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06 パイド・パイパー 連邦捜査官ザムザ・ホープの事件簿
03 Wdgat (ハミング)
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銀色のドアを開けると、端末がずらっと並んでいた。モニタからの光がチカチカしている。いるだけで目が悪くなりそうな空間。
「あー。ホープ捜査官?」
「そうです」
端末の影から猫背の男が顔を出した。今時珍しい眼鏡を掛けている。
「はじめまして。俺はナトー。ナトー・ベルギモ。ごめんなさいね、データを送るだけにしようかとも思ったんだけど、少し説明した方がいいかなと」
男が席についたまま手招きをした。とても大きなモニタ。波形が何列も映し出されている。
「聞いて」
かさかさの荒れた手がモニタに触れると、ノイズとともに遠くで小さな声が聞こえた。でもわかる。男の声のように聞こえる。
「………鼻歌?」
「そう。たぶん。俺もそうだと思った。誰かのハミング……それでね」
ナトーはモニタを操作して、今度は画像を映した。男性の肉体。
「声から分析をかけた。それがこの画像……背が高くて体が大きいか、首が太いか。だから性転換薬で女性から男性になってるんじゃなくて、ナチュラルボーンで男性なんだと思うね」
「犯人?」
「恐らく。これしか監視カメラのデータから拾えなかったけど、タイムスタンプは夜中の三時ごろになってる。これが殺されたマリオの声でなければ、犯人だろうね」
「マリオは172センチだ」
ザムザが手元の自分のブリングを見比べた。
「太ってた?」
「いや。中肉中背」
「じゃあ違うな。ここに予想される身長も入ってるけど、少なくとも180あるか、体重が100キロを超えているか、だ」
人を殺してから、遺体がある部屋で鼻歌を歌いながら端末を壊していく体格のいい男……。すっと背筋が冷たくなった。
「まともじゃない」
「まあね。うちに来る案件でまだ共感できるのはサイバー犯罪と政治犯くらいだよね」
本部棟に戻ると、今度は殺人の起きた施設の職員からのコールが来ていた。思い出したことがあると言う。折り返すとすぐに繋がった。
「事件に関係があるかどうかわからないんですけど、そういえば2ヶ月ほど前、人が訪ねて来たのを思い出したんです」
髪を一つに束ねた女性職員だった。
「そういうことは頻繁にはない?」
「まあ、そうですね。たいていは事前にコールして来ますよね。その人は本当に突然だったんです。うちの卒業生だったという人が。イリーナを知っていて。あんまりない事だったので記憶に残ってますね」
「どんな人でした?」
「背が高い、髪と目の黒い人でした。えーと、今どこかの捜査官をやってるってことで……イリーナが対応したのでそのくらいしかわからないんですが」
ザムザが少し首を傾げた。
「背が高いって、どのくらいでした?」
「見上げるくらいです。180以上はありましたね」
「イリーナを訪ねてきた?」
「うーん? 職員室でイリーナが対応しているのを見ただけだから……」
「その人は特定できますかね?」
「職員室まで案内した人ならもっと詳しく覚えているかも」
そのコールが終わると、ザムザは少し頬杖をついてペンの先で頬をつついた。
「何か引っかかります?」
「いやあ。だってね。黒髪に黒い目で180以上だろ? しかも何かの捜査官だ。誰かさんみたいだなと思ってね」
「誰かさん」
「まあいいや。案内したって人にコールしてみようか」
先程の職員から聞いていた、その男を案内したと言う別な職員にコールする。
「訪ねてきた人? ああ。そう言えばありました。覚えていますよ。私が職員室に案内したんです。20年前の卒業生だと言っていました。名前は覚えてないですね……長めの名前で、ファーストネームで地中海系の出身なのかなと思ったのは覚えています」
「イリーナさんとその人はお話ししたんですね? どんな話をしていたのか分かりますか?」
「話の内容までは……。来客用のブースにイリーナと二人で入ってしまったので。でも……」
「何か気になった?」
「はい。最近もその人、また訪ねて来てたんですよね。その時は他の職員が対応したんですが、遠目だったけど、なんとなく印象が変わってましたね」
「印象が変わっていた?」
「うーんと……あくまで、私の感じた、ってことなんですけど……近くで確認したわけでもないし……最初に間近で見て案内した時は、こう……ふつうの、うーん……変な言い方なんですけど、まともな感じだったんですね。話が通じそうなっていうか……ごめんなさい、うまく言えないんですけど」
「不信感が湧かない?」
「そうですね、信用できそうなイメージの人だなと思ったんですけど、二度目に来て見かけた時、あっあの人だな、とは思ったんですけど、なんだか、違和感があると言うか……こんな人だったかなって。気になって後で来客用のブリングを見て名前を確認してみたら、やっぱり同じ人だったから覚えています」
「様子が違った?」
「はい。うまく言えないんですけど……」
ザムザは腕を組んで少し考えると、顔を上げた。
「20年前の名簿はありますか? その名前を見たら、その人が分かりますか?」
「あ。きっとわかります……えーと、エヴァーなんとか、でした」
「二度目にその人を案内したのは誰でしたか? その人にも話を聞きたいんですが。あと、その日も対応はイリーナ?」
「ああ……たしか受付したのはラナなので……その日はイリーナはいなかったんです。だから、しばらくラナと施設の中を見て回って帰られたと思います」
