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03 夕陽が感じるまま、感じていればいい。
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途端に、何かが滴り落ちてくるような、何かを降り注がれているような、そんな感覚に襲われる。
なんだろう、これ。ふわりと軽やかかと思えば、ねっとりと重くも感じる。
目には見えないその何かに全身を包まれて、ただでさえ駆け足だった鼓動がどくりと跳ねた。つづけて刻まれるやたらと強いリズムに、胸の奥が鈍く痛んでしかたがない。
和太鼓の乱れ打ちみたいなその体感に気を取られつつも、俺は神坂さんから目が離せなくなっていた。
色男の悪い笑みと、そこへピタリとハマったセリフは、まるで映画のワンシーンだ。もし『かっこいい』が才能だったら、神坂さんは間違いなく天才だと思う。
すごいよ、これ。映画じゃなくて現実で、しかも目の前でだなんて……こんなの、なかなか見れるものじゃない。
神坂さんの色気にあてられて、のぼせてなんていられない。しっかり観察して、盗めるものは盗まないと。
俺にこんな役がまわってくるかはわからないけど、幼い頃から憧れてやまない役柄だ。万が一まわってきたときのために、神坂さんの様子を少しも見逃したくなかった。
心臓が非常事態を訴えてくるのもかまわずに、神坂さんだけをじっと見あげていると、それまで俺の瞳を覗き込んでいた彼の視線が、ふいと、少しだけその先をずらした。
どこを見てるんだろう?
視線を追おうにも、互いの距離が近すぎてうまくいかない。それでも諦めきれずに視線を彷徨わせていたら、神坂さんの唇に目が留まって……わかった。
そうか。神坂さんは、俺の唇を見てるんだ。
「……夕陽」
神坂さんの唇がわずかに動く。そうしてできた唇の隙間から零れ落ちてくるような囁き声だった。視覚に集中していたせいか、その囁きが俺の名前だったことにあとから気づく。
形のいいこの唇から俺の名前が、と思ったら、そんなはずもないのに、神坂さんの口の中に自分の大切な何か……核みたいなものがあるような、そんな錯覚に囚われた。
「夕陽……」
まただ。神坂さんが俺を呼ぶと、淡くて小さな俺の欠片が、わずかに覗く隙間からほろりと零れ落ちる気配がする。その唇の奥には、まだ俺の核が隠れてるんじゃないだろうか。
あるはずもないとわかっていながら、そんなことがバカみたいに気になって神坂さんの唇から目が離せない。そうしてひたすらに見つめていたら、ゆっくりと神坂さんの唇が迫ってきて、しだいに視野が狭くなっていく。
……あ、キスされるんだ。
当たり前だ。キスしていいかと重ねて問われてから、十分すぎるほど時間を与えられた。それを、ただ一心に見つめていたんだ。キスのリハを了承したととられて当然だった。
別に、神坂さんとのキスが嫌なわけでも怖いわけでもない。キスに慣れておく必要性にもちゃんと得心がいった。
それでもまだ怖じ気づいてるのは、俺が素の俺としてキスシーンを演じるということがどういうことなのか、よく飲み込めていないせいだった。
人のキスシーンなら、ドラマや映画で何度も見た。それを真似すればいいんだろうか?
いや、でも、『夕陽さん』がするキスって、本当にああなのか?
俺自身は、キスしたことなんてほとんどない。唯一、唇を重ねた経験と言えば、幼稚園児の頃に朝日兄に迫って、無理やり奪ったママゴトみたいなキスだけだ。
慣れたキスってなんだ? どう演じれば熱烈になる?
