実践的擬態 Practical disguise

黒遠

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「お~、いんじゃね? エンマらしいよ。うちのモデルハウスにして!」
「やだ。パンフには載せてもいいよ」

 ファミリー向け。平家だけど規制ギリギリの高さのロフトがある。部屋割りには前の家の面影を残す。母と俺の部屋の二室だったところを、六畳の三室に変更。水回りの位置はそのまま。本当は四人家族想定で一室を広めにして残りで四畳半二つにするか迷ったんだけど、いずれ大して広くは取れないからやめた。
 LDKの出入り口ドアには、つっかえ棒みたいなドアの真上にはめて子どもが出入りできなくできる長い棒がついている。このつっかえ棒は下の方に固定して、大きめのドアノブにもできるからバリアフリー対応でもある。

 ロフトは階段が収納式なので、基本は大人が出してやらないと子どもは登れない。まーでも、年取ったらロフトは使わなくなるかもな。あそびでロフトの張り出しに芯材を入れて、ブランコをつけた。ハンモックもいける。やろうと思えば。
 ブランコは邪魔ならロフトに上げればいいし、はずそうと思ったら取れる。ただブランコの周りに家具家電は置けないよね。ほんとにあそびだな。

 個別の部屋の方は、手前が子供部屋想定。隣の部屋との間の壁に室内窓がある。隣の部屋がお母さんかお父さんか、子ども見張りたい人の部屋。室内窓から子供の様子が見える。
 でも子どもが大きくなってからも見張られるようだとかわいそうだから、身長が130くらいなら下ろせるブラインドが子供部屋側の窓枠に入れてある。ブラインドと言っても板一枚のシンプルなもの。ガラスに直接何か描いたり貼ったりしてもらってもいい。

「子ども中心て感じかな」
「まあ、子どもがいる家庭だとある程度大きくなるまではさ。そこなんだよね。普通なら、子どもが小さくて色々制限かけたい時期があって、住宅の寿命より早くその時期が終わるから、子育てには不便な大人向けの家で子育てすることになる。自分でゲートつけたり工夫してさ。これは子どもが成長しても対応できる家にしたつもり」

 結局そういう家になった。でも設計は楽しかった。

「じゃあ、子どもと住まないと」
「うーーん……まあそうなんだよな」

 正直に言うと、ソーマくんのことを考えながら作った。やんちゃなこともしそうな感じの。体動かしたがりそうな。ロフトの階段を伸縮式にしたのは、固定だと彼が勝手に登って飛び降りてきそうだったから。下にソファなんか置いたらえらいことになる。

「ほんとに先輩とシェアしたら? 住んでみないとわからないでしょ。子どもが。おまえの子供ができるの待ってたら次の改築の時期になるよ。今の彼女と結婚する気ないだろ」
「なんでわかんの?」
「冷めてるだろ。結婚て勢いっていうからさ。最初から勢いがなかったじゃん。相手若すぎるし」

 冷めてる。はたからもわかるくらい。そうか……。




 二月になっていた。凛は卒業制作の発表会も終えて、最後の学生時代を楽しんでいるようだった。友達と卒業旅行で三月にフランスに行くと言う。

「エンマくん行ったことある?」
「ないなあ。てか、海外に行ったことない。スペインには行ってみたいと思ってるんだけどね。ガウディの街があるから」
「ガウディって何? ブランド?」
「街一つデザインした建築家だよ。永久に完成しない教会を設計した人。フランスで何見てくるの?」
「ルーブル美術館とか。あとワイン飲みまくるんだ」
「そっか」

 いつものコースなら、レストランで食事して、彼女の部屋に寄って、そのまま泊まるか終電があれば家に帰る。平和なお付き合い。誰に隠すこともない。街でも腕を組んで歩ける。彼女はかわいい。好き。彼女にいろんなことを教えてもらった。

「ねえ、凛」
「んー?」
「別れよう」
「……言うと思った。なんかさー、最近エンマくんそんな感じだったよね。だんだん離れてった。彗星の軌道みたいに」

 この子のこういう表現がほんとに好き。

「別の星の引力に引っ張られて何処かに行っちゃうのよ。あなた、別な人と比べてたでしょ。ずっと。そういうのわかっちゃうからやめた方がいいよ」
「そんなことは……」
「あったよ。別な人のこと考えてた」
「……ごめんな」

 凛がぼろぼろっと泣き出した。でももう「泣かないで」って涙を拭いてやるわけにはいかない。

「凛はすごくかわいいし好きだよ」

 いい人ぶらないようにしたい。ちゃんと俺の気持ちを言わないといけない。俺が振り回して傷つけたんだから。

「ほんとに好きだった。その言葉の選び方とか、ユニークな感じとか。でも俺、どうしても忘れられない人がいるんだ。ずっと離れてたんだけど、またばったり会ってしまった」
「……元サヤ?」
「そういう関係にはならないと思う。けど凛が感じたことは当たってる。どうしてもその人のことを思い出してしまう。ごめん」
「もう、行って」

 凛はハンカチに顔を埋めて身を固くしていた。ごめんね。比べてごめん。本気になれなくてごめん。君と寝てても他の人の夢を見てごめん。

 凛の分も支払いを済ませて店を出た。
 少しほっとしている自分がいる。認める。俺はまだくおんのことばっかり考えてる。
 くおんが好きだとは言えない。もうそんなにシンプルじゃないんだよね。絡み合った感情のかたまり。どうしようもない怒りや拒絶感もたっぷり入っている。

 何にせよ、あまりにそのかたまりが大きすぎて、いつもくおんのことを考えてる。こんな気持ちのままで誰かを振り回すことはできない。このかたまりに他の誰かが取って代わることはない。

 駅に着く。発信を押す。スマホを耳に当てる。4コール、5コール目にかかるところでつながる。
「リノベ終わったんだけど、もう家決まった?」


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