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forever to the memories_2
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運動場で懸命にボールを追いかける集団のなかでひときわあなたは輝いている。
足元でボールを操る動きが巧みで。ドリブルなんかしかけると誰にも止められない。無邪気な少年を見ているかのよう。
挙句あなたはアシストをして学生にゴールをさせた。
「蒔田は……昔からサッカーが好きでね。夢を絶たれたから一時はどうなるものかと思ったが。ああやって楽しんでいるさまを見ると安堵するね」
「緑高でもサッカーを……していたんですよね蒔田さんは」
最上階の奥の部屋。
普通はラスボスが潜んでいそうなエリアだが、ここを陣取るのは、蒔田さんが高校二年生のときの担任であり、恩師である宮本先生。白衣を着ていて眼鏡でタイトな髪型だからとっつきにくい印象だが、気さくな話し方をする。
「ああ、そうだね」
「宮本先生は、蒔田さんが所属していたパソコン部の顧問もされていたと伺いましたが」
「そうだね」祈るように差し向かいで手を組み合わせるさまは、神様になにかを乞うているようなポーズにも見える。「蒔田の同級生の長谷川が発案したものだ。……いま思えば、長谷川は、この時代を読んでいたかのように思えるね。ITは……当時はそこまで一般的ではない、パソコンを触るのは一部の人間に限られた時代だし、……いまのように携帯電話を当たり前に持つ時代が来るだなんて思いもしなかったね」
蒔田さんと一歳差だからその感覚はよく分かる。
高校の終わり際に急に携帯電話が普及し始めて。子どもが扱いきれないツールだった。夜中でも平気で電話をして相手を起こしたりして……。マナーの意味でも過渡期だった。
蒔田さんの母校である緑川高校を訪れている。
午後の三時に約束をしていたのだとか。……思えば蒔田さんは、午前中は、あたしがああなるのを見込んで、ちゃんと、休む時間を計算してくれたし、場所を蒔田さんの地元である海野から、緑川市の中心部へと移し、移動は蒔田さんの実家の旅館で余らせている車を借りて、蒔田さんのドライブで……。
蒔田さんの運転で出かけるなんて初めてでどきどきした。
運転席で見るあなたはあまりにも格好良くて……いくら美しい能登の海でさえも敵わない。圧倒的な存在。
「蒔田は、パソコン部が出来て入部してから変わったように思えるが、……またひとつ壁を破ったようだね。あの様子を見る限り」と窓の外へと目をやる宮本先生。立ち上がり、嬉しそうに、「ああやって力を抜いてサッカーをするだなんて以前の蒔田では考えられなかった行動だよ。あなたとの出会いが、彼を変えたんだね」
「そう……だと嬉しいです」
「いやいや。わざわざ蒔田が学校に電話をして今度帰省するときに大事な話をしたいです、……なんて言うものだから。結婚式の相談かなにかをぼかぁ想像したね。……蒔田のことだから、ちゃんと、将来のことも考えておるに違いない。教え子がどんどん成長していくのを見守るのは……教師冥利につきる。紘花さん、ありがとう」
座り、実験机に手をついて頭を下げる宮本先生……。
よかった。蒔田さん……。ちゃんと、愛されているよ。
泣くのを堪え、宮本先生が顔をあげるとあたしは微笑みかけた。
「こちらこそ。蒔田さんと出会えて、あたしのほうが幸せなんです」
*
「田中先生にもよろしく言っておいてください。それでは、貴重なお時間をありがとうございました」
帰り際、校門までを見送ってくれる宮本先生に、頭を下げた。
そうして、腕を組んで歩き出す。……ねえ。蒔田さん。
あたしの知らない蒔田さんがここにいたんだね。……きっと、恋をして青春を謳歌して……。
でも、大丈夫。分かっているから。
