Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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08 デモンストレーション

01 Baltroy (訓練)

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「はい。それを瞬時にできるように。繰り返しです」

 斜め前で女性とペアになって練習しているヴェスタをちらっと見る。彼は息を切らしている。真剣。

「……あれ?」
「こっちの手で私の手首を持つんだって。こっちの手はこう、手の甲を掴む」
「はい」

 苦労している。相手の女性がイライラしているのが見ているだけでわかる。意外と、ヴェスタはこういうのは弱かった。体の動きと頭の中がついていかない感じなんだろう。覚えてはいるのに体が動かないみたいだ。

「はい。今日はここまで」
「……ありがとうございました」

 警官訓練所のセミナールームだった。マットレスをドロイドが片付け始める。15回のレッスンのうちの3回目。陸軍式格闘術のセミナー。受けるのはインターンの時以来。十年ぶり? もっとだな。

 ドミニオンの護衛の後、ちゃんと護身術や格闘技を習いたいとヴェスタが言い出したので、とりあえず警官訓練所でやってるインターン用のセミナーを探した。まあ、悔しかったみたいだ。武器を持ってたのに暴漢に何もできなかったのが。うまい具合に開講期だったから、2人で申し込んだ。ヴェスタには一人行動をパーティの夜以来させていない。

「難しい」
「向き不向きがある」
「でもできないとさ……ある程度」

 少し護身術でも身につけて欲しいというのは俺からもお願いしたいところだった。ゴーシェが不気味な話をして消えてから二ヶ月。音沙汰はない。その分余計に不安だ。ヴェスタをどうにかされるんじゃないかと気が抜けない。

「ほんとはみんなこれ、インターンでやるの?」
「そう。プログラムに入ってる。ちなみにレプリカント人権保護局では任意だけど、司法試験も受験するプログラムがある」
「………バルは?」
「通ってる。連邦捜査局の方なんかは全員合格必須だから、ザムザもウジャトも通ってるはずだ」
「えー!」

 ヴェスタは特別待遇だったからな。

「俺も受けた方がいい?」
「知ってて損はないな。余力ができたら勉強して受けてみたら。まず護身術を身につけろ」

 帰りのオートキャリアの中でもヴェスタは護身術のマニュアルをブリングの画面に開き出した。真面目。

「ここで読んだって仕方ないだろ。家で相手してやるから、頭で考えるより体動かした方が早い」
「だって全然わかんないんだもん」
「難しく考えすぎなんだよ」

 髪を鮮やかな青にしてブリングを切る。ご機嫌斜め。

「バルはすぐできたの?」
「難しく考えないからな」

 意外と。どん臭かったんだな。本人にはそうは言わないけど。射撃の方は悪くないのに。まあ、ヴェスタの取るべき護身術は一択だなと思ってはいる。「逃げる」。護衛はドミニオンみたいな特殊事例じゃない限り、こいつがやらないといけない事でもない。こいつ本人の安全さえ確保できれば。

 結婚の話は進んでいない。あの後、早速役所に結婚契約書用のIDを申請しようとしたら、なんとヴェスタから待ったがかかった。どういうことだよ。お前が最初に結婚したいって言ったんだろうが。

「結婚て! そうじゃないって聞いた!」
「どうなんだよ?」
「これから人生で起こることを全部一緒にやるってことだから、お互いの人生に関わるような家族とか友達とかに事前に挨拶するって聞いた!」

 めんどくせえこと聞いてくんなよ。いいだろ別に。どっから聞いて来るんだ? ザムザかな? 余計なこと吹き込むなよ。

「バルが必要だと思う人だけでいいんだ。でもちゃんとしよう?」
「じゃあいねえ」
「いるだろ! お母さんもお父さんもバルにはいるんだろ? ザムザの結婚式には大学の時の友達とか局の人とかいたよ」
「母親にはお前が去年結婚したって言った」
「あれは嘘ついただけだろ!」
「ちょっとタイムラグがあっただけだろ」
「お父さんは? 友達は?」
「そんなにいねえから大丈夫だ。事後報告でも」
「お父さんは一人しかいないだろ!」
「あの人も捕まらねえんだよ。変人だしな」

 とにかくちゃんとしたいってヴェスタがうるさいから、仕方なく方々にアポイントをとらなきゃいけなくなった。人の結婚なんてそんなに関心のあるやつはいないと思うけどな。

 家で食事をとってからまたヴェスタが神妙な顔で寄ってきた。

「ちょっと今日のおさらい、いい?」
「はい」

 今日のは徒手の相手に掴みかかられた時に相手の手を引き離して関節を取る練習だった。レッスンでは人体の関節と筋肉の向きからどういう方向に力をかけるかの解説と実践をやった。

「こう、だからこっちから……あれ?」
「だから。あんまり頭で考えるなよ。関節の向きがどうのこうのってのはただの、なんつーかな、予備知識だ。理由づけ。大事なのはどう動けばいいかってことだけ。考えんな。手を動かしな」

 ヴェスタの腕をがっちり掴む。指が開いてる方に骨が入るように回したらいいんだけど、身につかないとすぐにはできない。

「こうか」
「そう。まあ、お前は危ないなと思ったら逃げろよ。顔引っ掻いて逃げろ」
「なんだよそれ」
「一番端的で有効なんだよ。覚えておきな」

 ヴェスタには司法試験の方が簡単かもしれない。







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