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02 大人になったら
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といっても、逃げ込んだのは隣にあるオレの家だ。こんなカッコで、公園とかに行けるわけないからな。
玄関はしまってたから、庭の窓から中に入る。ひっかけてきたいつもの靴は窓の下に脱ぎ捨てた。
たーちゃんチほどでかくはないけど、オレんチにもちゃんと子供部屋があるんだ。たーちゃんの部屋の窓と近いところが気に入ってる。
いつも夜には、二人して窓を開けて少しだけおしゃべりしてから眠るんだ。ママたちにナイショのそれは、おやつタイムより楽しい。
冷蔵庫からリンゴのパックジュースをふたつとって部屋にいく。ひとつはたーちゃんに渡した。
勝手に飲んで、あとからママに怒られるかもしれないけど、まあ、いいや。ママの小言なんか聞き流せばオッケーだ。
自分のパックにストローをさして一気に飲んだ。今日はぽかぽかと天気がいいせいか、冷たいジュースがめちゃくちゃおいしい。
「なんだよ、ストローできないのか? かしてみろ」
パックについてたストローを引きはがせずにモタモタと困っていたたーちゃんを手伝ってやる。
オレより小さいたーちゃんは、チカラもないもんな。だから、オレがついててやらないとダメなんだ。
ストローをさしたパックを手に持たせてやると、たーちゃんがうれしそうにニッコリした。やっぱりかわいいな、たーちゃんは。
「ありがとう。あゆちゃんってやさしいね」
「あー、またあゆちゃんって言ったー」
「あぁっ、ごめんっ」
「まあ、いいよ。オレらのほかに誰もいないし、いまだけな?」
ショウジキに言っちゃえば、あゆみって名前はキライでも、たーちゃんがオレのことを『あゆちゃん』って呼ぶのはイヤじゃない。ちょっとシタタラズで、たまに『あうたん』って聞こえるときがあって面白いんだ。
オレがたーちゃんの『あうたん』を思い出しながらクスクスと笑ってたら、
「ボクね、ボクね。あゆちゃんが大好きっ。大きくなったらケッコンしてほしいっ」
なぜかいきなりコウフンしだしたたーちゃんが、大声でそう言った。
見れば、大きな目がきらきらしてて、まるでその目が『あゆちゃん、スキスキッ!』って、言ってるみたいだった。
「あーうん、ケッコンね。えーと、タカシ、知ってたか? 男同士だと、ケッコンできないんだって」
「え、うそ……」
「ほんと。オレもこの前、ママから聞いておどろいた」
「……なん、で?」
「さあ? ホウリツとか言ってたけど。よくわかんない」
たーちゃんも、ショックだったんだろう。ぼーっとしたままカチンとかたまってる。
そりゃそうだよな。気持ちはわかる。男同士だからって、一番のなかよしとケッコンできないんじゃ、ケッコンの意味ないじゃん。ケッコンって、ずっといっしょにいるためにするんだろ?
「そんなに気にすることないって、タカシ。ケッコンできなくたって、いっしょにいればいいだろ? ずっとさ」
たーちゃんの悲しそうな顔なんて見たくない。たーちゃんは笑ってる顔が一番かわいいんだから。
「でも……、それじゃ、あゆちゃんをボクのものにすることは、できないってこと?」
オレをたーちゃんのものに?
「なんだそれ?」
「この前、さくら組の女の子がケッコンしてくれっていうから、それなにって聞いたんだ」
さくら組って言ったら年長さんじゃないか。たーちゃん、そんな年上の女からぷろぽーずされるなんて、いったい何があったんだ?
