Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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09 「ふたり」の形

17 Baltroy (あの日の不在証明)

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 最後。何を耳打ちされた? お前もなんて言った?

 まあ、聞けない。イラッとしてぱっと口に出して、ヴェスタが余計に喋らなくなったのが現状の一因だからだ。何で鍵かけた? 割れたマグカップ。

 やれやれ。

 ヴェスタの席を振り返ると、ヴェスタは端末で何かを一生懸命調べているようだった。何を調べてるのかな。

 さて。
 端末に向き直る。何かヒントがあるはずだ。メアリの件が立証できないとログバートには裁判では大した罪名はつかない。罰金かちょっとした禁固刑くらいで終わってしまう。もちろんエミールのこともそのままになる。

 メアリの口座の履歴を見直す。かなり頻繁にログバートクリニックに通っている。月に3回というところ。
 他の安楽死した人たちのケースを見てみる。まあ似たようなものだ。月に何度もカウンセリングを受けている人もいるし、月に一度くらいを半年ほど繰り返して死んだ人もいる。
 病状によって? エミールは病状については知らないと言った。ペースを決めていたのはそれならログバートだったんだろう。

 そうか?

 あんな自分の脳みそをどっかに忘れてきたようなやつが、そんな気の利いたことをするか? 「本当に医師免許取れたのかってくらいアホ」なんだろ。

 医師免許か。

 オレグ・ログバートの医師免許のIDを医師会に照会する。取得は14年前だ。年齢と学歴から言って、ストレートで合格している。当時のログバートの画像がIDの横に出た。茶色の髪、グリーンの瞳。すらりとして、14年前は今の彼とは別人だ。まるで……

「ん?」

 エミール・ボネットの戸籍を開く。支配率20%、15年前のレプリカント。プレインストールされている知識は医師。茶色の髪と・・・・・グリーンの瞳・・・・・・

 可能性の話だ。でも、例えばオレグが全く努力というものをしたがらないやつだったら。

 自分と印象が似たレプリカントに医師の知識と技能を入れて、自分の代わりに医師免許の学科試験を受けさせる。自分は手技のところしかやらなくていいわけだ。そして病院で働き出すが、当然知識がないから仕事ができない。ミスばかりして辞めざるを得なくなる。

 ログバートクリニックの設置年を確認する。10年前だ。第三カウンティ・ホスピタルで医療事故を起こして辞めた時期と重なる。出資者はカート・ログバートになっている。恐らく不詳の息子の居場所を作るために、父親がこんな、失敗しても死人に口無しの安楽死施設を作ってやったんだろう。

 そして………。

 その予想が当たりなら。実際に患者を診て、患者の状態に合わせてカウンセリングをし、全ての段取りをしたのは……。

「おい、ヴェスタ。お前今何調べてる?」
「……ログバート医師の行動。メアリが亡くなる当日の」
「どうだった?」
「どうって……彼は……」
「やってない。そうだろ。どっか全然違う場所に居たんじゃないか?」
「そう。だからメアリに薬を渡したのはログバート医師じゃない」
「そのデータをこっちにもくれ。聴取室に行く。メアリを殺したのはエミールだ」
「だって……!」

 ヴェスタはぱっと振り向いた。嫌か? 嫌だろうな。

「レプリカントは人を殺せない……! 俺以外はできないんだろ? エミールさんじゃないよ!」
「そうだよ。人は殺せない。データを寄越しな、ヴェスタ」
「………」
 
 ピンとデータが飛んでくる。オレグのその日の行動が時系列になっている。メアリは郊外の小さなアパートで死んでいたが、彼はまさに彼女が死んだ午後に街のど真ん中のホテルで女と会っていた。コールガールだ。
 既婚者でも風俗は別腹ってやつがいるのは知ってるが、昼間っからっていうのは大したもんだ。

「ありがとう。よく調べてある。聴取室に行こう」
「行きたくない……」

 仕事なんだよ。ヴェスタ、これが。

「だめだ。言っただろ、1人での聴取は俺もお前もこないだのが最後だ」

 ヴェスタは立ち上がらない。お前とあいつの間に何があるのか。これが俺の希望的推理なのかどうか。俺は知らないけど、確認は必要だ。

「ヴェスタ。今行かないんなら、俺はもっとエミールを追い詰めないといけない。言い訳もできないくらいに全部の証拠をかき集めて、袋叩きにしなきゃならない。お前の……大事な人なんだろ? そんなことさせるなよ」

 ごめんな。

 ヴェスタはやっとゆっくり立ち上がって、スカイブルーの髪で付いてきた。廊下の途中で、ヴェスタがそっと俺の腕を掴んだ。

「バル、お願い。エミールさんに……ログバート医師があの日何をしていたか、言わないで……」
「あの日?」
「メアリさんが死んだ日」
「……わかった」






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