Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

文字の大きさ
204 / 229
09 「ふたり」の形

03 Baltroy (コンロンとキンバリー)

しおりを挟む
 警察署は旧市街地のど真ん中にある。この国の保安機構の中で一番古い機関だから。高層ビルに埋もれた11階建の建物も相応に古く、幾重にもペンキが塗られたビルの壁にはクラックが入って灰色の染みができている。重々しい、息苦しいくらいの雰囲気。

「コールで挨拶するのが普通だと思ってた」
「警察は古風なんだ」

 身分証を受付で提示して二階に通された。外見通りの古くて雑然とした内部。重い鉄製の扉を開けると、一昔前のオフィスのような、一人一人のブースじゃない、デスクだけが並べられたフロアだった。

「おー! バルトロイさん。ヴェスタさん」

 一番遠くのデスクにいたキンバリーが手を振った。向かいのコンロンも顔を上げる。

「こっちこっち。申し訳ないね、来てもらって」

 手招きされて奥の方に入ると、これもまた古風な、カーテンで仕切っただけの来客用のブースがあった。

「古いでしょう。驚いた? 築80年だよ。あちこち切ったり貼ったりしながら」

 コンロンがソファを勧めながら言った。

「早速だけど、まず守秘義務の宣誓書に登録してくれ」

 四人の生体認証をかける。キンバリーからすぐにファイルが飛んできた。

「こんなに早く仕事で組めると思ってなかったけどね。指名したんだ」
「いや……ご期待に添えるかどうか」

 飛んできたファイルにざっと目を通す。自殺幇助。死んだのはヒューマン。

「………自殺幇助。レプリカントが絡んでるんですよね? どの辺に?」

 キンバリーがにやっと笑った。

 被害者の遺体は自宅で発見された。被害者の家族に、被害者のブリングから連絡があって自宅に行くと、無人の家に被害者の遺体だけがあった。外傷はなく、眠るように亡くなっていた。

 遺体のそばには遺書があり、決して衝動的な自殺ではないこと、自ら望んだ安楽死であることが切々と書かれていた。

「被害者がどんなに自殺したかったにしろ、それに協力したやつは犯罪者だ。捕まえなくちゃいけない。遺体を解剖したんだ。爪から皮膚片が出た。たぶんいざって時に怖くなったんだろうね。犯人かその共犯者に縋りついたんじゃないかな。ほんの少しだったけど、なんとかDNAは読めた。これがレプリカント用の人工皮膚だったと言うわけ。でも……」
「レプリカントには人を殺せない」
「当たり。だから、被害者が死ぬのを側で見ていたレプリカントがいるんだと思った。オーナーのヒューマンが毒を与え、レプリカントの方は手伝いをしたんじゃないかと。このレプリカントが捕まえられれば、犯人のことも捕まえられる。きっとね」

 なるほど。それで……

「君のとこの局長に君たちを貸してくれと相談したら、OKが出た」
「いや……これは難しい」

 手がかりが無さすぎる。捕まえるだけくらいの軽さで来たが少し頭を抱えた。

「そうなんだ。難しい。鑑識が何度も部屋に入って洗いざらい調べてくれてるけど、被害者も暴れてないから何もない。皮膚片だけ。力を貸して欲しい」
「……わかりました」
「よろしく」

 コンロンがさっと出した手を握ると、キンバリーはヴェスタの方に手を差し出した。ヴェスタは真っ青な髪でその手を握り返した。コンロンはあまり読めない表情で、口元だけで笑った。

「今度四人で飲もうね」



 



 レプリカント人権保護局に戻って改めてキンバリーから送られてきたデータを見る。遺体はメアリ・トールロー、48歳の女性。遺書のデータもある。ざっと目を通すが、「信頼できる人に安楽死させてもらう」としか書かれていない。でも……

「安楽死させてもらう、なわけだ」
「どういうこと?」

 いつものように右側から画面を覗き込んでいるヴェスタの髪はまだ青みが強い。

「自殺を助けてもらうってだけなら普通、『安楽死』って表現はしない。『死なせてもらう』『殺してもらう』がいいとこ。それにこんなにきれいに死ねない。彼女の場合、楽に死ねる薬をちゃんと致死量だ。プロが絡んでるんじゃないか」
「プロ?」
「安楽死できるやつ。医師とか、非合法でこういうことをやってる人間か」
「レプリカントは医師になれる?」
「なれない、お前だけだな」

 ヴェスタはこちらを不思議そうに見上げた。

「医師は内科だろうが耳鼻科だろうがヒューマン相手に注射したり、侵襲性のある検査をしたりしなきゃならない。AIが入ったレプリカントにはそれはできない。『ヒューマンに危害を加えること』に当たるから」
「そっか……」

 資料をもう少し読み進める。やはりコンロンとキンバリーも医師会に照会をかけている。安楽死を手がける医師。この州では安楽死は合法だが、専門の医師は少ない。数えるほど。一人一人へのインタビューもしている。アリバイがない医師がいない。

「笑っちまうな」
「どうしよう? 手がかりがない……」

 コンロンとキンバリーほどのベテランのコンビが助けを求めてくるはずだ。雲を掴むみたいな話。

「仕方がない。レプリカントだ。被害者に引っ掻かれたレプリカントを探す……。俺たちにできることはそれしかない」

 とはいうものの、引っ掻き傷のあるレプリカントを全員しょっぴくわけにもいかないし、もう治っているかも知れない。何が。何があれば特定できる?








しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

恋人はメリーゴーランド少年だった。

夏目奈緖
BL
溺愛ドS社長×ツンデレ高校生。年の差恋愛。社長からの告白と束縛に戸惑う高校生。すれ違いばかりの片想いから恋人同士へ。ひねくれもの天使的な高校生と心を閉ざした会社社長との年の差BL。中山夏樹(18)は従姉妹の結婚式の2次会で、倒れてきた酔っ払いの下敷きになり左手に怪我を負った。助けてくれたのが、会場レストラン経営の黒崎ホールディングス代表取締役社長・黒崎圭一(33)。左手の抜糸がすむまで黒崎の車で送迎されることになった。黒崎は誰にも心を開かない。夏樹も同じである。しかしながら、夏樹は黒崎の前だけは自分の意思とは反対に、本音を吐き出す。2人は孤独を抱えており、夏樹は黒崎に惹かれていく。黒崎は夏樹に一目惚れし、執着する。

【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子
BL
 この世界は、αとβとΩで出来てる。  生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。  今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。    βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。  小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。  従って俺は戸籍上、β籍になっている。  あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。  俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。  今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。  だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。  だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。  学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。  どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。  『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。

処理中です...