「そしたら、相手を自分のものにすることよって……。なら、ボク、あゆちゃんとケッコンしたいって思って……なのにダメなの?」
そう言いながら、たーちゃんがいまにも泣きそうな顔になった。
ちぇ。さくら組の女のことをもっとちゃんと聞き出してやろうと思ったのに。しょうがないからカンベンしてやるか。
「わかった、わかった。オレらが大きくなったときに、もし男同士でもケッコンできるようになってたらな。そのときは、オレ、たーちゃんとケッコンしてやるよ」
「ほんと!?」
ありゃ。うっかりたーちゃんって呼んじゃった。ときどき失敗するんだよな。まさかたーちゃんみたいに寝言で言ったりはしてないと思うけど。
久しぶりに口から飛び出た『たーちゃん』は、ちょっとくすぐったくて、なんだか恥ずかしい。そのせいか、からだの真ん中がじわっとあったかくなってきた。
たーちゃんはそう呼ばれたことに気づいてないみたいだ。なら、たまには呼んでみるのもいいかな。うん。
「ほんとにボクのオヨメサンになってくれる?」
たーちゃんが、ぐいっとからだを寄せてきて、すごくシンケンな顔をして聞いてきた。
「何言ってんだよ。オヨメサンになるのはおまえだろ?」
こんなにちっさくてかわいいんだから、オヨメサンのカッコもきっと似合うぞ。
そう思って、反論してみたけど、
「ダメだよ! ゼッタイあゆちゃんがオヨメサン! だってこんなにきれいなんだもん!」
またこれだ。たーちゃんはいつも、オレのことをきれいだって言う。
たしかにうちのママもパパもきれいでカッコイイから、その子どものオレがきれいでもおかしくはないけど……幼稚園児にきれいって、なんか違うと思うんだよな。
だから、オレはたーちゃんの「きれい」はあまりシンヨーしてない。まあ、幼稚園児にカッコイイも違うんだろうけど、どうせならソッチのほうがいいのにさ。
「はいはい、わかったわかった。オレはいっしょにいられるんなら、どっちでもいいから」
「じゃあ、やくそくね。あゆちゃんはボクのオヨメサン」
「うん、いいよ」
結局、反論しきれずにオレがオヨメサンで決まってしまった。
オレの返事に、たーちゃんが「やったーやったー!」ってバンザイしてる。
うれしそうにはしゃいじゃって、ほんとにかわいいったらない。この笑顔が見れるならオヨメサンでもなんでもなってやるよ。
オレがそんなふうにたーちゃんオヨメサン化計画をあきらめてたら、
「じゃあさ、じゃあさ、……チカイのキス、しよ?」
なんて、たーちゃんが言いだした。
玄関はしまってたから、庭の窓から中に入る。ひっかけてきたいつもの靴は窓の下に脱ぎ捨てた。
たーちゃんチほどでかくはないけど、オレんチにもちゃんと子供部屋があるんだ。たーちゃんの部屋の窓と近いところが気に入ってる。
いつも夜には、二人して窓を開けて少しだけおしゃべりしてから眠るんだ。ママたちにナイショのそれは、おやつタイムより楽しい。
冷蔵庫からリンゴのパックジュースをふたつとって部屋にいく。ひとつはたーちゃんに渡した。
勝手に飲んで、あとからママに怒られるかもしれないけど、まあ、いいや。ママの小言なんか聞き流せばオッケーだ。
自分のパックにストローをさして一気に飲んだ。今日はぽかぽかと天気がいいせいか、冷たいジュースがめちゃくちゃおいしい。
「なんだよ、ストローできないのか? かしてみろ」
パックについてたストローを引きはがせずにモタモタと困っていたたーちゃんを手伝ってやる。
オレより小さいたーちゃんは、チカラもないもんな。だから、オレがついててやらないとダメなんだ。
ストローをさしたパックを手に持たせてやると、たーちゃんがうれしそうにニッコリした。やっぱりかわいいな、たーちゃんは。
「ありがとう。あゆちゃんってやさしいね」
「あー、またあゆちゃんって言ったー」
「あぁっ、ごめんっ」
「まあ、いいよ。オレらのほかに誰もいないし、いまだけな?」
ショウジキに言っちゃえば、あゆみって名前はキライでも、たーちゃんがオレのことを『あゆちゃん』って呼ぶのはイヤじゃない。ちょっとシタタラズで、たまに『あうたん』って聞こえるときがあって面白いんだ。
オレがたーちゃんの『あうたん』を思い出しながらクスクスと笑ってたら、
「ボクね、ボクね。あゆちゃんが大好きっ。大きくなったらケッコンしてほしいっ」
なぜかいきなりコウフンしだしたたーちゃんが、大声でそう言った。
見れば、大きな目がきらきらしてて、まるでその目が『あゆちゃん、スキスキッ!』って、言ってるみたいだった。
「あーうん、ケッコンね。えーと、タカシ、知ってたか? 男同士だと、ケッコンできないんだって」
「え、うそ……」
「ほんと。オレもこの前、ママから聞いておどろいた」
「……なん、で?」
「さあ? ホウリツとか言ってたけど。よくわかんない」
たーちゃんも、ショックだったんだろう。ぼーっとしたままカチンとかたまってる。
そりゃそうだよな。気持ちはわかる。男同士だからって、一番のなかよしとケッコンできないんじゃ、ケッコンの意味ないじゃん。ケッコンって、ずっといっしょにいるためにするんだろ?
