相対間引力 subliminal gravity

黒遠

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side B04

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 春になった。エンマが無事入学して来た。ほんとにほっとした。まああんな真面目なら受かるだろうとは思ってたけど。

 俺は三年になって、ほとんどの授業が学部棟になった。学科によって講義室がほとんど固定だから、三階の端の講義室でたいてい講義科目を受ける。そこの窓からは総合校舎のA棟の裏口がよく見えた。

 A棟の裏口は、次の授業がC棟の学生がよく出入りする。ある日、エンマがポンとA棟から出て来たのに気付いた。火曜日の一コマ目終わり。他の学生に混じって、案の定C棟に向かって歩いていく。こちらには気づかない。へー、と思った。

 翌週も同じ時間になんとなく見ていると、エンマともう一人が連れ立って出てきた。友達かな。何か話しながら歩いている。エンマに絡みながら歩いているやつは短髪で髪の色がアッシュグレイだった。遠目だからそれしかわからない。色白で華奢なモデルみたいなエンマと並ぶとかなり目立つ。身長もエンマと同じぐらい。ふーん、と思った。

 その次の週はエンマは4、5人の学生に紛れるようにして出てきた。みんな友達同士らしく何かを口々に話している。アッシュグレイがエンマの肩に手を置いている。エンマの方はその手を気にしている様子はない。

 その次の週はまたエンマとアッシュグレイが二人で出てきた。何かで笑い合っている。最近エンマをあんなに笑わせてないな。アッシュグレイがエンマを軽く肘で押す。すっかり火曜日の十時二十分に窓の外を眺めるのが習慣になった。ストーカーか。我ながらどうかしてると思った。

 その次の週は、エンマとアッシュグレイともう一人で出てきた。エンマがもう一人に何か話していて、アッシュグレイは並んで相槌を打っている。アッシュグレイが右腕でエンマの肩を笑いながら押す。あいつ……

 たった数分、数十メートル歩くだけの間でああなんだから、一日トータルでどのくらいあの二人はあんな感じで過ごすのか。

「ブッチ……」

 ゼミ友に声を掛けられて振り向くと、声を掛けてきたヤツは一歩後ずさった。

「ブッチ、何?スゲー眉間にシワ。なんかあった?」
「なんもねえよ」



 聞けばいいんだよな。あいつ誰って。

 翌日の水曜日、よっぽど聞こうと思った。でも最近またエンマはちょっと距離感のあるエンマに戻ってしまっていた。なんでなんだろう。セックスするとすごく感じてくれるし応えてくれるのに、終わった後複雑な顔をする。俺はそっちの方が気になって仕方なくなる。でもなんて言ったらいいのかわからない。

「なあ、おまえどうした?」
「何が?」
「なんか、うーん……元気ないよな?最近ずっと」
「そうかな?そんなことねーよ?」

 そうかな。そんなことねーよ。




 木曜日は三コマ目が開いてるんで、よく3x3をやりに行く。二、三試合できるからかなりいい気分転換になる。
 その日はたまたま昼にも学食でエンマに会った。

 エンマは目立つ。本人は気づかないみたいだけど。例によってあのアッシュグレイと一緒だった。動くから軽くだけ食べてさっさとコートに行った。朝のうちはかなり涼しかったのに、昼を回って気温が上がり始めていた。まあいい。ちょっと体を動かしてすぐ試合が始まる。人が集まり始める。

 俺はどんなにギャラリーが多くてもあまり気にしない方。応援されりゃ気合いは入るけど、どちらかというとゲームに集中してしまう。でもこの日は違った。
 コートのすぐ脇の木の下からエンマが見てるのが見えた。一瞬そっちに気が行って、ボールを持っていかれた。まずい。集中。点を取り返したところで前半終了。

「エンマ!」

 ハーフタイムは一分しかない。暑い。
 エンマにシャツを投げた時、隣にまたアッシュグレイがいて、しかもエンマの肩に肘を乗せてもたれているのが見えた。イラッとした。離れろ。

「持ってて」

 すぐに後半が始まる。こんなに気が散ったのは初めてだった。俺的にはグダグダだったけど試合には勝った。不本意。気温が上がっている。暑い。汗だくになった。しかもタオルをロッカーに入れたままなのを思い出した。エンマに声をかける。

「タオル持ってね?」
「あ、ある」

 エンマはすぐにタオルを貸してくれた。女子マネかよ。ありがたい。俺が近寄ったらアッシュグレイはエンマの肩から腕を下ろした。
 エンマにシャツを預けて次の試合。開始すぐに予鈴が鳴って、エンマ達が慌てて抜けたのが目の端に映った。三コマがあったんだろう。

 翌週の水曜日、エンマが預けていたシャツを持ってきてくれた。洗濯されていて、エンマの服と同じにおいがした。

「洗濯済み!サンキュー」
「俺が見てんのよくわかったね。すごい人いたのに」
「そりゃわかんだろ。おまえ目立つし」

 こいつは自分を一度外側から見てみた方がいい。ソファに座ったエンマの白い首にキスする。柔らかい。跡をつけてやりたいけど、こいつは嫌がるだろう。

「俺の友達があのキャーキャー言ってた女の子たち紹介してほしいって言ってたよ」
「友達ってあのいっつも一緒にいるやつ?アッシュグレイの」
「そう。カナエ……知ってんの?」
「いつ見かけても一緒にいるなと思って」

 一気に腹に溜まってた黒いものが噴き上がってくる。

「カナエって言うのか。すごいベタベタ触ってるよな。いつ見ても」

 我ながら嫌な言い方したなと思う。醜い。口に出してから後悔した。

「そうかな?あんま意識したことない……あいつ帰国子女だから誰にでもそうなんじゃない?いいやつだよ」

 見るたびエンマにしか触ってないが。これ以上後悔したくなかったから、深くは追わなかった。

「紹介してほしいって……別に俺の知り合いなわけじゃねーし。ただ見に来てるだけだろ」
「でも話くらいすんじゃねーの?くおんのこと大好きなんだろ、あの子たち」

 ?

 エンマも引っかかる言い方をする。色違いの瞳を覗き込むと、エンマはさっと目を逸らした。あの子たちは誰にでもキャーキャー言うんだよ。知らねーのか?

「妬いてんの?」

 エンマがカッと赤くなった。かわいい。







 

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