Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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07 ドミニオン

13 Vesta (フィッシング)

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 ライブの三日間は思った通り何事もなく過ぎた。

 ドミは今日はブルーグリーンのハイネックでノースリーブの服と、7部丈のパンツを渡してきた。体にぴったりしているので少し恥ずかしい。肩を覆う白いシースルーのストールを大きな羽飾りのついたピンで留めてくれる。メイクは淡くピンク色のついたリップだけだった。ピンとお揃いの鳥の羽の髪飾りで片側の髪を留めておしまい。

「……ありがとう」
「これなら動きやすいでしょ。ストールは破いてもいいよ」
「なるべく綺麗に返すよ」

 ドミニオンの方はいつもと違ってシンプルだ。白にロゴの入ったTシャツに革のショートパンツ。本革ならバルはあまり側に来たくないだろうな。髪は下ろしっぱなしで大きめのサングラス。

 これから二人でお忍びでホテルを出て、この街に新しくできたビーガン向けのデザートストアに食後のデザートを食べに行く予定。SPは付いてこないことになってるけど。

 今日はバルは別行動だ。結果的に同行することになるだろう。

「行こうか」
「ふふふ、楽しみ。デザートもだけど」
「怪我しないでね……あなたには手は出さないと思うけど」

 念のため、ドミと自分に防弾シールドをつける。ナイフには効かないんだけど。スプレーと悪人キャッチャーも念のため持っていく。


 
 オートキャリアを降りる。今日はごく普通の一般的なオートキャリアだ。行き先のお店も普通のお店。事前に予約はしてあるから、そのまま席に通される。

「なんだか雷が落ちるのを待ってるみたいな気分」

 ドミが言った。

「そんなことない? ちょっと怖いんだけど、なんだかワクワクしちゃうって感じ」
「ふふ、わかるよ。何にする?」

 ドミは見たことがないような笑顔だった。こんな顔もできるんだね。フルーツディキンとストレートティをドミが選んだので、俺もそれにする。さて。いつどこから来るかな。店の中はどうだろう。バルが言っていた。自分で逃げ場を・・・・・・・なくすな・・・・。だからたぶん、店の外、逃げ道があるところで来るはずだ。

「まだ大丈夫。楽しもう」
「楽しい」

 白い皿の上にディキンと色とりどりのフルーツとエディブルフラワーが載ってくる。ナイフとフォークで食べる。ドミが顔を顰める。

「うーん……」
「……だね」

 いまいち。

「ドミはビーガンなの?」
「ぜんぜん。でも芸能人ってそういう人多いから、話を合わせないといけないことがあるんだよね。話題作り」
「大変だね」
「たまに死んじゃいたくなる」
「そんなこと言わないで」
「ねえ、本気じゃないと思ってるでしょ」

 ドミの口元がふっと笑った。声はいつものトーンだった。

「なんでこんなことしないといけないんだろうなって思う。何のためにって」

 本気なんだ。

「………俺はあなたが死んでしまったら悲しい。非公式サイトの人たちもみんな悲しむよ」
「あたし、あたしのために生きてないもん。あんたや知らない誰かが悲しんでくれても、あたし本人は悲しくないわけ………うまく言えないな。誰かの望みに合わせて生きるんじゃなくてさ、自分の望みに合わせて生きてみたいんだ」
「そう……」
「わかる? 誰かが悲しむから生きるんじゃなくて、あたしが生きたいから生きていたいの。そうじゃない?」
「うん」

 安易にわかる、と頷いてあげられない。彼女の悩みは悲しすぎる。俺の共感なんて浅すぎる。

「今は生きてないでしょ。やれって言われたことをただやって。やりたいかどうかじゃなくて。やりたいこともない。死んじゃっても変わらない……」
「何があると生きたくなる?」
「わかんない。ただわくわくすることが欲しい。あんたといると少しわくわくする」
「そっか……嬉しいな。俺、あなたの歌聞いてたから」
「え、本当? 前聞いた時言わなかったじゃない?」
「なんだか恥ずかしかったし、こんなに仲良くなると思わなくて。ドミの歌声が好きだよ」

 ドミニオンはサングラスを少し下にずらして、猫みたいな目で俺の目を覗き込んで笑った。

「紅茶だけ飲もうかな」
「ふふ。うちのホームキープドロイドなら文句を言ってくるよ。せめてエネルギーに変えろって」
「じゃああんたのエネルギーに変えて」
「自分のだけで手一杯だな」
「あんたはさ、最初から捜査官だったわけ?」
「うん、そう。A492090rpのバディとして作られたから」
「嫌にならなかった? 何でこんなことさせられてるんだろうって」

 嫌に。ならなかったな。どうしてだろう。バルと大喧嘩もしたし、死にかけたりもしたのに。

「ならなかったんだ?」
「仕事好きだから。仲間を助ける仕事だからさ……」

 バルが守ってくれたから。俺がこんなのできないって言わないように。ずっと、最初から。

「いいね。あたしは何の仕事してるんだろう」
「あなたは……」

 歌手。でもそうじゃないんだね。ドミニオンの歌は人の心を捉える。前から好きだった。一番になったのは男と寝たおかげじゃない。

「心を動かす仕事をしてる」
「あはは。ほんと? 動いた?」
「動いた。あなたのライブを見てみたいよ」

 ドミはちょっとだけ笑った。

 店の外に出る。まだ何も異常はない。オートキャリアステーションまで少し歩かないといけない。このタイミングだと思う。横道があるところを通る時少し緊張する。引きずり込まれるかもしれないから。

 でもこんな真っ昼間にあんな仮面はつけられないよね、さすがに。ちらっと横のショーウィンドウを見た。後ろを歩いている男に目が行った。黒いフードを深く被って、白い骸骨のマスク……

 一気に背筋が凍りついた。

「ドミ!」

 逃げること。一番は逃げることだ。ドミの手を取る。走り出す。後ろの男も追いかけてくる。油断してたわけじゃないのに。こっちが急に走り出したから、向こうは少し遅れているがそのうち追いつかれるだろう。でも、たぶんしばらく逃げさえすれば。

「おい! お前!」

 誰かが前方から走ってくる。俺たちの横を通って後ろの男にタックルをかました。仮面の男が勢いよく尻餅をつく。そのまま誰かが仮面の男をホールドした。通りすがりの人たちがざわざわと遠巻きにする。

「15時45分、確保。現行犯です……ドミニオンさん、ご無事ですか?」

 仮面の男を抑え込みながら顔を上げたのは、ドミニオンのSPの1人、ミハイル・カッチャーだった。









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