「そんなに気にすることないって、タカシ。ケッコンできなくたって、いっしょにいればいいだろ? ずっとさ」
たーちゃんの悲しそうな顔なんて見たくない。たーちゃんは笑ってる顔が一番かわいいんだから。
「でも……、それじゃ、あゆちゃんをボクのものにすることは、できないってこと?」
オレをたーちゃんのものに?
「なんだそれ?」
「この前、さくら組の女の子がケッコンしてくれっていうから、それなにって聞いたんだ」
さくら組って言ったら年長さんじゃないか。たーちゃん、そんな年上の女からぷろぽーずされるなんて、いったい何があったんだ?
「そしたら、相手を自分のものにすることよって……。なら、ボク、あゆちゃんとケッコンしたいって思って……なのにダメなの?」
そう言いながら、たーちゃんがいまにも泣きそうな顔になった。
ちぇ。さくら組の女のことをもっとちゃんと聞き出してやろうと思ったのに。しょうがないからカンベンしてやるか。
「わかった、わかった。オレらが大きくなったときに、もし男同士でもケッコンできるようになってたらな。そのときは、オレ、たーちゃんとケッコンしてやるよ」
「ほんと!?」
ありゃ。うっかりたーちゃんって呼んじゃった。ときどき失敗するんだよな。まさかたーちゃんみたいに寝言で言ったりはしてないと思うけど。
久しぶりに口から飛び出た『たーちゃん』は、ちょっとくすぐったくて、なんだか恥ずかしい。そのせいか、からだの真ん中がじわっとあったかくなってきた。
たーちゃんはそう呼ばれたことに気づいてないみたいだ。なら、たまには呼んでみるのもいいかな。うん。
「ほんとにボクのオヨメサンになってくれる?」
たーちゃんが、ぐいっとからだを寄せてきて、すごくシンケンな顔をして聞いてきた。
「何言ってんだよ。オヨメサンになるのはおまえだろ?」
こんなにちっさくてかわいいんだから、オヨメサンのカッコもきっと似合うぞ。
そう思って、反論してみたけど、
「ダメだよ! ゼッタイあゆちゃんがオヨメサン! だってこんなにきれいなんだもん!」
またこれだ。たーちゃんはいつも、オレのことをきれいだって言う。
たしかにうちのママもパパもきれいでカッコイイから、その子どものオレがきれいでもおかしくはないけど……幼稚園児にきれいって、なんか違うと思うんだよな。
だから、オレはたーちゃんの「きれい」はあまりシンヨーしてない。まあ、幼稚園児にカッコイイも違うんだろうけど、どうせならソッチのほうがいいのにさ。
「はいはい、わかったわかった。オレはいっしょにいられるんなら、どっちでもいいから」
「じゃあ、やくそくね。あゆちゃんはボクのオヨメサン」
「うん、いいよ」
結局、反論しきれずにオレがオヨメサンで決まってしまった。
オレの返事に、たーちゃんが「やったーやったー!」ってバンザイしてる。
うれしそうにはしゃいじゃって、ほんとにかわいいったらない。この笑顔が見れるならオヨメサンでもなんでもなってやるよ。
オレがそんなふうにたーちゃんオヨメサン化計画をあきらめてたら、
「じゃあさ、じゃあさ、……チカイのキス、しよ?」
なんて、たーちゃんが言いだした。
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