17 / 54
17-【ダメ見本】待ってるだけじゃ進展はありません。
しおりを挟む
逃げたって、なんの解決にもならない。
そんな簡単なことがどうしてわからなかったのか。
あのときの俺は、どうかしてたとしか思えない。
逃げ帰る途中でそのことに気づいてよさそうなものを、きっちり自分のマンションまで帰ってきてしまった。
あまりに浅慮な自分に呆れながら、溜め息とともに部屋へあがる。
帰宅してる間に昇りきった朝陽は、俺の狭い部屋のなかを明るく照らしていた。
大悟、もう起きたかな。
薄暗い部屋にひとり置いてきた男を思う。
もう朝ジョグの時間は過ぎている。大悟は今朝も走ったんだろうか。
スマホを手に画面を起動させてみると、なんの着信もなく静かなものだった。
大悟がジョギングに出てれば、きっと写メが届く。届いてないということは、今朝はジョギングを中止したということだ。
大悟は、俺がアキレス腱を切って入院したあの日から、毎日欠かさず、朝と夕方に写メをくれるようになった。
朝のは、たいていジョギング中に撮る朝焼けや植物の写真。
夕方に届くのも、夕焼けやバイト先への移動中に見つけた何気ないワンシーンだ。
メッセージも何もない写真だけのソレに、俺が返信したのは最初の一回目だけだった。それでも大悟は、毎日ずっと送ってくれた。
本人に言ったことはないが、俺はその無言写メが届くの楽しみにしていた。スマホには、その写真専用のフォルダもある。
写真自体は、なんの変哲もない。でも、その写真を撮るとき、大悟が何を想って撮ったんだろうと考えだすと、変哲のないただの写真が姿を変える。
まあ、姿を変えると言っても、ちょっとあたたかく感じたり、楽しくなったりするだけで、結局は、大悟が何を想ってたかなんてのは、よくわからないままなんだけど。
とにかく、大悟のくれた写真を眺めるのが俺は好きなんだ。
大悟に会えない日が続いて寂しくなると、よくそのフォルダをひっくり返していた。
いまにも雨が降りそうな重たい雲の隙間からおりてくる朝陽のカーテンとか。
透き通る翅を震わせて飛び立とうとしているトンボとか。
雲のない夕暮れの空を染める夜色のグラデーションとか。
眺めるたびに大悟の視線になって、一緒にその風景を見ているような気分になれた。
あ、そうか。大悟なしでも生活できるって思い込んでたけど、それ、違うや。俺の生活には、大悟に会えない日でも大悟がいたんだ。朝と夕方に必ず届く写メのなかに。
もう一度、スマホの画面を眺める。次にメールがくるとすれば、夕方か。
大悟からの写メがたった一度届かないだけで、こんなにも虚しい。さっきまで一緒にいたにもかかわらずだ。
もし。
もし、このまま大悟からの写メが途切れてしまったら……。
そのときは、俺には付き合っていられないと、昨夜のことを大悟が判断した、ってことになるのかな。
そんな考えが頭をよぎった途端、全身の血がザッとさがる音を聞いた気がした。目眩まで感じて、すぐそばのベッドに座り込む。
本当に、そんなことになったらどうしよう。
呆然としながら、まだ起こってもいない事態を思い悩む。
ダメだ。なぜか、よくないほうにしか思考が働かない。しかも、考え出したらとまらない。
俺、間違ったんだよな。
大悟とセフレになればいいと思ったけど、セフレにはなれないんだ。というか、なりたくない。手を離す前提で、大悟と手を繋ぐなんて、俺にできるわけがない。
でも、たぶんもう、親友にも戻れない。
じゃあ、何にならなれるんだ?
どうしたら大悟の横に居続けられる?
ふと、『恋人』というキーワードが頭に浮かんだ。
恋人? でもそれって、互いが互いに恋してないと成立しない関係だろ。
大悟が俺に恋……うーん、それはないな。
だって、俺が男と寝てることを知っていながら、ずっと黙って見てたんだぞ。恋してたら、そんなことはできないはずだ。
じゃあ、俺は?
