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第一章 囚われの少女

第二幕『宙船と球地図』

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 それは遥か昔より続く。
果てしなく広がる、空と海。

 そこには宙を泳ぐ船があった。
その船は、帆のない船だった。

 その形容を言葉にするならば、“魚のような形”。

 金属でできたその船は、丸みを帯びた部分に充満した気体によって宙に浮き、
数本のオールが舟をこぐように動くことで、前へと進む。
 赤茶色に金の装飾といったデザインで、
雰囲気はアンティークの部類といったところだろうか。

 この船を見た誰もがきっと、不思議な感情を抱くだろう。

 そんな、不思議な船が空を飛ぶ世界――





 この物語の舞台となっている、とある世界。
 大陸は大きく分けて5つか6つ程あり、それは青い海によって繋がれている。

 かつて、海賊が世界に猛威を振るっていた時代があった。

 今はそれも終わり、文明は進んでいき、商工業は発達していった。

 波乱に満ちた時代を生き抜いた、現在かの偉人とされる海賊は、時代の終焉とともにこう言ったそうだ。

『地球は青い地図である。それはこの手の中に――』

 まるで、“この世界は我のもの”とでも言うかのように。

 その言葉は、その偉人の莫大なる宝のありかを示しているのではないか? 
――それは一部の間で噂として囁かれたのだった。

 しかし海賊の時代は今終わりを迎え、
いわゆる、世間的に知られる海賊は『空賊』(くうぞく)というものに変わっていった。
『空賊』は船で海を渡る事のみにその活動を限定しない。

 今、空を飛ぶ船というものがもてはやされている時代になった。

 宝を求めて探し回るのは、今や海賊であるものは数少ない。

 そして、先述の偉人の孫も、とある空賊団を率いる人物となる。



――


 腰かけに体を預け、その人は足組みをしている。

 背の高い椅子に揺られながら、外の景色を眺めていた。

「今日も空はかいせー、海はあお!」

 左目に蝶の眼帯をつけたその人は、
目を閉じ、開いた窓から吹いてくる風を楽しむ。

「風のいいにおい♪」
ん~♪ と心地よさそうに微笑んでいる。

 ゆったりと脱力し、精神を集中させる。

 シャギーの入った柔らかい銀髪が、ゆらゆらとなびいた。

 手のひらの上で、地球を模した球体を弄ぶ。


 その様はまるで、

『この世界はこの手の中にある』

とでもいうような風だった。


 台も軸もない地球義は、手のひらでゆっくりと回りながら、浮かんでいた。
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