していたかも知れない。凶器が刃物のものを絞り込む。かなり件数は多い。そのうち、犯人が逮捕されて収監中のものを外す。それでも残る。
「ふふっ。ヴェスタたちに頼んだ方がいいみたいだな」
ザムザが笑う。その名前を聞いてまたむっとした。なんでここであいつらが出てくるんだよ。ここからは事件の概要を見ていく。痴話喧嘩は外す。通り魔と強盗が残る。でも子どもを攫ったのはない。ふと目が止まる。
……殺害されたのは俳優のデイノス・フォルトバーグとオットー・ベルナール。ナイフのようなもので心臓を一突き。犯人はゴーシェ・ノッディングハム、長身でハイブリッド。壁にメッセージを残していた……。
バルトロイとヴェスタが解決した事件だ。アルミスとテナーがハイブリッドで背の高いバルトロイを容疑者として追っかけ回してるうちに出し抜かれたやつ。二人が恥をかかされたことを露骨に喜んだやつも多かった。犯人のゴーシェは収容された病院から逃走。今も見つかっていない。
この事件にも切れ味のいいナイフが使われている。アルミスたちが取った調書を見てみる。凶器は詳細不明。発見されなかった。ゴーシェ本人の証言によると、大型のナイフ。被害者は二人ともほぼ即死。
「ウジャト」
はっと顔を上げる。バルトロイ達のことを考えている場合ではない。
「急がば回れだ。まず聴取しよう」
手探り。イライラする。現場の証拠品を並べて推理して犯人はこの中にいる、なんてものじゃないのはわかってるけど。早く進めないといけないから、手の空いた人からどんどんコールしてもらう。生きている職員は20人だ。
「最近変わったことは?」
「犯人に心当たりは?」
「気になったことはありますか?」
「被害者はどんな人でしたか?」
「子どもたちの様子はどうでした?」
「犯行時刻はどこで何を?」
延々と繰り返す問いかけ。
「変わったこと……特には」
「恨んでる人? さあ……みんないい人でしたよ」
「子どもたちが誘拐されたなら帰ってきて欲しい」
大半はこれ。いかにも悲しそうな人、どこかウキウキしている人、他人事みたいに話す人。さらっとしたコールでの聴取は2日ほどで全員終わった。あまりに情報が少ない……。
ブリングにピンとメールが入る。情報班のメカニックからだ。監視カメラの一部のデータの復元に成功。行こう、とザムザが立ち上がる。
情報班のブースは別棟にある。いつもはサイバー関係の犯罪捜査をしている部署で、こんなことでもなければ行き来はない。実際、行くのは初めてだった。長い渡り廊下を通り、情報棟と呼ばれる建物に入る。
「早く見つけてやらないとな。一番下の子は二歳だろ。死んでしまう」
「なんでそんな小さな子が施設なんかに」
ザムザがくすっと笑った気がした。
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