これまで演劇にばかり夢中になって、キスは疎か、デートすらしたことのない俺には、何をどうすればいいのか、さっぱりわからなかった。
経験豊富に違いない神坂さんなら、適切なアドバイスをしてくれるだろうか。ぜひともリハの前に相談したい。
そう思って口を開いたら、ゆっくりと身を伏せてきていた神坂さんがピタリとその動きをとめた。
そうだった。見られてたんだ。
俺の唇の動きが神坂さんをとめたのだと気づいた次の瞬間、一度は開いた口をぎゅっと閉じていた。
だって、神坂さんはキスをしようとしてるんだぞ。なのに、俺が口を開けてていいわけがない。
それに、俺が口にしようとしてたのは神坂さんの名前だ。それは、神坂さんの唇が俺の名前を刻んだように、俺の唇が神坂さんの名前を刻むってことだ。神坂さんが見てるその目の前で……。
いや、わかってる。いくら神坂さんが俺の唇を見てるからって、神坂さんまでがこんな変な発想はしないだろう。きっと俺だけだ。名前を口にすることが、その人の核を口にしてるみたいだなんて考えるのは。
神坂さんの唇を注視する原因となった変な思考を思い出して、つい口元に力が入ってしまう。まだ発声もしていないのに、いや、だからこそ、閉じたこの口の中に神坂さんの核を封じ込めてしまってる気がしてならなかった。
ああもう、考えすぎだってば。もう考えるなよ。口の中がムズムズしてきたじゃないか。
そうして意識すればするほど、神坂さんの視線の前では口を動かせなくなっていく。必然的に押し黙ることになった俺は、神坂さんを押し留めることも、演技について相談することもできないまま、神坂さんの唇を見あげているしかなかった。
その視線の先で、神坂さんの唇がまた笑う。そのやわらかなカーブは、先ほどの悪い男の笑みでもなければ営業スマイルでもない。じゃあどんな種類の笑顔なんだと思ってみても、唇だけじゃどんなふうに笑ってるのかなんて、いくらもわからなかった。
神坂さんのこと、ちゃんと知りたい。
そう思った途端、神坂さんの唇に貼りついたみたいに逸らせなかった視線が、難なくついっと外すことができた。
見あげたそこにあったのは、あたたかい表情だった。
いつの間に外れていたのか、神坂さんの視線も、俺の唇から瞳へと戻ってきていた。ほわりとした温度を感じさせるその視線が俺の視線と絡んで、さらに心地よい熱を送り込んでくる。その熱がじわりと身体に染み込んで、胸の奥でぎゅうっと凝った。
ただでさえ和太鼓乱舞みたいな鼓動に疼いていた胸奥を、その疼きごと鷲掴みにされたように絞られる。
こんなこと初めてだ。どうしたんだろう。
もしかしたら、神坂さんの色気にあてられすぎたのかもしれない。去年まで在籍してた劇団にも、いま通ってる芸術学校にも、確かに色男の類いはいるけど、ここまで色気を撒き散らしながら迫られた経験はなかった。
まいった。この先一カ月半ものあいだ、この濃厚な色気と付き合わないといけないのか。演技の手本としては何をおいても学びたい対象ではあるけど……果たして保つんだろうか、俺の心臓は。
そんな不安からか、無意識に押さえていたらしい。自分の胸元を覆っていた俺の手に、神坂さんの大きな手が重なった。
「そんなに緊張しなくていい。慣れるためだと言っただろう」
やさしげな声音が降ってくる。
不思議だ。神坂さんにそう言われただけで、緊張がゆるゆると解けていく。
ソファーの背凭れに着いてた神坂さんの手はいつの間にか移動していて、俺の顔の横で肘を折っていた。その手の指先が、ソファーに広がる俺の長めの髪を摘まんでは指の腹で撫でるのを繰り返す。ときおりツンと引かれる髪の感触が妙にくすぐったい。
「誰も見ていない。夕陽が感じるまま、感じていればいい」