俺が大悟に恋してるなら、大悟を落とすよう努力すればいいだけだから、ちょっとは希望も持てるはずだ。
でも、ちょっと待てよ。あれ、恋ってなんだっけ? えーと、よくテレビドラマとか、漫画に出てくる『ときめき』とかを感じるアレだよな。
ときめき……大悟に? 安らぎを感じることはあっても、どきどきすることなんてあったかな。
ときめきの欠片を思い出のなかからどうにかして見つけようとしてみたけど、あったような、なかったような、そんな甘酸っぱい部分ばかりがまるで判然としない。
ああ、そうか。
唐突に納得してしまった。
俺はいままでずっと、大悟にゲイだってことを知られたくなくて、ひたすら隠してきた。大悟のこともそういう目で見ちゃだめだって、必死だった。だから、たとえときめきを感じることがあったとしても、その事実を認めるわけにはいかなくて……俺、無理やり目を逸らしてきたんだ。
まあ、結局大悟には知られてたんだから、その努力は全部無駄だったけどな。
気を取り直して、改めて大悟をそういう目で見てみる。
大悟はカッコいい。十分二枚目だ。すごく無口だけど、やさしいし、いい身体してるよな。
昨日の夜、長くて逞しい腕に抱き締められたときは、滅茶苦茶どきどきした。
ペニスはちょっと大きすぎるけど、初めてとは思えないほど上手だったし、身体の相性は抜群によかった。ときどき暴走しちゃうのには困ったけど、でもそれだって。
そこまで考えて、ハッとした。
どきどきって、セックスのことばっかじゃん。俺ってばサイテーだ。
そのあともいろいろと考えてはみたけど、恋のときめきとセックスのどきどきの線引きが、どうにも上手くできなくて、結局、自分が大悟に恋してるのかどうかは、よくわからないままだった。
溜め息をつきながらベッドに横になる。
視線の先には、握り締めたままだったスマホが暗い画面を静かに晒している。
大悟、怒ってないかな? 好き放題したうえに手間までかけて、それで何も言わずに消えるとか、常識的にはあり得ない。
大悟がどうしてるかとか、俺のことどう思ってるかとか。そんなに気になるなら、自分から連絡を取ってみればいい。そんなことは百も承知だった。
だけど……連絡してみて、もし絶縁を言い渡されたら?
親友は解消、セフレも無理、恋人なんて論外だ、とか言われたらどうしよう。
怖い想像に背筋がゾッとした。慌てて下に敷いていた掛け布団を身体に捲きつけ、悪寒を宥めたけど、想像がとまらないのに悪寒がやむわけもない。
ダメだ。夕方の写メ。電話するのは、それが届かなかったらにしよう。
それまでは……怖くて自分からは動けそうもなかった。
そんな簡単なことがどうしてわからなかったのか。
あのときの俺は、どうかしてたとしか思えない。
逃げ帰る途中でそのことに気づいてよさそうなものを、きっちり自分のマンションまで帰ってきてしまった。
あまりに浅慮な自分に呆れながら、溜め息とともに部屋へあがる。
帰宅してる間に昇りきった朝陽は、俺の狭い部屋のなかを明るく照らしていた。
大悟、もう起きたかな。
薄暗い部屋にひとり置いてきた男を思う。
もう朝ジョグの時間は過ぎている。大悟は今朝も走ったんだろうか。
スマホを手に画面を起動させてみると、なんの着信もなく静かなものだった。
大悟がジョギングに出てれば、きっと写メが届く。届いてないということは、今朝はジョギングを中止したということだ。
大悟は、俺がアキレス腱を切って入院したあの日から、毎日欠かさず、朝と夕方に写メをくれるようになった。
朝のは、たいていジョギング中に撮る朝焼けや植物の写真。
夕方に届くのも、夕焼けやバイト先への移動中に見つけた何気ないワンシーンだ。
メッセージも何もない写真だけのソレに、俺が返信したのは最初の一回目だけだった。それでも大悟は、毎日ずっと送ってくれた。
本人に言ったことはないが、俺はその無言写メが届くの楽しみにしていた。スマホには、その写真専用のフォルダもある。
写真自体は、なんの変哲もない。でも、その写真を撮るとき、大悟が何を想って撮ったんだろうと考えだすと、変哲のないただの写真が姿を変える。
まあ、姿を変えると言っても、ちょっとあたたかく感じたり、楽しくなったりするだけで、結局は、大悟が何を想ってたかなんてのは、よくわからないままなんだけど。
とにかく、大悟のくれた写真を眺めるのが俺は好きなんだ。
大悟に会えない日が続いて寂しくなると、よくそのフォルダをひっくり返していた。
いまにも雨が降りそうな重たい雲の隙間からおりてくる朝陽のカーテンとか。
透き通る翅を震わせて飛び立とうとしているトンボとか。
雲のない夕暮れの空を染める夜色のグラデーションとか。
眺めるたびに大悟の視線になって、一緒にその風景を見ているような気分になれた。
あ、そうか。大悟なしでも生活できるって思い込んでたけど、それ、違うや。俺の生活には、大悟に会えない日でも大悟がいたんだ。朝と夕方に必ず届く写メのなかに。
もう一度、スマホの画面を眺める。次にメールがくるとすれば、夕方か。
大悟からの写メがたった一度届かないだけで、こんなにも虚しい。さっきまで一緒にいたにもかかわらずだ。
もし。
もし、このまま大悟からの写メが途切れてしまったら……。
そのときは、俺には付き合っていられないと、昨夜のことを大悟が判断した、ってことになるのかな。
そんな考えが頭をよぎった途端、全身の血がザッとさがる音を聞いた気がした。目眩まで感じて、すぐそばのベッドに座り込む。
本当に、そんなことになったらどうしよう。
呆然としながら、まだ起こってもいない事態を思い悩む。
ダメだ。なぜか、よくないほうにしか思考が働かない。しかも、考え出したらとまらない。
俺、間違ったんだよな。
大悟とセフレになればいいと思ったけど、セフレにはなれないんだ。というか、なりたくない。手を離す前提で、大悟と手を繋ぐなんて、俺にできるわけがない。
でも、たぶんもう、親友にも戻れない。
じゃあ、何にならなれるんだ?
