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ギム
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出会いは幸いだから。
それは、この世界に来たばかりの時にシュトロウが教えてくれたことだった。出会いは全て幸いだから、何一つ無駄ではない。ではこの、50年前の物語をめぐる出会いは、自分にとってどんな幸いになるんだろうか。別れを受け入れて最後の日々を過ごしたサヨと同じように、それを受け入れ、それぞれの幸せを見つけろと言うことだろうか。
「懐かしいな、ギムの街の広場」
シュトロウが言った。本当だ。この町にはあの時も何日かいたから、あちこち見知っている。トランと初めて会ったのもここだった。
「あれ、トランじゃないか?」
言われてよく見ると、人だかりの真ん中でトランが歌を歌っていた。
「ますます去年みたいだ」
「じゃあ再現しようか」
上着をシュトロウにパスする。トランが気づいて軽く手を上げる。
「踊る」
「了解」
師匠の葉をリジンする。トランの曲に合わせて、これで踊るのは格別に気分がいい。またシルシが育ったので、2曲続けて踊れる。
「リジンしないで踊ればいいのに」
「まだまだ無理だよ」
そして上達させる時間はない。でも毎月の練習のおかげで、体中ギシギシ痛むようなことはもうない。トランはどうしてここにいるのかな。
「たまたま?」
「いや、アストラから帰って来るならギムを通るだろうと思って」
素直に嬉しい。
タキとはブリムの家で別れた。最後にどうしてもタキに言っておきたいことがあった。
「タキさん、一つだけ、話しておきます。俺の恋人はエルフで、アーガの木がどちらの旅人を……エイダンを元の世界に返すのか知っていた。アーガの木が選ぶのは英雄の方じゃない」
タキは生気のない目でシロを見た。
「……アーガの木が元の世界に戻すのは、この世界で学ぶべきことを学んだ方の人。偉いから、英雄だから返されるのではない。召喚士の人はあなたを試したか、間違った伝承が伝わっていたかのどちらかだったんだ」
タキがもしも、嘘を真実とする力を正しく使っていたら。虚構を守ることの無意味さを理解していたら。帰るのはタキだったのかも知れない。そしてネネリオも、自分の力を悪用することなく、何か正しいことに使っていれば。
もう仕方がない。アーガの木は選んだ。確かに俺は学んだ。元の世界では存在すら知らなかったことを。だからネリがあの夜、泣きながらアーガの木がどうやって帰る旅人を選ぶのか話してくれた時、どうしようもなく腑に落ちてしまった。こんなにたくさん、心からこぼれ出るほど沢山のものを学んだ。それは選ばれるに決まっている。
サヨも最後はこんな気持ちだったのかな。彼女は条件を知らなかったと思うけど。
汗が引くのをトランの隣に座って待っていると、色んな人が通り過ぎて行った。傍にはネリがいて、その隣にシュトロウがいる。太陽が輝いて、埃っぽい広場の石畳を照らし、連なる市の屋根屋根が色とりどりに輝いている。
目に焼き付けていこう。
元の世界の夢の中で、いつも俺は少しだけこの世界のことを覚えている。大半を忘れてしまっても、きっと元の世界に持っていけるものがあるはずだ。だって元の木阿弥になるのなら、アーガの木は旅人を返したりはしない……。
そうだろ。それくらいは許してほしい。この世界で俺がトランのサーガの中だけの人になってしまったとしても。
「歌おうか。お前の好きな歌でいい。本気で歌ってやるよ、リジンして」
トランが言った。暗い顔をしていたからだろう。
「そうだな……ああ、俺が歌いたいな」
ふと思い出した。トランの師匠の葉を持ったままだった。
「ほら、エストランドさん?お前の師匠の葉を預かってるだろ。あれをリジンして、歌ってみたいな。もう最後だろうからさ」
太陽が、もう真夏だと言っていた。タイムアップ。ここまで。この世界でやり残したことをやって……。
消えるしかないのなら、俺もサヨのように、この世界の人たちの幸せを願って、消えたい。
「また、爪が割れるよ……」
「いいよ。ネリに治してもらう」
「まだお前、リジンできないだろ……」
「明日」
明日も俺がいるかはわからない。いるといい。