どうしてわかったんだろう。欲しかったアドバイスが、欲しいと口にするまでもなく与えられた。
神坂さんのやわらかな微笑みがさらに近くなる。ふたたびその唇へと視線が吸い寄せられた。
そうか、これは練習だ。演技の稽古みたく、納得いくまで何度だって試行錯誤すればいい。そして、いまの目標は神坂さんとのキスに慣れること。ただそれだけでいいんだと思ったら、すうと力が抜けていった。
神坂さんの唇が近づくにつれ、それを目で追う俺の目蓋が下がっていく。
そうして視界からその唇が見えなくなるのと同時に、俺は自然と目を閉じていた。
なんだろう、これ。ふわりと軽やかかと思えば、ねっとりと重くも感じる。
目には見えないその何かに全身を包まれて、ただでさえ駆け足だった鼓動がどくりと跳ねた。つづけて刻まれるやたらと強いリズムに、胸の奥が鈍く痛んでしかたがない。
和太鼓の乱れ打ちみたいなその体感に気を取られつつも、俺は神坂さんから目が離せなくなっていた。
色男の悪い笑みと、そこへピタリとハマったセリフは、まるで映画のワンシーンだ。もし『かっこいい』が才能だったら、神坂さんは間違いなく天才だと思う。
すごいよ、これ。映画じゃなくて現実で、しかも目の前でだなんて……こんなの、なかなか見れるものじゃない。
神坂さんの色気にあてられて、のぼせてなんていられない。しっかり観察して、盗めるものは盗まないと。
俺にこんな役がまわってくるかはわからないけど、幼い頃から憧れてやまない役柄だ。万が一まわってきたときのために、神坂さんの様子を少しも見逃したくなかった。
心臓が非常事態を訴えてくるのもかまわずに、神坂さんだけをじっと見あげていると、それまで俺の瞳を覗き込んでいた彼の視線が、ふいと、少しだけその先をずらした。
どこを見てるんだろう?
視線を追おうにも、互いの距離が近すぎてうまくいかない。それでも諦めきれずに視線を彷徨わせていたら、神坂さんの唇に目が留まって……わかった。
そうか。神坂さんは、俺の唇を見てるんだ。
「……夕陽」
神坂さんの唇がわずかに動く。そうしてできた唇の隙間から零れ落ちてくるような囁き声だった。視覚に集中していたせいか、その囁きが俺の名前だったことにあとから気づく。
形のいいこの唇から俺の名前が、と思ったら、そんなはずもないのに、神坂さんの口の中に自分の大切な何か……核みたいなものがあるような、そんな錯覚に囚われた。
「夕陽……」
まただ。神坂さんが俺を呼ぶと、淡くて小さな俺の欠片が、わずかに覗く隙間からほろりと零れ落ちる気配がする。その唇の奥には、まだ俺の核が隠れてるんじゃないだろうか。
あるはずもないとわかっていながら、そんなことがバカみたいに気になって神坂さんの唇から目が離せない。そうしてひたすらに見つめていたら、ゆっくりと神坂さんの唇が迫ってきて、しだいに視野が狭くなっていく。
……あ、キスされるんだ。
当たり前だ。キスしていいかと重ねて問われてから、十分すぎるほど時間を与えられた。それを、ただ一心に見つめていたんだ。キスのリハを了承したととられて当然だった。
別に、神坂さんとのキスが嫌なわけでも怖いわけでもない。キスに慣れておく必要性にもちゃんと得心がいった。
それでもまだ怖じ気づいてるのは、俺が素の俺としてキスシーンを演じるということがどういうことなのか、よく飲み込めていないせいだった。
人のキスシーンなら、ドラマや映画で何度も見た。それを真似すればいいんだろうか?
いや、でも、『夕陽さん』がするキスって、本当にああなのか?
俺自身は、キスしたことなんてほとんどない。唯一、唇を重ねた経験と言えば、幼稚園児の頃に朝日兄に迫って、無理やり奪ったママゴトみたいなキスだけだ。
慣れたキスってなんだ? どう演じれば熱烈になる?