「ねえ。これからどうするつもり?」
高校前通りを闊歩しながらあたしが問うてみれば、蒔田さんは微笑し、
「ナイトドライブと行こう」
足元でボールを操る動きが巧みで。ドリブルなんかしかけると誰にも止められない。無邪気な少年を見ているかのよう。
挙句あなたはアシストをして学生にゴールをさせた。
「蒔田は……昔からサッカーが好きでね。夢を絶たれたから一時はどうなるものかと思ったが。ああやって楽しんでいるさまを見ると安堵するね」
「緑高でもサッカーを……していたんですよね蒔田さんは」
最上階の奥の部屋。
普通はラスボスが潜んでいそうなエリアだが、ここを陣取るのは、蒔田さんが高校二年生のときの担任であり、恩師である宮本先生。白衣を着ていて眼鏡でタイトな髪型だからとっつきにくい印象だが、気さくな話し方をする。
「ああ、そうだね」
「宮本先生は、蒔田さんが所属していたパソコン部の顧問もされていたと伺いましたが」
「そうだね」祈るように差し向かいで手を組み合わせるさまは、神様になにかを乞うているようなポーズにも見える。「蒔田の同級生の長谷川が発案したものだ。……いま思えば、長谷川は、この時代を読んでいたかのように思えるね。ITは……当時はそこまで一般的ではない、パソコンを触るのは一部の人間に限られた時代だし、……いまのように携帯電話を当たり前に持つ時代が来るだなんて思いもしなかったね」
蒔田さんと一歳差だからその感覚はよく分かる。
高校の終わり際に急に携帯電話が普及し始めて。子どもが扱いきれないツールだった。夜中でも平気で電話をして相手を起こしたりして……。マナーの意味でも過渡期だった。
蒔田さんの母校である緑川高校を訪れている。
午後の三時に約束をしていたのだとか。……思えば蒔田さんは、午前中は、あたしがああなるのを見込んで、ちゃんと、休む時間を計算してくれたし、場所を蒔田さんの地元である海野から、緑川市の中心部へと移し、移動は蒔田さんの実家の旅館で余らせている車を借りて、蒔田さんのドライブで……。
蒔田さんの運転で出かけるなんて初めてでどきどきした。
運転席で見るあなたはあまりにも格好良くて……いくら美しい能登の海でさえも敵わない。圧倒的な存在。
「蒔田は、パソコン部が出来て入部してから変わったように思えるが、……またひとつ壁を破ったようだね。あの様子を見る限り」と窓の外へと目をやる宮本先生。立ち上がり、嬉しそうに、「ああやって力を抜いてサッカーをするだなんて以前の蒔田では考えられなかった行動だよ。あなたとの出会いが、彼を変えたんだね」
「そう……だと嬉しいです」
「いやいや。わざわざ蒔田が学校に電話をして今度帰省するときに大事な話をしたいです、……なんて言うものだから。結婚式の相談かなにかをぼかぁ想像したね。……蒔田のことだから、ちゃんと、将来のことも考えておるに違いない。教え子がどんどん成長していくのを見守るのは……教師冥利につきる。紘花さん、ありがとう」
座り、実験机に手をついて頭を下げる宮本先生……。
よかった。蒔田さん……。ちゃんと、愛されているよ。
泣くのを堪え、宮本先生が顔をあげるとあたしは微笑みかけた。
「こちらこそ。蒔田さんと出会えて、あたしのほうが幸せなんです」
*
「田中先生にもよろしく言っておいてください。それでは、貴重なお時間をありがとうございました」
帰り際、校門までを見送ってくれる宮本先生に、頭を下げた。
そうして、腕を組んで歩き出す。……ねえ。蒔田さん。
あたしの知らない蒔田さんがここにいたんだね。……きっと、恋をして青春を謳歌して……。
でも、大丈夫。分かっているから。
「ねえ。これからどうするつもり?」
高校前通りを闊歩しながらあたしが問うてみれば、蒔田さんは微笑し、
「ナイトドライブと行こう」
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