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act20. 言い負かされる彼
しおりを挟む「断る」
話を聞き終えた第一声がそれだった。
すかさず道林が突っ込みを入れる。「断る、ってなんでっすか。いーじゃないすかどうせ蒔田さん週末の予定空いてるんでしょお」
「週末は静かにJリーグをテレビで観戦する予定だ」
「二時間くらいじゃないっすかそれってむっちゃ暇じゃないっすか録画でいいじゃないっすか」
「状況には同情する。だがぼくには関係のない話だ」
「冷たいっすね蒔田さん。……それで業務に支障をきたしたとしたらどうすんですか。例えば、追い込まれた榎原さんがお家から出れなくなっちゃったりとか。実家に帰ったまま戻ってこなかったりしたら?」
「そうしたら別の人間に仕事をしてもらうだけだ。が……」
蒔田は彼女に目を向けた。
「身体虚弱状態になられても、こちらとしては後味が悪い。ストーカー被害に関しては、解決する手段がないというわけではない」
「あるってキッパリ言えばいいじゃないっすか蒔田さんたら」
「というと」道林に任せっきり(というより口を挟めなかった)だった彼女がようやく口を開く。
「知り合いに、そういう方面に強いやつがいる。うまくいけば解決してくれるやつを紹介してもらえる。さっそく、電話して頼んでおこうか」
「お願い、します……」よく分からないけれど、蒔田に任せておけば安心だと彼女は感じた。
「それで、週末は? つき合ってくれんしょ? 榎原さんに」
「なんでおまえが仕切るんだ」ここでコーヒーを一口。「そして、榎原くんにつき合う義理がどうして僕にある」
「上司、だから、ですっ」何故か道林が胸を張る。「部下が困ってんなら助けるのはトーゼンでしょ。それがプライベートか仕事かの違いであって、大切なのは榎原さんが困ってるのを蒔田さんがなんとかするってことなんです」
「彼氏云々はおれの関与しないところだが」ちらと蒔田は彼女を見た。
「……一度だけだぞ」
渋い顔をして、意外にも蒔田は了承したのだった。
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