どうしたら大悟の横に居続けられる?
ふと、『恋人』というキーワードが頭に浮かんだ。
恋人? でもそれって、互いが互いに恋してないと成立しない関係だろ。
大悟が俺に恋……うーん、それはないな。
だって、俺が男と寝てることを知っていながら、ずっと黙って見てたんだぞ。恋してたら、そんなことはできないはずだ。
じゃあ、俺は?
俺が大悟に恋してるなら、大悟を落とすよう努力すればいいだけだから、ちょっとは希望も持てるはずだ。
でも、ちょっと待てよ。あれ、恋ってなんだっけ? えーと、よくテレビドラマとか、漫画に出てくる『ときめき』とかを感じるアレだよな。
ときめき……大悟に? 安らぎを感じることはあっても、どきどきすることなんてあったかな。
ときめきの欠片を思い出のなかからどうにかして見つけようとしてみたけど、あったような、なかったような、そんな甘酸っぱい部分ばかりがまるで判然としない。
ああ、そうか。
唐突に納得してしまった。
俺はいままでずっと、大悟にゲイだってことを知られたくなくて、ひたすら隠してきた。大悟のこともそういう目で見ちゃだめだって、必死だった。だから、たとえときめきを感じることがあったとしても、その事実を認めるわけにはいかなくて……俺、無理やり目を逸らしてきたんだ。
まあ、結局大悟には知られてたんだから、その努力は全部無駄だったけどな。
気を取り直して、改めて大悟をそういう目で見てみる。
大悟はカッコいい。十分二枚目だ。すごく無口だけど、やさしいし、いい身体してるよな。
昨日の夜、長くて逞しい腕に抱き締められたときは、滅茶苦茶どきどきした。
ペニスはちょっと大きすぎるけど、初めてとは思えないほど上手だったし、身体の相性は抜群によかった。ときどき暴走しちゃうのには困ったけど、でもそれだって。
そこまで考えて、ハッとした。
どきどきって、セックスのことばっかじゃん。俺ってばサイテーだ。
そのあともいろいろと考えてはみたけど、恋のときめきとセックスのどきどきの線引きが、どうにも上手くできなくて、結局、自分が大悟に恋してるのかどうかは、よくわからないままだった。
溜め息をつきながらベッドに横になる。
視線の先には、握り締めたままだったスマホが暗い画面を静かに晒している。
大悟、怒ってないかな? 好き放題したうえに手間までかけて、それで何も言わずに消えるとか、常識的にはあり得ない。
大悟がどうしてるかとか、俺のことどう思ってるかとか。そんなに気になるなら、自分から連絡を取ってみればいい。そんなことは百も承知だった。
だけど……連絡してみて、もし絶縁を言い渡されたら?
親友は解消、セフレも無理、恋人なんて論外だ、とか言われたらどうしよう。
怖い想像に背筋がゾッとした。慌てて下に敷いていた掛け布団を身体に捲きつけ、悪寒を宥めたけど、想像がとまらないのに悪寒がやむわけもない。
ダメだ。夕方の写メ。電話するのは、それが届かなかったらにしよう。
それまでは……怖くて自分からは動けそうもなかった。
19
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる