Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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09 「ふたり」の形

21 Baltroy (Occupied)

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「いいでしょう」

 エミールは笑みを絶やすことなく言った。

「オレグは前科がつく。それは確かなようですから。メアリの件は私です。メアリがあまりにかわいそうでしたので。あと40年も孤独に生きて一人で死ぬのは不可能だと言う彼女に同情したんです」
「……手を繋いであげたんですね」

 ヴェスタが言うと、彼は軽く頷いた。

「そばにいる事を確認させて欲しいと言われたので。爪を立てられたのは誤算でしたね。それが無ければレプリカントが犯人だとは思わなかったんじゃないですか?」
「いえ。いつかあなたに辿り着いたでしょう。あなたは今度は検察に送致されます。お元気で」
「はい。お元気で。あなたもパートナーの人とよく話せるといいですね」






 聴取を終え、コンロンとキンバリーに今回の件を報告して打ち上げの日程を決めてしまうと、もう定時だった。ヴェスタとオートキャリアに乗って、昼間の件を尋ねてみた。

「一番の秘密って何」
「それは、秘密」
「今ならレッダも聞いてない」

 ヴェスタはふふっと笑った。でもすぐに少し俯いて目を伏せた。

「秘密だけど、わざわざバルに言う事でもないんだ。気にしないで」
「ヴェスタ」

 その小さな白い横顔に触れる。キスする。久しぶりだ。ヴェスタは一瞬身を固くしたが、ゆっくりと力を抜き、俺の肩に指を掛けた。唇を離す。髪は淡いグリーンに光っている。

「言ってみな」
「……前に言ったこと、を、蒸し返すことになるし………」

 前に言ったこと………

「ほんとに。いいんだ。エミールさんは大袈裟に言っただけだよ。俺を混乱させたかったんだろ……」

 前に言ったことか。何だろうな……ちょっと真剣に思い出してみよう。

「バル」

 ヴェスタが考え始めた俺の顔をぐいと自分の方に向けて、唇を重ねた。とても官能的に。

「全然部屋に来てくれないから……」
「だって鍵掛けてただろ」
「バルなんか5年掛けてただろ」

 でも俺はちゃんとノックしたよ。ヴェスタは俺の耳元で囁いて、耳を軽く噛んだ。





 ヴェスタのドアを久々にノックする。コン、と軽い音が響く。ドアの向こう、光度をかなり絞った室内灯の中で、ヴェスタが待っている。

 俺がヴェスタのベッドに乗ると、深く沈んでみしりと音を立てる。かける言葉はない。ただ貪るようにキスして服を脱がせる。白い滑らかな肌。甘い首筋。桜色の唇から吐息が漏れ、淡い緑の髪は白くシーツに溶けそうになる。ヴェスタの肌のにおい。細い指が俺の体をつたい、硬く勃ち上がったそれに触れる。

「……すごい……」

 だから。あんな香水要らねえって……。

 ヴェスタの真珠のような肌に歯を立てると、そのたびぴくんと反応が返ってくる。いつもはヴェスタが焦れるまでその敏感な体を探って開いていくけど、今夜はそんな余裕がない。

「………きて」

 ヴェスタがまるで心を読んだように囁く。傷はつけたくない。衝動をなんとか抑えながらゆっくり、ゆっくり押し入って行く。しばらくしていなかったからか、いつも以上にきつく狭い。ヴェスタが短い呼吸を繰り返しながら少しずつ受け入れて行く。溶けそうに熱い。

「だ、いじょぶ……か?」

 白い髪が健気に縦に揺れる。中がまるで別な生き物のように複雑に蠕く。突き上げ、抜きかけると離すまいと絡み付いてくる。何度も、何度も。

「ちょ……ヴェスタ、一回……」

 ヴェスタが俺のうなじに固く巻きつけていた腕を解く。抜くと思ったのか、体を挟み込んでいた膝を開いて立てた。紅潮した頬、潤んだ瞳。普段、人前では大人しげなヴェスタの、惚けて乱れた顔。たまらない。奥まで深く貫く。

「ひあっ!」

 細い爪が背中に食い込む。その痛みさえ劣情を煽る。

「ごめん……一回、いく」

 固形かと思うくらいの濃いやつをヴェスタの中に打込む。ヴェスタもそれを感じてか、ぶるっと体を震わせた。汗が伝い落ちる。萎える気配がない。そのまま続けて叩き込む。搾り取られるようだ。この獰猛な熱を全部受け止めるしなやかな体。

「……バル………」

 心臓が震える。ヴェスタが何度もいくのがわかる。シーツを握り締める手に手を重ねる。何もかも愛しい。その小さな背中を押し潰すように後ろから入れる。ヴェスタの感じるところをごりごりと抉る。

「だめ! ほんとに……そこ…だ……め」

 びくびくと跳ねる体を押さえつけて蹂躙する。俺から離れられなくなれと祈る。オーナーのつもりでいて、すっかりお前に支配されてしまった。脳みそを使い物にならなくする甘い声と、快感に強張る細い手脚。

