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act5. 焼肉
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「あのーぉ、榎原さんて蒔田さんにフラれたりしてます?」
「え、ちょっ……」彼女はビールを噴きそうになった。「なん、なに言ってるの」
「つくづく、榎原さんて嘘つけないひとですよね。大丈夫ですか」
「……よりによって『振られる』って結論が出てるところにいやその、オブジェクションというか……」
ハラミ焼いちゃっていいすか? と断りを入れ後輩はトングで肉を取る。「だーって決まってるじゃないですか。二人なんかよそよそしいですもん。いつもと雰囲気違うし。てか蒔田さんが告るって先ず『ありえない』から反応窺ってみただけなんですけど」
「ありえないって」ちょっと傷つく。
三週間前に彼氏に振られ(それも親友と浮気され)。
つい一週間前に職場の上司にも振られたのだ。
傷などまだ癒えていない。蒔田の顔を見るのも、嬉しいと辛いのと両方の気持ちが入り混じって複雑だし、『振られる』『浮気』などの単語にもやたら敏感になった。テレビでその単語が聞こえるとドキッとする。
「でもねー意外です。脈、あると思ったんですけど」
「さっきは『ありえない』と言ったじゃないの」榎原は根に持っている。
「やー、でもですねー」道林は喋りながらもしっかりハラミを食べている。三枚目。「二人喋ってるの聞くとなんか小学生みたいじゃないですか、初々しいっていうか新鮮っていうかぁー、なんか、榎原さんと喋ってるときだけ蒔田さんの雰囲気柔らかいんですよね」
「……小学生って」いちいち、単語がミスチョイスだ。「子どもっぽいって意味かな」
「最初蒔田さん見たときこわーいひとだと思ったんですよ、でも榎原さんと喋ってるの見て印象変えたっていうか。あ案外笑うひとなんだなって意外に思ったの記憶してます。……蒔田さん、うちら新人にも結構人気あるんですよ。第三事業部の紹介で来たの知ってます?」
「あ、あったね、新人研修のとき全事業部のひとが紹介に来るってやつ。宗方さんと柏谷さんは外部のプレゼンで来れなくて、代わりに蒔田さんが行ったんだって?」
「そしたら超人気で。だってかっこいいじゃないですか蒔田さんて。まーわたしの好みとは違うんですけど。女子たちキャーキャー騒いでました」
「……想像つく……」
「終わったあと果敢にもケー番聞きに行った女の子が居たんですよ、したら、『仕事以外の話は慎め』って言われたそうですよ。でも結構、榎原さんと雑談してませんか」
「してるっけ」
「昨日見たテレビの話とか」
「あ、蒔田さん、テレビ全然見ないからあたしが一方的に喋ってるだけ」
「でも聞いてくれるんですよね榎原さんの話は。おっかしーな、蒔田さんなら『きみの話には興味ない』で一刀両断しちゃいそうじゃないですか。……にしても蒔田さんテレビ見ずによくGLやってられますよね」
「新聞も読まないんだって」
「……ありえなくないですか」
「本当、お客さんとどう会話繋いでんだろ。司会やってる芸人さんだって今日び朝刊を必ずチェックしてるらしいよ。時事ネタを仕入れとくのが役に立つんだって」
「榎原さん。蒔田さんのどこがいいんですか」
そう訊かれて。
三枚目のハラミに伸ばしかけた箸を引いた。
「や、別にいいですよ食べちゃって。わたし結構食べてますし」
「え、とじゃあ遠慮なく。……ミカちゃんは、配属されてから寺西さんやあたしがフォローしたじゃない? あたしの場合は」
蒔田さんだったの。
と言って彼女はハラミを口に入れた。
*
「え、ちょっ……」彼女はビールを噴きそうになった。「なん、なに言ってるの」
「つくづく、榎原さんて嘘つけないひとですよね。大丈夫ですか」
「……よりによって『振られる』って結論が出てるところにいやその、オブジェクションというか……」
ハラミ焼いちゃっていいすか? と断りを入れ後輩はトングで肉を取る。「だーって決まってるじゃないですか。二人なんかよそよそしいですもん。いつもと雰囲気違うし。てか蒔田さんが告るって先ず『ありえない』から反応窺ってみただけなんですけど」
「ありえないって」ちょっと傷つく。
三週間前に彼氏に振られ(それも親友と浮気され)。
つい一週間前に職場の上司にも振られたのだ。
傷などまだ癒えていない。蒔田の顔を見るのも、嬉しいと辛いのと両方の気持ちが入り混じって複雑だし、『振られる』『浮気』などの単語にもやたら敏感になった。テレビでその単語が聞こえるとドキッとする。
「でもねー意外です。脈、あると思ったんですけど」
「さっきは『ありえない』と言ったじゃないの」榎原は根に持っている。
「やー、でもですねー」道林は喋りながらもしっかりハラミを食べている。三枚目。「二人喋ってるの聞くとなんか小学生みたいじゃないですか、初々しいっていうか新鮮っていうかぁー、なんか、榎原さんと喋ってるときだけ蒔田さんの雰囲気柔らかいんですよね」
「……小学生って」いちいち、単語がミスチョイスだ。「子どもっぽいって意味かな」
「最初蒔田さん見たときこわーいひとだと思ったんですよ、でも榎原さんと喋ってるの見て印象変えたっていうか。あ案外笑うひとなんだなって意外に思ったの記憶してます。……蒔田さん、うちら新人にも結構人気あるんですよ。第三事業部の紹介で来たの知ってます?」
「あ、あったね、新人研修のとき全事業部のひとが紹介に来るってやつ。宗方さんと柏谷さんは外部のプレゼンで来れなくて、代わりに蒔田さんが行ったんだって?」
「そしたら超人気で。だってかっこいいじゃないですか蒔田さんて。まーわたしの好みとは違うんですけど。女子たちキャーキャー騒いでました」
「……想像つく……」
「終わったあと果敢にもケー番聞きに行った女の子が居たんですよ、したら、『仕事以外の話は慎め』って言われたそうですよ。でも結構、榎原さんと雑談してませんか」
「してるっけ」
「昨日見たテレビの話とか」
「あ、蒔田さん、テレビ全然見ないからあたしが一方的に喋ってるだけ」
「でも聞いてくれるんですよね榎原さんの話は。おっかしーな、蒔田さんなら『きみの話には興味ない』で一刀両断しちゃいそうじゃないですか。……にしても蒔田さんテレビ見ずによくGLやってられますよね」
「新聞も読まないんだって」
「……ありえなくないですか」
「本当、お客さんとどう会話繋いでんだろ。司会やってる芸人さんだって今日び朝刊を必ずチェックしてるらしいよ。時事ネタを仕入れとくのが役に立つんだって」
「榎原さん。蒔田さんのどこがいいんですか」
そう訊かれて。
三枚目のハラミに伸ばしかけた箸を引いた。
「や、別にいいですよ食べちゃって。わたし結構食べてますし」
「え、とじゃあ遠慮なく。……ミカちゃんは、配属されてから寺西さんやあたしがフォローしたじゃない? あたしの場合は」
蒔田さんだったの。
と言って彼女はハラミを口に入れた。
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