トランは唇を噛んで、楽器を鳴らし始めた。歌のない曲。明るい曲だったけど、涙が出て、太陽が眩しいふりをして顔を伏せた。
それは、この世界に来たばかりの時にシュトロウが教えてくれたことだった。出会いは全て幸いだから、何一つ無駄ではない。ではこの、50年前の物語をめぐる出会いは、自分にとってどんな幸いになるんだろうか。別れを受け入れて最後の日々を過ごしたサヨと同じように、それを受け入れ、それぞれの幸せを見つけろと言うことだろうか。
「懐かしいな、ギムの街の広場」
シュトロウが言った。本当だ。この町にはあの時も何日かいたから、あちこち見知っている。トランと初めて会ったのもここだった。
「あれ、トランじゃないか?」
言われてよく見ると、人だかりの真ん中でトランが歌を歌っていた。
「ますます去年みたいだ」
「じゃあ再現しようか」
上着をシュトロウにパスする。トランが気づいて軽く手を上げる。
「踊る」
「了解」
師匠の葉をリジンする。トランの曲に合わせて、これで踊るのは格別に気分がいい。またシルシが育ったので、2曲続けて踊れる。
「リジンしないで踊ればいいのに」
「まだまだ無理だよ」
そして上達させる時間はない。でも毎月の練習のおかげで、体中ギシギシ痛むようなことはもうない。トランはどうしてここにいるのかな。
「たまたま?」
「いや、アストラから帰って来るならギムを通るだろうと思って」
素直に嬉しい。
タキとはブリムの家で別れた。最後にどうしてもタキに言っておきたいことがあった。
「タキさん、一つだけ、話しておきます。俺の恋人はエルフで、アーガの木がどちらの旅人を……エイダンを元の世界に返すのか知っていた。アーガの木が選ぶのは英雄の方じゃない」
タキは生気のない目でシロを見た。
「……アーガの木が元の世界に戻すのは、この世界で学ぶべきことを学んだ方の人。偉いから、英雄だから返されるのではない。召喚士の人はあなたを試したか、間違った伝承が伝わっていたかのどちらかだったんだ」
タキがもしも、嘘を真実とする力を正しく使っていたら。虚構を守ることの無意味さを理解していたら。帰るのはタキだったのかも知れない。そしてネネリオも、自分の力を悪用することなく、何か正しいことに使っていれば。
もう仕方がない。アーガの木は選んだ。確かに俺は学んだ。元の世界では存在すら知らなかったことを。だからネリがあの夜、泣きながらアーガの木がどうやって帰る旅人を選ぶのか話してくれた時、どうしようもなく腑に落ちてしまった。こんなにたくさん、心からこぼれ出るほど沢山のものを学んだ。それは選ばれるに決まっている。
サヨも最後はこんな気持ちだったのかな。彼女は条件を知らなかったと思うけど。
汗が引くのをトランの隣に座って待っていると、色んな人が通り過ぎて行った。傍にはネリがいて、その隣にシュトロウがいる。太陽が輝いて、埃っぽい広場の石畳を照らし、連なる市の屋根屋根が色とりどりに輝いている。
目に焼き付けていこう。
元の世界の夢の中で、いつも俺は少しだけこの世界のことを覚えている。大半を忘れてしまっても、きっと元の世界に持っていけるものがあるはずだ。だって元の木阿弥になるのなら、アーガの木は旅人を返したりはしない……。
そうだろ。それくらいは許してほしい。この世界で俺がトランのサーガの中だけの人になってしまったとしても。
「歌おうか。お前の好きな歌でいい。本気で歌ってやるよ、リジンして」
トランが言った。暗い顔をしていたからだろう。
「そうだな……ああ、俺が歌いたいな」
ふと思い出した。トランの師匠の葉を持ったままだった。
「ほら、エストランドさん?お前の師匠の葉を預かってるだろ。あれをリジンして、歌ってみたいな。もう最後だろうからさ」
太陽が、もう真夏だと言っていた。タイムアップ。ここまで。この世界でやり残したことをやって……。
消えるしかないのなら、俺もサヨのように、この世界の人たちの幸せを願って、消えたい。
「また、爪が割れるよ……」
「いいよ。ネリに治してもらう」
「まだお前、リジンできないだろ……」
「明日」
明日も俺がいるかはわからない。いるといい。
トランは唇を噛んで、楽器を鳴らし始めた。歌のない曲。明るい曲だったけど、涙が出て、太陽が眩しいふりをして顔を伏せた。
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