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what a guy
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「Excuse me. Could I be any help of you?」
JR新橋駅の改札内で明らかに迷われているスーツの外国人に話しかける蒔田さん。
え。嘘。なんで英語話せるの?
頭のなかがはてなマークだらけのあたしをさておき、声をかけた蒔田さんに対し、「Yes! Thank you! 」と嬉しそうにする外国人のお二方。
「If you are going to Odaiba, I can take you. 」
「Oh, really? We are just heading to Big Site! 」
「OK. Just a moment, please……I am gonna make a phone call. 」とあたしに目配せをする蒔田さんは優雅に、携帯電話を取り出し、耳に当て、「……あ、すみません、片岡部長。わたしは、出勤前に外国人のかたをお台場に案内してから出社しますのでええ……宗方部長にお伝え頂けますか。お手数おかけします。申し訳ありません。ではよろしくお願いいたします」
いつも窓際の部長席でしかめっ面で朝日新聞を読む第二の部長に言付けを頼むと、蒔田さんは、「おまえは、会社に行ってろ」と言うのだが、そうはいきませんよ。こんな蒔田さんを見逃してはなるものか!
鼻息を荒くしたあたしは、ずいと蒔田さんを睨みつけ、
「残業溜まりまくっていますので、二時間休取得して遅れて出社します。……同行します」
外国人のかたがお急ぎでいらっしゃるのを察して、あなたは肩をすくめ、諦めたように言うのだ。「仕方ねえな」
*
「Wow. Your company is making a soap?」
ゆりかもめでも外国人のかたは饒舌で……どうやらオーストラリア人らしい……わざわざゆりかもめに乗ってまで案内してくれる蒔田さんに本当に嬉しそうにしており、しかも蒔田さんはビジネスモードONで案外聞き上手なものだから……外国人の男性と女性はよく話す。あたしには聞き取れないが彼らが会話で盛り上がっているのはよく分かった。
男性がかえるのかたちをした石鹸を蒔田さんに手渡している。そして、ゆりかもめの高さと絶景に「Incredible!」と叫んでいる。
周囲の視線は感じるが、比較的穏やかだ。そりゃそうだ。日本人だってこんな大都会の電車やモノレールは迷うし大混乱なのに、日本語の分からない外国人のかたにとっては相当辛いに違いない。そしてこの通勤電車に特有の殺伐とした空気……。
「Thank you. I will use this with her. 」
「Oh. 」と目を瞬かせる女性は、「She is your sweetie, right? 」
蒔田さんはあたしをちらっと見るとすこしだけ口元を歪めて笑い、
「Definetely, Yes. 」
声を出さずに女性が叫んだ。英語ではスクリームアウトと言うらしい。
*
「Thank you. Thank you so much!! If you have chance to come to Sydney, please contact us!!」
「Yeah. Please enjoy staying Japan. Thank you, too. Bye. 」
手を大きく振って、日本人に影響されてかお辞儀をしてくれる、ひとのよさそうなふたり。彼らのビジネスが日本で成功することを願おう。
さて蒔田さんの隣に立つあたしは、
「蒔田さん。反則です。……自分音痴だとか言ってたくせに。なんで英語が話せるんですか」
朝のお台場という空気も手伝って気楽な感じの蒔田さんは、そっとあたしの手を握って進み、
「……恥ずかしい話をすると。小さい頃からサッカー漬けだったある少年は、てめえが外国で活躍することを想定して、しゃかりきに勉強したんだ。聞き取れねえのにビバヒルをテープが擦り切れるくらい見てなぁ。あとは卒業旅行でヨーロッパに一ヶ月バストリップに行ったりもしたからな。そこで覚えた感じだ」
「蒔田さんってば。なんですかその美味しい裏設定は。ずるい。ずる過ぎます……」
ビッグサイトに向かう彼らを見送ったあたしたちは、手を繋ぎ、みんなとは逆で、駅方向へと向かう。……あたし。
「隠し事をするなんて。あたしと蒔田さんはずぶずぶなのにそんな水臭いことを……ううう……するなんて……」
「ちっとも悲しそうに聞こえねえな」
「あ、そうだ」とぱっと蒔田さんを見上げるあたしは、「さっき女性のかたにあたしのことをなんか聞かれていませんでしたか? それで女性のかたがウッって反応して。……なんて言ったんですかあたしのこと」
一拍置いて蒔田さんは、
「さぁ? ……あー、会社なんかかったるいなぁ。おまえと然るべき施設にしけこみたい」
蒔田さんったら。声が大きい。
繋いだ手を挙げて、そっと、あたしの手の甲にキスをする、あたしの永遠の王子様。
――この素晴らしい能力がお蔵入りするなんてことは勿論なくて、祐さんのプラン通りに、あなたはのちに、世界を轟かす大スターとなって、アカデミー賞の授賞式で流暢な英語を話すのだ。
そんな未来を知らないあたしたちは笑いあって、手を繋ぎ、駅へと向かう。――どうか。この幸せが永遠に続きますように。そしてこの命は限りある未来へと繋がっていく。永遠に。
JR新橋駅の改札内で明らかに迷われているスーツの外国人に話しかける蒔田さん。
え。嘘。なんで英語話せるの?
