困難って楽しむものでしょ!

ポッチー

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第二十四話 決意を楽しもう

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 振り下ろされる巨大な棍棒は、ゆっくりと弧を描いて民家の屋根に突き刺さった。
 一撃で屋根が破壊され、埃と砕片が舞う中、慌てふためいた親子三人が命辛々飛び出してきた。
 父親は、まだ小さな子供を抱きかかえながら、突然起こった非日常的な出来事を把握するため、周囲を見渡し……絶望した。目の前には、平屋の自宅よりも、遥かに大きい巨人が待ち構えていたからだ。

 食人鬼『オーガ』

 獰猛で人肉を好み、数体から十数体で村を襲い、今まで幾つもの村を壊滅状態にしている。しかし数年前にオーガ討伐隊が人間、エルフ、ドワーフの三種族合同で結成され、この大地のオーガは駆逐されたはずだった。

「パパっ! 怖いよ……」
「大丈夫。パパとママが守ってあげるから」
「あなた……」
「アマンダ――こちらへ」

 妻のアマンダは夫から愛娘のサンタナを託されると、夫のやろうとすることに気がついてしまった。農夫の夫に今出来ることなど何もない。護身用の直剣も、今は瓦礫と化した自宅の中にある。だとすれば、夫の行動は一つしか残っていない。

「あ、あなた!」
「アマンダ、サンタナ。君たちをいつまでも愛しているよ。アマンダ、私が注意を逸らしている隙に……いいね?」

「ねぇ、パパー」

「いや、いや! あなたも一緒に!」
「ダメだ! 君たちだけでも逃げてくれ!」

「ねぇねぇ、ママー」

「アマンダ……! サンタナの為に!」
「っ……サンタナ……わかったわ。あなた、どうか――死なないで」

「パパー、ママー。おっきい人のお顔、無くなっちゃったよー?」

「……え?」
「なんだって?」

 振り返ると、なぜかオーガは頭部を失った状態で立っており、今まさにこちらに倒れてこようとしていた。

「ア、アマンダ! 走るぞ!」
「は、はい!」

 アマンダからサンタナを受け取り、無我夢中でその場を離れた。





「……この親子は大丈夫そうですね」
(よかった。それに俺の『炎輝えんき』で対応出来そうだな。レイラ、二手に分かれて行こう。みんな助けよう!)
「……わかりました。お気をつけて」
(そっちも!)

 レイラと別れて次のオーガの元へ走る。




 少し前、アグコルトの街が見渡せる丘に着いた時、その異変に気がついた。街に多数の巨人が徘徊していたからだ。
 アグコルトは街の中に農地が広がっており、かなりの広さがある。目立った建物も少なく、平屋建ての民家がポツリポツリと点在していた。そんな中にいる巨人の存在は、否が応でも視界に入ってきた。

「あれは! B級魔物の食人鬼『オーガ』です! そんな……数年前に三種族合同の討伐隊によって駆逐されたはず……」
(食人鬼だって? それってヤバいんじゃないか?)
「……私のラグ―」
「でも、もうこの世界には居ないはずなのに……」
(レイラ! あれは俺たちでも倒せるのか?)
「何で……」

 いまいちレイラと会話がかみ合わない。しょうがない、リタに通訳を……。

「私のラグー!!」

 ……頼もうとした時、リタはもの凄いスピードで街に向かって行った。何よりもラグ―を心配していたが、大丈夫だろうか。暴走しないかな……。

(レイラ! 俺たちも行くぞ!)
「はい!」

 とりあえずリタの後に続いて、街を目指した。
 ここ二十日間、ダッシュばかりやらされていた成果が発揮された。かなりのスピードで走っているが、『炎癒えんゆ』を常時使用している事もあり、疲れはほとんど無い。風の力を借りているレイラのスピードにやっと追いつけたようだ。

「オーガは獰猛で人肉を好んで食べます。数体から十数体で村を襲って、今まで幾つもの村を壊滅状態にしてきました。しかし、鈍重で知能も低いため、私たちなら問題無く倒せると思います。ケンタ様、どうします?」
(そうだな、襲われている人を見かけたら最優先で、とりあえずは一番近いオーガを目指そう)
「あのオーガですね。わかりました」

 リタの姿は一向に見えないので、とりあえず目の前の敵を片付けよう。


 近くまで行くと、その大きさに閉口してしまった。高さにして五メートルくらいはあるんじゃないか? その容姿は、原始人という表現がピッタリだ。ボサボサの髪に汚れた肌、とても服とは呼べない布切れを腰に巻いている。そして今、樹齢何百年もありそうな大木を削った棍棒で、民家の屋根を破壊したところだった。