「……なるほど。ところでその、来客記録用のブリングがどこにあるかわかりますか?」
「職員室の窓口にあったはずですが。誰でも持って行ってしまえる位置ではあったんですよね……」
「あー。ホープ捜査官?」
「そうです」
端末の影から猫背の男が顔を出した。今時珍しい眼鏡を掛けている。
「はじめまして。俺はナトー。ナトー・ベルギモ。ごめんなさいね、データを送るだけにしようかとも思ったんだけど、少し説明した方がいいかなと」
男が席についたまま手招きをした。とても大きなモニタ。波形が何列も映し出されている。
「聞いて」
かさかさの荒れた手がモニタに触れると、ノイズとともに遠くで小さな声が聞こえた。でもわかる。男の声のように聞こえる。
「………鼻歌?」
「そう。たぶん。俺もそうだと思った。誰かのハミング……それでね」
ナトーはモニタを操作して、今度は画像を映した。男性の肉体。
「声から分析をかけた。それがこの画像……背が高くて体が大きいか、首が太いか。だから性転換薬で女性から男性になってるんじゃなくて、ナチュラルボーンで男性なんだと思うね」
「犯人?」
「恐らく。これしか監視カメラのデータから拾えなかったけど、タイムスタンプは夜中の三時ごろになってる。これが殺されたマリオの声でなければ、犯人だろうね」
「マリオは172センチだ」
ザムザが手元の自分のブリングを見比べた。
「太ってた?」
「いや。中肉中背」
「じゃあ違うな。ここに予想される身長も入ってるけど、少なくとも180あるか、体重が100キロを超えているか、だ」
人を殺してから、遺体がある部屋で鼻歌を歌いながら端末を壊していく体格のいい男……。すっと背筋が冷たくなった。
「まともじゃない」
「まあね。うちに来る案件でまだ共感できるのはサイバー犯罪と政治犯くらいだよね」
本部棟に戻ると、今度は殺人の起きた施設の職員からのコールが来ていた。思い出したことがあると言う。折り返すとすぐに繋がった。
「事件に関係があるかどうかわからないんですけど、そういえば2ヶ月ほど前、人が訪ねて来たのを思い出したんです」
髪を一つに束ねた女性職員だった。
「そういうことは頻繁にはない?」
「まあ、そうですね。たいていは事前にコールして来ますよね。その人は本当に突然だったんです。うちの卒業生だったという人が。イリーナを知っていて。あんまりない事だったので記憶に残ってますね」
「どんな人でした?」
「背が高い、髪と目の黒い人でした。えーと、今どこかの捜査官をやってるってことで……イリーナが対応したのでそのくらいしかわからないんですが」
ザムザが少し首を傾げた。
「背が高いって、どのくらいでした?」
「見上げるくらいです。180以上はありましたね」
「イリーナを訪ねてきた?」
「うーん? 職員室でイリーナが対応しているのを見ただけだから……」
「その人は特定できますかね?」
「職員室まで案内した人ならもっと詳しく覚えているかも」
そのコールが終わると、ザムザは少し頬杖をついてペンの先で頬をつついた。
「何か引っかかります?」
「いやあ。だってね。黒髪に黒い目で180以上だろ? しかも何かの捜査官だ。誰かさんみたいだなと思ってね」
「誰かさん」
「まあいいや。案内したって人にコールしてみようか」
先程の職員から聞いていた、その男を案内したと言う別な職員にコールする。
「訪ねてきた人? ああ。そう言えばありました。覚えていますよ。私が職員室に案内したんです。20年前の卒業生だと言っていました。名前は覚えてないですね……長めの名前で、ファーストネームで地中海系の出身なのかなと思ったのは覚えています」
「イリーナさんとその人はお話ししたんですね? どんな話をしていたのか分かりますか?」
「話の内容までは……。来客用のブースにイリーナと二人で入ってしまったので。でも……」
「何か気になった?」
「はい。最近もその人、また訪ねて来てたんですよね。その時は他の職員が対応したんですが、遠目だったけど、なんとなく印象が変わってましたね」
「印象が変わっていた?」
「うーんと……あくまで、私の感じた、ってことなんですけど……近くで確認したわけでもないし……最初に間近で見て案内した時は、こう……ふつうの、うーん……変な言い方なんですけど、まともな感じだったんですね。話が通じそうなっていうか……ごめんなさい、うまく言えないんですけど」
「不信感が湧かない?」
「そうですね、信用できそうなイメージの人だなと思ったんですけど、二度目に来て見かけた時、あっあの人だな、とは思ったんですけど、なんだか、違和感があると言うか……こんな人だったかなって。気になって後で来客用のブリングを見て名前を確認してみたら、やっぱり同じ人だったから覚えています」
「様子が違った?」
「はい。うまく言えないんですけど……」
ザムザは腕を組んで少し考えると、顔を上げた。
「20年前の名簿はありますか? その名前を見たら、その人が分かりますか?」
「あ。きっとわかります……えーと、エヴァーなんとか、でした」
「二度目にその人を案内したのは誰でしたか? その人にも話を聞きたいんですが。あと、その日も対応はイリーナ?」
「ああ……たしか受付したのはラナなので……その日はイリーナはいなかったんです。だから、しばらくラナと施設の中を見て回って帰られたと思います」
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