Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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07 ドミニオン

14 Vesta (閉幕)

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「ストーカーが捕まって良かった。どうもありがとう、ミハイル」

 テンマがスイートルームのリビングで言った。 

「いえいえ。心配で付いていただけだったんですが、お役に立てて良かった」

 ドミはソファに腰を下ろしている。SPたちも立ったまま部屋の中にいる。まるで俺たちとドミたちが初めて会った日みたい。ただバルだけはこの部屋にいない。

 ミハイル・カッチャーはずっとにこにこと笑っている。

「でもミハイルさん、あそこにあの仮面のやつを呼び出したのもあなたですよね?」

 俺がそう言うと笑みが固まった。

「飲み物に何か入れられた最初の事件の時、あなたはシフトに入っていて待機状態でした。自由にホテルの中を歩き回ることができた。もちろんラウンジに行くことも。そしてあなたは立場上、防犯カメラの位置もわかっていた」
「それは、そうできたというだけの話ですよね?」
「そうですね。次の事件の時は非番です。そうでしょうね、ストーカーを部屋の前までみすみす来させた時にシフトに入っているわけにいかない。あなたはあの仮面のやつにホテルの部屋とその行き方、メッセージカードの内容を教えた」
「そんなことはないですよ」
「カードをご覧になりましたか? I love you so much……このカードからは先程捕まった男の指紋がついていました。どう思われますか?」
「だから、あの男があのメールを送ってカードも作ったんでしょう?」
「それはないと思いますね。メールではyou は略字でu一文字になっている。自分で入力したはずなのに、あえてカードにする時に書き換えたりするでしょうか? その方が手間ですよね? 恐らくですが、彼は音声のみの通話で指示されてカードのメッセージを書いた。耳で聞いただけだから、略字とはわからなかったわけです」
「証拠はない」
「少なくとも仮面の男が誰かから指示を受けていた証左にはなる。俺が襲われた時は、仮面の奴の方からあなたに連絡があったのでは? あなたはまた35階まで行く方法と、俺が詰所にいることを教えた。ドミニオンのことは邪魔できない。俺だけを脅すように言ったのではないですか」
「そんな、なんの確証もない」
「そうですね。最後に今日。どうして付いてきたのですか?」
「シフトに入っていたのでただ待機しているよりはと……。まあ正直、あなた1人ではドミニオンさんの護衛としては心許なかったからですよ」

「いいタイミングだったと思いませんか。まるでわかっていたみたいだ」
「そんな。私は言ってしまえば、ドミニオンさんとあなたを救ったんですよ? もう少し感謝してほしい」
「あなたの経歴を見ました。とても素晴らしいですよね。入職したその年にストーカーを捕まえている。翌年とその次の年はボヤを消して、不法侵入した不審者を捕まえている。でもおかしな点がありました。警察に調書を見せてもらったんです」

 ミハイルの笑みが消えた。赤みの強いブラウンの髪。青い目の、がっしりした人。どうしてそんなことを。

「ボヤですが、外部から侵入した形跡がなかったようですね。警察は内部の犯行とみて捜査したけれど、決め手がなくて諦めた。最も容疑者として疑われたのは第一発見者のあなたです」

 他の人たちは発火した場所から遠かった。火をつけることさえできない。状況証拠しかなかったから、警察は自然発火の可能性もあるとしてクローズした。

「次の事件。不法侵入者ですが、少し知的に障害のある、近くの公園で寝泊まりしていた人でした。あなたがシフトに入った直後のことですね。誰かがここに来ればごはんをくれると言ったから、という趣旨の供述をしている。体の大きな人に言われてすぐに来たと。精神障害がある可能性があったので、供述は参考にされなかった。でもこれもタイミングがいいですね、とても」
「偶然ですよ。それに、そのためのSPでしょう」
「あなたはこの国の人がどれくらいの確率で事件に遭うかご存知ですか?」
「知りませんよ。でも私たちが護衛に付くのはそういったことに巻き込まれやすい人たちです……」
「そうですね。あなたたちを必要とする人なら何倍でしょうね。2倍かな。3倍かな。一般的には300人に1人がなんらかの犯罪に巻き込まれる。3倍でも100人に1人ですよね。10倍だったとしても三十分の一です。これはすりや置き引きなど比較的軽微な犯罪も含めての数字です。あなたはそんな三十分の一の機会にこの四年間で4回も遭遇している。異常な確率だと思いませんか」
「…………」
「あなたはご自分が悪人を捕まえる機会を作り出しているんですよね? 今回は、毎日すごい数の脅迫めいたメールが届き始めたのを見て、思いついたのではないですか。ストーカーを作り出すことを」
「数字遊びだ。そんな何の証拠もない……」

 ブブブとバイブ音が響いた。俺とミハイル以外のみんなが一斉に自分のブリングに目を落とす。

「あたしじゃないわ」
「ミハイルさん、どうぞお取りください」

 俺が言うとミハイルは懐に手を入れて、自分のブリングを出しテーブルに置いた。

「俺じゃない!」
「もう一つの方です。プリペイドの。このブリング」

 俺がポケットからポリ袋に入ったブリングを取り出すと、ミハイルはそれをじっと見つめた。まだバイブ音は続いている。発信者は「レプリカント人権保護局」と表示されている。

「このブリングは、私とドミニオンが立ち寄ったカフェテリアの近くのゴミ箱に入っていたものです。私のバディがあなたを尾行して、あなたが捨てたものを拾いました。あなたの指紋が付いています」
「たまたま拾ったんです」
「それはいつ?」
「えーと……」

 ポリ袋ごしに着信を受ける。

「A492090rp。このブリングのIDはどこから?」
『仮面の男のブリングの最後の着信履歴』
「その時間は?」
『逮捕寸前。15時30分』
「ありがとう」

 コールが切れる。

「拾った。逮捕寸前まであなたが仮面の男と話していたブリングを?」

 ミハイルは深くため息をついた。

「どうしてだ! ミハイル、そんな事までして給料を上げたかったのか?」

 リチャードが尋ねた。

「99年の最初のストーカーの件も自作自演だったんですか?」
「…………あれは、違う。あれは本当にたまたま……」

 たまたまだった。家の中に変なやつがいた。声を掛けたがしどろもどろで、手を見ると護衛対象の部屋着が握られていた。とっさに体が動いた。相手は抵抗した。訓練した体術で戦って相手を昏倒させ、捕まえた。

 高揚した。自分が強く頼りがいのあるヒーローになったようだった。護衛対象にはものすごく感謝され、特別に金一封を渡された。同僚たちからも褒められた。

 次の年は単調だった。何も起こらない。ただそこにいるだけの日々が過ぎた。またヒーローになりたい。人を助け、感謝されたい………。

「お前は…………」

 リチャードがミハイルの肩に手を置いた。

「………我々の仕事は誰かを捕まえる事じゃない。そこにいる事で何も起こらないようにすることなのに……」
 




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