「建物の中に人がいなければ……あっ! 親子が出てきました!」
(見た感じ怪我もなさそうだな。よし、ここは俺にまかせてくれ)
「ケンタ様が倒すんですね。わかりました、お願いします」

 リタとの特訓を思い出す。
 
 あれだけ毎日、二通りの意味で、熱い思いをして頑張ったじゃないか。

 もう誰も傷つけさせない。レイラもリタも、この街のみんなも俺が守る。

 人相手には……まだ答えは出ていない。悩みもするし、躊躇もするが、魔物相手には容赦はしない。

 俺がこいつを……殺す!

(『炎輝えんき』!)

 大きさはオーガの顔面程度、出現場所はオーガの鼻先に、対象はもちろんオーガのみ。

(いけ!)

 それは今までとは明らかに様相が違った。リタとの特訓で使用していた『炎輝』は青白く輝く球体だったが、強い思いを込めて作ったこの『炎輝』は、青白いというよりも灰濁色と言った方が合っている気がする。

 突如目の前に現れた灰濁球に、オーガが驚こうとした時は、オーガに意識は無かっただろう。ゼロ距離からの攻撃に、オーガの頭部は跡形も無く消し去った。

(よし! オーガにも有効だな)

 考えてみれば当たり前か。炎耐性のあるワイバーンですら倒せるのに、オーガに後れをとるはずが無い。眩しさも無くなり、この程度の距離ならコントロールも完ぺきだ。俺の主力魔法が今ここに完成した。レイラの怪訝そうな表情にも気づかずに……。

「……ケンタ様」





 レイラと二手に分かれてから、五匹のオーガを倒した。剣士であればかなり苦戦するだろうが、魔法なら距離を取ればノーリスクで倒すことが出来る。本当に魔法が使えるようになってよかったとしみじみ思うと同時に、剣士の場合はどうやって戦うのか興味も出てきた。今度レイラに聞いてみよう。

 一体、また一体と倒して行き、目視で確認できるのは残りは一体だけになった。
 他のオーガはよくあるRPGで言う『布の服』を着ているが、こいつだけは鎧を着ている、多分リーダー格なんだろう。誰かと喋っているようで、その巨体から発せられる声は、途切れ途切れではあるが、まだかなり距離がある俺にまで聞こえてくる。

「ユル――ゾ! オマエタチ――! ――!」

 オーガの足元を見ると、一人で立ち向かっている人がいるのが分かった。まだ距離があり、どんなに急いでも、今オーガが攻撃を始めれば、あの人は無事じゃすまないだろう。ここから魔法を撃っても上手く距離感が掴めなそうにない。だが、それを理由にあの人を見殺しにすることは出来ない。
 ゼロ距離射撃が出来ないなら、ここからオーガにぶち当てればいい!

 俺はライフル銃をイメージして炎輝を作り上げていく。
 形は銃弾、大きさは大砲くらいないと効かないだろう。イメージするのは回転と速度。
 意識を集中させろ! 大切なのは初速!

 頭のなかで最大限にゴムで引っ張るようなイメージをして……撃つ!

 回転、速度、大きさに威力も申し分なく、弾は瞬きする間もなくオーガの鎧を打ち砕き、土手っ腹に風穴が空いていた。

「グッ……、オマ……ダ……ナ!」

 辞世の句でも詠んでいたのか、言い終わると同時にオーガの命も尽き果てたようだ。
 俺は一人立ち向かった勇敢で無謀な人物と合流するため、そのままオーガの場所に急いだ。その際、念のため他のオーガを探してみたが、視界に入るようなオーガは居なかったのでこれで全部倒したんだろう。
 住民たちのパニックも収まりつつあるのか、叫び声などの喧騒もほとんど聞こえない。
 逆に、結構なスピードで街の中を走り抜けていく、得体の知れない仮面野郎……俺に対する住民たちの悲鳴が、後ろの方から聞こえてくる。


(確か、この辺りだったような……)

 辺りを見回すと、先ほどのオーガが倒れている場所を発見した。小走りでその場に向かうと、未だに状況が読み込めないのか、その場にボー然と立ちつくす人物が居た。

(大丈夫でしたか? どこか怪我は……)
「あ……」

 自分が呪われている事をすっかり忘れ、不用意に話しかけてしまった。レイラを待てばよかったと軽く後悔をしたが、振り向いたこの人物……この女性に、俺はそんな思いも、言葉も失ってしまった。

 
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