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第七話 魔法を楽しもう
しおりを挟むイフリータのリタと別れてから十日が経った。
俺は今、昼と夜の生活を逆転させ、この迷いの森を抜けようと先に進んでいる。
昼は木陰で疲れを取り、夜は明り片手に道無き道を歩いて行く。
明かりを手にしている為か、動物や魔物、魔獣には一切出会っていない。そのため食料は肉を諦め、赤梨のみを食べている。
この森の中で火魔法を使うのは、リスクが高い。もし木々に燃え移れば逃げ場は無いだろうから、戦闘なく進めるのは良いといえば良かった。
逆に森に火を放ち、自分は川の中に身を潜めておけば、森を簡単に抜け出せるんじゃないかとも思ったが、さすがにそれは自分の良心が痛んだ。
そろそろ森を抜け出せても良さそうなものだが、良くも悪くも森は通常運転だ。
「よし、完成だ! この魔法は『炎花槍』と名付けよう!」
花槍という、中国の槍を模して作った火の槍を手に、高らかに宣言した。
この十日間、火魔法について色々と考査や実験、開発をしていた。
実験の結果、自分が出した火は自分に影響が無い事がわかった。
指先も熱くないし、着ている服が直接火に触れても大丈夫だ。自分が出した火は、自分の身体の一部のような認識かもしれない。
また土を被せようが水の中に入れようが、魔力の供給を止めない限り何をやっても消えない。
しかし、その火が他の物に燃え移ると、俺でも熱さを感じるし水に入れれば消え、通常の火の扱いになるみたいだ。
マナを物質変換して作られる火は、自然の物とは別物だと思った方がいいだろう。
通常の火は、酸素と燃料と熱が必要となってくるが、魔法の火はどれも必要とせずマナを直接火に物質変換している。それが今回の実験結果になっていると説明がつく。
火のコントロールはある程度出来るようになったが、蛇口は壊れたままだった。
そのハンディを埋めるため、パチンコ球のサイズから両手を広げたほどの球体、螺旋、槍や剣、人や動物などを様々な物を象(かたど)る練習をした。
出来のいい物には名前を付けて、発動までの流れを反復する。この頃になると、サラマンダーの名前を呼ばなくても火魔法が扱えるようになり、練習もすこぶる捗った。もっとオリジナルを考えて、魔法の芯まで楽しみたい。
今では制御にかかる時間も減り、魔力の枯渇を伺わせる精神の疲労も皆無だ。しかし、今やっているのはただ形を変えているだけに過ぎない。リタが俺を回復してくれたような、違う効果を持った火は作り出せていない。それに、他の属性は未だに扱えず、少々煮え滾(たぎ)らない面もあった。
空が色付いてきた。
明かりに使っていた火魔法を消す。最近では松明を止め火魔法で代用している。
ファイヤーボールをパチンコ球サイズまで小さくすると、眩しいくらいに青白く光ることを発見したからだ。サイズも小さいため木や枝に触れる危険性も松明より低くなり、松明より安心して進めるようになった。
ちなみに名前は『炎輝』だ。
日が昇り今日の移動は終了する。体力的にはまだまだ大丈夫だが、ある程度余裕を持たせておかないと、イザという時に動けなくなる。
適当な木に背を預け、袋から赤梨を取り出しひとかじりする。これで七回目のループ移動だが、どの場所でも赤梨の木があった為、今では遠慮なしに食べまくっている。
試しに『焼き赤梨』も試してみたが、甘さは増すものの、クタッとした食感が俺には合わなかった。
腹ごしらえも終わり、惰眠を貪ることにする――が、ここでは熟睡できないので、寝不足気味が最近の悩みだ。安心して眠れた木の洞が恋しい。
仮眠から目が覚め、再び辺りを散策する。今度は赤梨探しだ。基本は東に足場を慣らしながら探し歩き、見つからずループして帰ってきたら、南北に進路を変えて探す。
昼間に移動すると森の動物たちを目にすることが増えてきた。一時期警戒されていたようだが、今の俺が無害だと分かってくれたのかな。
最近余裕が出てきた気がする。死線をくぐったからか、魔法が使えるようになったからか、リタに追いつくという明確な目標が出来たからか。
ただ、いつもの俺だったら、ここで調子に乗って失敗してしまうパターンだが、これからは違う。目標は遥か先だ。慢心することなく努力を継続させていこう。一つの事に集中し過ぎるのを気をつけよう。それがこの困難――とはもう呼べないな、この世界を楽しむ事だと思う。
「お、あった!」
今日はすぐに赤梨を見つける事ができ、袋いっぱいに詰め込んだ後、一つかじりながら先に進む。このままループして足場を慣らしておいた方が、夜歩くとき楽だからだ。
のんびりと道を慣らしながら少しずつ前へ進む。
ここ最近の平和さに、鼻歌なんか歌っちゃったりして……。
「ぎゃあああぁぁぁ」
……フラグだったか。困難が来ちゃったっぽい。
突然の男の叫び声に反射的に身を屈めた。この森に迷い込んだ人なのか、エルフの追手か、森の出口で外の出来事なのか……確かめる必要がありそうだ。
身を屈めながら声のした方にしばらく歩いて行くと、目の前が明るく輝き始めた。
「森の出口だ!」
思わず走りだしそうになったが、先ほどの声を思い出して、より一層慎重に進んだ。
喧騒が聞こえる。どうやら言い争っているようだ。俺は木に隠れながら様子をうかがった。
見えるのは馬車と人が十人くらいだ。会話の内容から盗賊と商人ってところか。
「どうか、命だけは! 荷物はすべて差し上げますので!!」
「おぉ~殊勲だねぇ。 じゃあ、お前殺してから頂くとするわ!」
「ぐあぁ……そ……な……」
「お頭ぁ、あんたロクでなしだなぁ」
「ちげぇねぇ!」
仲間同士でゲスい笑いを辺りに響かせ、惨殺した商人っぽい奴の懐をまさぐっている。
改めてじっくりと様子をうかがう。馬車は横倒しになっており、その近くに馬二頭と護衛っぽい四人が倒れている。盗賊は五人、今殺された商人と、あとは身なりがボロボロな、多分奴隷だろう人が三人いる。奴隷の首にはちょっとゴツ目の首輪が付いていて、多分あれが奴隷の証だろう。
俺の取る行動は決まっている。待機、スルー、我関せず、見て見ぬふりだ。
フル装備の相手五人に対して、分が悪すぎるし、義理もない。せっかく森から抜け出せたのに、ここでゲームオーバーはあんまりだ。
俺は盗賊がここから立ち去るまで下手に動かず、ここで待つことにした。
「おい、この女奴隷、エルフだぞ! 大当たりじゃねーか!」
「俺たちは運がいいな! 積荷もたんまりだし、女エルフもいる! はした金にしかならねぇ野郎の奴隷なんて邪魔なだけだ!」
お頭と呼ばれていた男が、必死で命乞いをする二人の奴隷を時間をかけて嬲り殺しにした。
それを目の前で見ていた女エルフは、あまりの恐怖に立つこともできず、その場で目を閉じ耳を塞いでいた。
厳しい世界だな。愚劣極まるこの状況に苛立ちを覚えた。
何とかしてやりたい。あの女エルフだけでも助けてやりたい。だが、まともに戦っても負けるのが目に見えている。
そう、まともに戦えば……だ。
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