天使の堕とし方

かとらり。

文字の大きさ
上 下
2 / 11

二話

しおりを挟む

 シンがミシェル、いや、ミカエルにあったのは地上に魂を食べに来ていた時だった。
 運悪くエクソシストに出くわし清水をかけられた挙句、銀のナイフで刺されたシンは、なんとか逃げて路地裏にうずくまっていた。

(しくった…あんなとこにエクソシストがいるなんて…)

 大悪魔といえどもこの深傷では助からないかもしれない。
 シンは焦っていた。

「あの…大丈夫ですか?」

 そんな時だった。
 ミカエルが話しかけてきたのは。

(こいつ…天使か?…こんなところで出くわすなんて…運の尽きだな)

 ミカエルの頭上には大きな天使の輪、背中には輝くように白い翼が生えていた。

 その姿だけで、ミカエルが上位の天使だと分かった。

「大怪我してる…」
「…殺すなら、一思いに殺せ」

 正直、この天使が何もしなくてもシンはまもなく生き絶えそうだった。

「殺すなんて…そんなことできません!」

 ミカエルはシンの腹に空いた穴に手を当てた。

「ぐ…」
「我慢してください」

 患部が光に包まれ、傷が塞がれていく。
 しかし、神聖な力のせいで、シンの魔力は削られていった。

「…ふぅ、傷は塞がりましたね」
「あんた、なんで…僕が悪魔だって…」
「知ってますよ。でも、いかなるものにも慈悲を与えるのが天使なので」

 にこりと微笑んでミカエルはそう言った。

 その笑顔を見てシンの心はぞくりと震えた。

(あぁ…なんて清らかで美しい笑顔なんだ…)

 この笑顔を僕の手で汚してやりたい。

 シンの心にそんな暴力的な欲望が生まれた瞬間だった。

「では、僕は行きますね」
「まって」

 シンはミカエルの腕を掴んだ。

「また、いつか会えますか…?」
「…さぁ。神が導いてくだされば会うこともあるでしょう」

 神様が悪魔と天使が出会うよう導くわけなかった。

 でも、この天使は皮肉ではなく本気で言っているのだろう。
 ならいい。

 神に導かれなくても、こんど、またこの天使に会えたら、そのときは…

「あなたにまた会えたら、僕と一緒にきてくれますか」
「…僕は天使です。天がそれを許しません」

 そう言って、天使は飛び立っていった。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

鬼女と三兄弟

T@u
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:0

浦島

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:17

家出貴族と堅物淫魔の旅日誌

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:55

翠帳紅閨 ――闇から来る者――

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:95

最弱な彼らに祝福を~不遇職で導く精霊のリヴァイバル~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:967pt お気に入り:14

魔王とたのしい閨教育

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:113

塔の上の秘蜜 ~隣国の王子に奪われた夜~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:5,548pt お気に入り:603

僕がアイツに捕まった話

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:501

処理中です...