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探れ(2)
それは、能登で行われた、ある宗教の泊まりの合宿での集合写真。私と離れたところに、あなたがいた。
ただし、印象はかなり違う。目深に帽子をかぶって、チャームポイントのうす茶色い目もそのつややかな髪も見せずまるで世間を拒絶しているかのような。みんな笑顔でピースをしているのにあなただけ……そっぽを向いて。
「私、あなたに出会っていたんだ。……恋生」
他に写真がない。集合写真のたった一枚のみ。いや違う。この帽子……グリーンの帽子を被った男の子はあなたひとりで、他の写真に二枚だけあなたがいるけれど、帽子で顔を隠していて。こういう……写真を後から見返されることを想定して? まさか。そこまでする?
そもそもこの男の子。神宮寺恋生なんて名乗っていない。違う名前……。
顔が分からないことに苛々する。せめて、顔とか声とか分かればなにか思い出せそうなのに。
待って。この写真に映っているアユちゃん。地元の小学校が一緒のお友達だ。あれ、この合宿に行ったの、アユちゃんに誘われてだったっけ。そうだ、この頃は確か仲がよくって、一緒にお互いの家を行き来して、りぼんやジャンプとか読み漁る仲だった。――連絡先は。
いや。地元の子たちとは上京してからほぼ音信不通でしかし……小学校同級生のグループラインがあるはず。ああ、あったあった。投稿が五年前とかだけど。アユちゃんはいないが、誰か、アユちゃんの連絡先を知っているひとは……。
ミチちゃん。彼女、アユちゃんといまも交流があるはず。確かインスタで……。
「あ、あった」と画像を確かめる。「『女子会at緑川。大好きなカフェで』……あのカフェ、営業しているんだ……」
ドリンクとネイルの施された手がアップにされている写真。自己顕示欲に苦笑いが漏れる。とはいえ、大事な手がかりだ。
ミチちゃんは、地元で実家のお手伝いをしているはず……。何時だ。電話したら出るかな。よし、しよう。
「あーひさぶり!」弾んだ声。懐かしい故郷の記憶。「花やんどしたー?」
切羽詰まって急いで用件を伝える。「ご無沙汰してます。……あのね、私元気にしてる。突然だけど、アユちゃんに私のID伝えて貰っていい? 出来ればアユちゃんと直接話したいの」
「分かった。すぐ送るー。……なぁ、花、結婚するってほんま?」
顎が外れるかと思った。母の情報管理能力の危機感のなさよ。「……まだ、そこまでは。ただ、いい感じに付き合っているひとはいる」
「そーなんね! そっかそっかおめでとなー。結婚式東京でするんやったら呼んでま。ディズニー行ってみたいさけ」
「……分かった」苦笑いが漏れる。「じゃあ、ありがとう。よろしくね。それじゃ、また」
「またなー。今度緑川帰ってきたらだべろ」
「そうだね。じゃあ、ごきげんよう」
セレブみたいな挨拶で締めた。いかんいかん、恋生みたいなハイスペック御曹司と交際を始めてすっかり染め抜かれている。水野さんにおかえりなさいませと言われて、ええ、なーんて、白いつばのついた帽子を被ったセレブおねえさまみたいに、平然と返すこの日常。
「ごきげんよう、……なーんて言っている未来の自分は、想像も出来なかったなぁ」
ひとりごちていると着信。アユちゃんだ。ミチちゃん仕事が速い。
「はい。川瀬です。……うん。うん。そう、そうなんだよ。で、浄土真宗の合宿あったじゃない? あれで、緑の帽子被った男の子いたの覚えている? ああ、そう、そうなの……そう。うん。――うん」
しばらく会話を続け、電話を切る。分かったことがある。
ただ、それを直接恋生にぶつけるにも、要素が……。
それから何人かに連絡を取り、確かめるまで、週末まで待たなければならなかった。万全に整えてあなたに突き付ける、そのときまでを。
ただし、印象はかなり違う。目深に帽子をかぶって、チャームポイントのうす茶色い目もそのつややかな髪も見せずまるで世間を拒絶しているかのような。みんな笑顔でピースをしているのにあなただけ……そっぽを向いて。
「私、あなたに出会っていたんだ。……恋生」
他に写真がない。集合写真のたった一枚のみ。いや違う。この帽子……グリーンの帽子を被った男の子はあなたひとりで、他の写真に二枚だけあなたがいるけれど、帽子で顔を隠していて。こういう……写真を後から見返されることを想定して? まさか。そこまでする?
そもそもこの男の子。神宮寺恋生なんて名乗っていない。違う名前……。
顔が分からないことに苛々する。せめて、顔とか声とか分かればなにか思い出せそうなのに。
待って。この写真に映っているアユちゃん。地元の小学校が一緒のお友達だ。あれ、この合宿に行ったの、アユちゃんに誘われてだったっけ。そうだ、この頃は確か仲がよくって、一緒にお互いの家を行き来して、りぼんやジャンプとか読み漁る仲だった。――連絡先は。
いや。地元の子たちとは上京してからほぼ音信不通でしかし……小学校同級生のグループラインがあるはず。ああ、あったあった。投稿が五年前とかだけど。アユちゃんはいないが、誰か、アユちゃんの連絡先を知っているひとは……。
ミチちゃん。彼女、アユちゃんといまも交流があるはず。確かインスタで……。
「あ、あった」と画像を確かめる。「『女子会at緑川。大好きなカフェで』……あのカフェ、営業しているんだ……」
ドリンクとネイルの施された手がアップにされている写真。自己顕示欲に苦笑いが漏れる。とはいえ、大事な手がかりだ。
ミチちゃんは、地元で実家のお手伝いをしているはず……。何時だ。電話したら出るかな。よし、しよう。
「あーひさぶり!」弾んだ声。懐かしい故郷の記憶。「花やんどしたー?」
切羽詰まって急いで用件を伝える。「ご無沙汰してます。……あのね、私元気にしてる。突然だけど、アユちゃんに私のID伝えて貰っていい? 出来ればアユちゃんと直接話したいの」
「分かった。すぐ送るー。……なぁ、花、結婚するってほんま?」
顎が外れるかと思った。母の情報管理能力の危機感のなさよ。「……まだ、そこまでは。ただ、いい感じに付き合っているひとはいる」
「そーなんね! そっかそっかおめでとなー。結婚式東京でするんやったら呼んでま。ディズニー行ってみたいさけ」
「……分かった」苦笑いが漏れる。「じゃあ、ありがとう。よろしくね。それじゃ、また」
「またなー。今度緑川帰ってきたらだべろ」
「そうだね。じゃあ、ごきげんよう」
セレブみたいな挨拶で締めた。いかんいかん、恋生みたいなハイスペック御曹司と交際を始めてすっかり染め抜かれている。水野さんにおかえりなさいませと言われて、ええ、なーんて、白いつばのついた帽子を被ったセレブおねえさまみたいに、平然と返すこの日常。
「ごきげんよう、……なーんて言っている未来の自分は、想像も出来なかったなぁ」
ひとりごちていると着信。アユちゃんだ。ミチちゃん仕事が速い。
「はい。川瀬です。……うん。うん。そう、そうなんだよ。で、浄土真宗の合宿あったじゃない? あれで、緑の帽子被った男の子いたの覚えている? ああ、そう、そうなの……そう。うん。――うん」
しばらく会話を続け、電話を切る。分かったことがある。
ただ、それを直接恋生にぶつけるにも、要素が……。
それから何人かに連絡を取り、確かめるまで、週末まで待たなければならなかった。万全に整えてあなたに突き付ける、そのときまでを。
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