あの春のやくそく

藍栖 萌菜香

文字の大きさ
3 / 7

02 大人になったら

しおりを挟む
 といっても、逃げ込んだのは隣にあるオレの家だ。こんなカッコで、公園とかに行けるわけないからな。
 玄関はしまってたから、庭の窓から中に入る。ひっかけてきたいつもの靴は窓の下に脱ぎ捨てた。

 たーちゃんチほどでかくはないけど、オレんチにもちゃんと子供部屋があるんだ。たーちゃんの部屋の窓と近いところが気に入ってる。
 いつも夜には、二人して窓を開けて少しだけおしゃべりしてから眠るんだ。ママたちにナイショのそれは、おやつタイムより楽しい。


 冷蔵庫からリンゴのパックジュースをふたつとって部屋にいく。ひとつはたーちゃんに渡した。
 勝手に飲んで、あとからママに怒られるかもしれないけど、まあ、いいや。ママの小言なんか聞き流せばオッケーだ。

 自分のパックにストローをさして一気に飲んだ。今日はぽかぽかと天気がいいせいか、冷たいジュースがめちゃくちゃおいしい。

「なんだよ、ストローできないのか? かしてみろ」
 パックについてたストローを引きはがせずにモタモタと困っていたたーちゃんを手伝ってやる。
 オレより小さいたーちゃんは、チカラもないもんな。だから、オレがついててやらないとダメなんだ。


 ストローをさしたパックを手に持たせてやると、たーちゃんがうれしそうにニッコリした。やっぱりかわいいな、たーちゃんは。

「ありがとう。あゆちゃんってやさしいね」
「あー、またあゆちゃんって言ったー」
「あぁっ、ごめんっ」
「まあ、いいよ。オレらのほかに誰もいないし、いまだけな?」

 ショウジキに言っちゃえば、あゆみって名前はキライでも、たーちゃんがオレのことを『あゆちゃん』って呼ぶのはイヤじゃない。ちょっとシタタラズで、たまに『あうたん』って聞こえるときがあって面白いんだ。


 オレがたーちゃんの『あうたん』を思い出しながらクスクスと笑ってたら、
「ボクね、ボクね。あゆちゃんが大好きっ。大きくなったらケッコンしてほしいっ」
 なぜかいきなりコウフンしだしたたーちゃんが、大声でそう言った。

 見れば、大きな目がきらきらしてて、まるでその目が『あゆちゃん、スキスキッ!』って、言ってるみたいだった。

「あーうん、ケッコンね。えーと、タカシ、知ってたか? 男同士だと、ケッコンできないんだって」
「え、うそ……」
「ほんと。オレもこの前、ママから聞いておどろいた」
「……なん、で?」
「さあ? ホウリツとか言ってたけど。よくわかんない」

 たーちゃんも、ショックだったんだろう。ぼーっとしたままカチンとかたまってる。

 そりゃそうだよな。気持ちはわかる。男同士だからって、一番のなかよしとケッコンできないんじゃ、ケッコンの意味ないじゃん。ケッコンって、ずっといっしょにいるためにするんだろ?


「そんなに気にすることないって、タカシ。ケッコンできなくたって、いっしょにいればいいだろ? ずっとさ」
 たーちゃんの悲しそうな顔なんて見たくない。たーちゃんは笑ってる顔が一番かわいいんだから。

「でも……、それじゃ、あゆちゃんをボクのものにすることは、できないってこと?」
 オレをたーちゃんのものに?
「なんだそれ?」
「この前、さくら組の女の子がケッコンしてくれっていうから、それなにって聞いたんだ」

 さくら組って言ったら年長さんじゃないか。たーちゃん、そんな年上の女からぷろぽーずされるなんて、いったい何があったんだ?