頭のなかがはてなマークだらけのあたしをさておき、声をかけた蒔田さんに対し、「Yes! Thank you! 」と嬉しそうにする外国人のお二方。
「If you are going to Odaiba, I can take you. 」
「Oh, really? We are just heading to Big Site! 」
「OK. Just a moment, please……I am gonna make a phone call. 」とあたしに目配せをする蒔田さんは優雅に、携帯電話を取り出し、耳に当て、「……あ、すみません、片岡部長。わたしは、出勤前に外国人のかたをお台場に案内してから出社しますのでええ……宗方部長にお伝え頂けますか。お手数おかけします。申し訳ありません。ではよろしくお願いいたします」
いつも窓際の部長席でしかめっ面で朝日新聞を読む第二の部長に言付けを頼むと、蒔田さんは、「おまえは、会社に行ってろ」と言うのだが、そうはいきませんよ。こんな蒔田さんを見逃してはなるものか!
鼻息を荒くしたあたしは、ずいと蒔田さんを睨みつけ、
「残業溜まりまくっていますので、二時間休取得して遅れて出社します。……同行します」
外国人のかたがお急ぎでいらっしゃるのを察して、あなたは肩をすくめ、諦めたように言うのだ。「仕方ねえな」
*
「Wow. Your company is making a soap?」
ゆりかもめでも外国人のかたは饒舌で……どうやらオーストラリア人らしい……わざわざゆりかもめに乗ってまで案内してくれる蒔田さんに本当に嬉しそうにしており、しかも蒔田さんはビジネスモードONで案外聞き上手なものだから……外国人の男性と女性はよく話す。あたしには聞き取れないが彼らが会話で盛り上がっているのはよく分かった。
男性がかえるのかたちをした石鹸を蒔田さんに手渡している。そして、ゆりかもめの高さと絶景に「Incredible!」と叫んでいる。
周囲の視線は感じるが、比較的穏やかだ。そりゃそうだ。日本人だってこんな大都会の電車やモノレールは迷うし大混乱なのに、日本語の分からない外国人のかたにとっては相当辛いに違いない。そしてこの通勤電車に特有の殺伐とした空気……。
「Thank you. I will use this with her. 」
「Oh. 」と目を瞬かせる女性は、「She is your sweetie, right? 」
蒔田さんはあたしをちらっと見るとすこしだけ口元を歪めて笑い、
「Definetely, Yes. 」
声を出さずに女性が叫んだ。英語ではスクリームアウトと言うらしい。
*
「Thank you. Thank you so much!! If you have chance to come to Sydney, please contact us!!」
「Yeah. Please enjoy staying Japan. Thank you, too. Bye. 」
手を大きく振って、日本人に影響されてかお辞儀をしてくれる、ひとのよさそうなふたり。彼らのビジネスが日本で成功することを願おう。
さて蒔田さんの隣に立つあたしは、
「蒔田さん。反則です。……自分音痴だとか言ってたくせに。なんで英語が話せるんですか」
朝のお台場という空気も手伝って気楽な感じの蒔田さんは、そっとあたしの手を握って進み、
「……恥ずかしい話をすると。小さい頃からサッカー漬けだったある少年は、てめえが外国で活躍することを想定して、しゃかりきに勉強したんだ。聞き取れねえのにビバヒルをテープが擦り切れるくらい見てなぁ。あとは卒業旅行でヨーロッパに一ヶ月バストリップに行ったりもしたからな。そこで覚えた感じだ」
「蒔田さんってば。なんですかその美味しい裏設定は。ずるい。ずる過ぎます……」
ビッグサイトに向かう彼らを見送ったあたしたちは、手を繋ぎ、みんなとは逆で、駅方向へと向かう。……あたし。
「隠し事をするなんて。あたしと蒔田さんはずぶずぶなのにそんな水臭いことを……ううう……するなんて……」
「ちっとも悲しそうに聞こえねえな」
「あ、そうだ」とぱっと蒔田さんを見上げるあたしは、「さっき女性のかたにあたしのことをなんか聞かれていませんでしたか? それで女性のかたがウッって反応して。……なんて言ったんですかあたしのこと」
一拍置いて蒔田さんは、
「さぁ? ……あー、会社なんかかったるいなぁ。おまえと然るべき施設にしけこみたい」
蒔田さんったら。声が大きい。
繋いだ手を挙げて、そっと、あたしの手の甲にキスをする、あたしの永遠の王子様。
――この素晴らしい能力がお蔵入りするなんてことは勿論なくて、祐さんのプラン通りに、あなたはのちに、世界を轟かす大スターとなって、アカデミー賞の授賞式で流暢な英語を話すのだ。
そんな未来を知らないあたしたちは笑いあって、手を繋ぎ、駅へと向かう。――どうか。この幸せが永遠に続きますように。そしてこの命は限りある未来へと繋がっていく。永遠に。
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