これまで演劇にばかり夢中になって、キスは疎か、デートすらしたことのない俺には、何をどうすればいいのか、さっぱりわからなかった。
経験豊富に違いない神坂さんなら、適切なアドバイスをしてくれるだろうか。ぜひともリハの前に相談したい。
そう思って口を開いたら、ゆっくりと身を伏せてきていた神坂さんがピタリとその動きをとめた。
そうだった。見られてたんだ。
俺の唇の動きが神坂さんをとめたのだと気づいた次の瞬間、一度は開いた口をぎゅっと閉じていた。
だって、神坂さんはキスをしようとしてるんだぞ。なのに、俺が口を開けてていいわけがない。
それに、俺が口にしようとしてたのは神坂さんの名前だ。それは、神坂さんの唇が俺の名前を刻んだように、俺の唇が神坂さんの名前を刻むってことだ。神坂さんが見てるその目の前で……。
いや、わかってる。いくら神坂さんが俺の唇を見てるからって、神坂さんまでがこんな変な発想はしないだろう。きっと俺だけだ。名前を口にすることが、その人の核を口にしてるみたいだなんて考えるのは。
神坂さんの唇を注視する原因となった変な思考を思い出して、つい口元に力が入ってしまう。まだ発声もしていないのに、いや、だからこそ、閉じたこの口の中に神坂さんの核を封じ込めてしまってる気がしてならなかった。
ああもう、考えすぎだってば。もう考えるなよ。口の中がムズムズしてきたじゃないか。
そうして意識すればするほど、神坂さんの視線の前では口を動かせなくなっていく。必然的に押し黙ることになった俺は、神坂さんを押し留めることも、演技について相談することもできないまま、神坂さんの唇を見あげているしかなかった。
その視線の先で、神坂さんの唇がまた笑う。そのやわらかなカーブは、先ほどの悪い男の笑みでもなければ営業スマイルでもない。じゃあどんな種類の笑顔なんだと思ってみても、唇だけじゃどんなふうに笑ってるのかなんて、いくらもわからなかった。
神坂さんのこと、ちゃんと知りたい。
そう思った途端、神坂さんの唇に貼りついたみたいに逸らせなかった視線が、難なくついっと外すことができた。
見あげたそこにあったのは、あたたかい表情だった。
いつの間に外れていたのか、神坂さんの視線も、俺の唇から瞳へと戻ってきていた。ほわりとした温度を感じさせるその視線が俺の視線と絡んで、さらに心地よい熱を送り込んでくる。その熱がじわりと身体に染み込んで、胸の奥でぎゅうっと凝った。
ただでさえ和太鼓乱舞みたいな鼓動に疼いていた胸奥を、その疼きごと鷲掴みにされたように絞られる。
こんなこと初めてだ。どうしたんだろう。
もしかしたら、神坂さんの色気にあてられすぎたのかもしれない。去年まで在籍してた劇団にも、いま通ってる芸術学校にも、確かに色男の類いはいるけど、ここまで色気を撒き散らしながら迫られた経験はなかった。
まいった。この先一カ月半ものあいだ、この濃厚な色気と付き合わないといけないのか。演技の手本としては何をおいても学びたい対象ではあるけど……果たして保つんだろうか、俺の心臓は。
そんな不安からか、無意識に押さえていたらしい。自分の胸元を覆っていた俺の手に、神坂さんの大きな手が重なった。
「そんなに緊張しなくていい。慣れるためだと言っただろう」
やさしげな声音が降ってくる。
不思議だ。神坂さんにそう言われただけで、緊張がゆるゆると解けていく。
ソファーの背凭れに着いてた神坂さんの手はいつの間にか移動していて、俺の顔の横で肘を折っていた。その手の指先が、ソファーに広がる俺の長めの髪を摘まんでは指の腹で撫でるのを繰り返す。ときおりツンと引かれる髪の感触が妙にくすぐったい。
「誰も見ていない。夕陽が感じるまま、感じていればいい」
どうしてわかったんだろう。欲しかったアドバイスが、欲しいと口にするまでもなく与えられた。
神坂さんのやわらかな微笑みがさらに近くなる。ふたたびその唇へと視線が吸い寄せられた。
そうか、これは練習だ。演技の稽古みたく、納得いくまで何度だって試行錯誤すればいい。そして、いまの目標は神坂さんとのキスに慣れること。ただそれだけでいいんだと思ったら、すうと力が抜けていった。
神坂さんの唇が近づくにつれ、それを目で追う俺の目蓋が下がっていく。
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