「そしたら、相手を自分のものにすることよって……。なら、ボク、あゆちゃんとケッコンしたいって思って……なのにダメなの?」
 そう言いながら、たーちゃんがいまにも泣きそうな顔になった。


 ちぇ。さくら組の女のことをもっとちゃんと聞き出してやろうと思ったのに。しょうがないからカンベンしてやるか。

「わかった、わかった。オレらが大きくなったときに、もし男同士でもケッコンできるようになってたらな。そのときは、オレ、たーちゃんとケッコンしてやるよ」
「ほんと!?」

 ありゃ。うっかりたーちゃんって呼んじゃった。ときどき失敗するんだよな。まさかたーちゃんみたいに寝言で言ったりはしてないと思うけど。

 久しぶりに口から飛び出た『たーちゃん』は、ちょっとくすぐったくて、なんだか恥ずかしい。そのせいか、からだの真ん中がじわっとあったかくなってきた。
 たーちゃんはそう呼ばれたことに気づいてないみたいだ。なら、たまには呼んでみるのもいいかな。うん。


「ほんとにボクのオヨメサンになってくれる?」
 たーちゃんが、ぐいっとからだを寄せてきて、すごくシンケンな顔をして聞いてきた。

「何言ってんだよ。オヨメサンになるのはおまえだろ?」
 こんなにちっさくてかわいいんだから、オヨメサンのカッコもきっと似合うぞ。

 そう思って、反論してみたけど、
「ダメだよ! ゼッタイあゆちゃんがオヨメサン! だってこんなにきれいなんだもん!」
 またこれだ。たーちゃんはいつも、オレのことをきれいだって言う。

 たしかにうちのママもパパもきれいでカッコイイから、その子どものオレがきれいでもおかしくはないけど……幼稚園児にきれいって、なんか違うと思うんだよな。
 だから、オレはたーちゃんの「きれい」はあまりシンヨーしてない。まあ、幼稚園児にカッコイイも違うんだろうけど、どうせならソッチのほうがいいのにさ。


「はいはい、わかったわかった。オレはいっしょにいられるんなら、どっちでもいいから」
「じゃあ、やくそくね。あゆちゃんはボクのオヨメサン」
「うん、いいよ」
 結局、反論しきれずにオレがオヨメサンで決まってしまった。

 オレの返事に、たーちゃんが「やったーやったー!」ってバンザイしてる。
 うれしそうにはしゃいじゃって、ほんとにかわいいったらない。この笑顔が見れるならオヨメサンでもなんでもなってやるよ。

 オレがそんなふうにたーちゃんオヨメサン化計画をあきらめてたら、
「じゃあさ、じゃあさ、……チカイのキス、しよ?」
 なんて、たーちゃんが言いだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

ポメった幼馴染をモフる話

鑽孔さんこう
BL
ポメガバースBLです! 大学生の幼馴染2人は恋人同士で同じ家に住んでいる。ある金曜日の夜、バイト帰りで疲れ切ったまま寒空の下家路につき、愛しの我が家へ着いた頃には体は冷え切っていた。家の中では恋人の居川仁が帰りを待ってくれているはずだが、家の外から人の気配は感じられない。聞きそびれていた用事でもあったか、と思考を巡らせながら家の扉を開けるとそこには…!※12時投稿。2025.3.11完結しました。追加で投稿中。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

【8話完結】僕の大切な人はBLゲームの主人公でした。〜モブは主人公の幸せのためなら、この恋も諦められます〜

キノア9g
BL
転生先は、まさかのBLゲームの世界。 モブであるリセルは、恋を自覚した瞬間、幼馴染・セスがこの世界の“主人公”だと気づいてしまう。 このまま一緒にいても、いつか彼は攻略対象に惹かれていく運命——それでも、今だけは傍にいたい。 「諦める覚悟をしたのに、どうしてこんなにも君が愛おしいんだろう」 恋の終わりを知っているモブと、想いを自覚していく主人公。 甘さと切なさが胸を締めつける、すれ違いから始まる運命の物語。 全8話。

処理中です...