「…う、ぐ」

 2度目の吐精。ヴェスタはもう声も出せないようだ。肩で息をして、時々けいれんするようにぴくりと震える。ゆっくりと抜き取ると、軽く開かれた足の間から白濁した液体が流れ落ちた。まだ足りない。朝までやりたい。ヴェスタの背中に唇を這わせる。体が波打つ。時計を見る。日付が変わりそうだ……。

「続き……続きは週末」

 もう一度食らいつきたい欲求をなんとか堪えて言うと、ヴェスタは重そうに仰向けに寝返りを打って、俺の腕の中に収まった。髪がゆっくりとエメラルドグリーンになり、鮮やかな新緑色を通って深い緑色に変化していく。「happy」。
 髪の隙間の白いひたいにキスをする。ヴェスタは目を閉じて「幸せ」と呟いた。

「……お前、何であの香水なんか使った? あれどうした?」

 ヴェスタは目を閉じたまま少しだけ笑った。

「……バルが全然来てくれないんだもん」
「だってお前、部屋に鍵掛けてただろ? それに、まだ使えるか試したかったって……」
「だって……なんだかすごく言いづらくて……。それに、あれ、確かめなきゃと思ってたのはほんとだし。エミールさんが、旦那さんと顔を合わせても会話もなくなってしまったって言うから、もし、好転するんならあげようと思ったんたけど、5年も前のだったからまだ使えるかわかんなくて……。ほら、あれ、俺たちには効かないから」
「あっ!」

 そうだった。レプリカントには効かないんだ。ヒューマンの男にしか効かない。ヴェスタがエミールに使えるはずがなかったんだ。すっかり忘れていた。なんで気付かなかったのか……。気を揉んだのがばかみたいだ。

「あげたのか?」
「うん。効いたみたいだよ」
「まったく……言ってくれれば」
「ごめん、だってバル怒ってたから……」
「怒ってたんじゃない。お前が別れたくなってんのかなと思って」
「そうなの? どうして?」
「他の男のにおい付けてたし……結婚も指輪も嫌だって言うし」
「他の男のにおい?」
「そう。毎週土曜日に黙って出てって他の男のにおいつけて帰ってくるから……」
「そんな……カウンセリングに行ってたんだよ! においなんかついてると思わないよ! 話をするだけなんだから! バルはそんなの興味ないと思ってたし……なんで言ってくれなかったの! 仕事でも全然、メアリさんの件振ってくれないし」
「あ……そうだったか?」
「そうだよ! だから俺、頼りにならないのかなあって……。香水付けてった時も、俺のことすごく嫌がってたし」
「あれはお前が嫌だったんじゃねえよ。香水が嫌だった……痛かっただろ?」

 返事の代わりに、ぱっとその頬が赤くなった。

「その前に、自分で……」
「自分で?」
「うん……あの……。少し、触ってた……の」
「自分で?」
「あんまり言わないで!」

 どんとヴェスタの手の甲が俺の胸を叩いた。かわいい。

「……香水つけてした次の日、バルが好きなとこに行けよって言うから、もう完全に嫌われたなって」
「あんな香水つけてくるからだ! 素っ裸でベッドに潜り込んでくりゃ十分だったのに」
「だってそれで追い返されたら立ち直れないよ! 前にそれやってダメだっただろ」
「いつ?」
「アラスターの家に行く前の日」
「あの時はお前がアラスターと付き合ってたからだろ!」
「だから! 今はバルの恋人なのに、帰れって言われたら、もう終わりだろ。だから……どうしても、バルに受け入れてほしくて、つけてったのに……来るなって言うから……。もうだめなんだなあって。それからは感情的になって、言葉が出なくて」
「お前が今さら感情的になったって驚かねえよ」
「でも、俺が泣いてたら話にならないだろ。顔見ると泣きそうになって……別れようってちゃんと言われるのが怖くて……。マグカップも割っちゃったし」
「バカだな……」

 バカなのは俺もか。

「ねえ、俺、バルに来て欲しかったんだよ」

 どうして疑ってしまったんだろう。これまで付き合ってきた女たちとヴェスタが同じはずないのに。

「なんか……色々勘違いしてた。ごめんな」

 ヴェスタを抱き寄せる。ヴェスタのにおいがする。その左腕の内側に唇を付けると、ヴェスタはにっこりと微笑んだ。

「……あれまた言って欲しい……」
「あれ?」
「香水つけてした・・時の。香水のせいだとは思ったんだけど……普段バルは言わないから、すごく嬉しかった」
「……!」
「やっぱり覚えてないか……」
「や……覚えてる! 言った。別に香水のせいじゃねえよ」
「………」

「……愛してるんだよ」

 ヴェスタは髪をまた一気に真っ白にしてぎゅうと抱きついてきた。それからそっと体を起こし、頬に優しくキスした。そして小さな声で「俺も愛してる」と囁いて、するりとベッドを抜け出し、シャワールームに走って行った。

 あの朝、香水を使われて、ヴェスタを抱いて寝た明け方にも同じように囁かれたのを思い出した。夢じゃなかった。「一番の秘密」については誤魔化された気がしたけど、ヴェスタがシャワーを終えて腕の中に戻って来て、すやすやと眠りだすのを見ながら、久々に安心して眠ることができた。








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