25 / 38
第二十五話 出会いを楽しもう
しおりを挟む淑女の気品と妖艶さを引き立てる褐色の肌に、光り輝くプラチナのロングヘアがよく映えている。整った顔立ちは、まるで世の男性の理想を固めたような、誰にでも愛される顔をしていて、エルフの特徴である尖った耳がチラリとのぞいた。ダークエルフだろうか。
フード付きのマントを羽織り、レイラや俺と同じような皮の防具を付け、右手には短剣が、左腕には小型の丸い盾を装備している。ベルトに通してある小物品をはじめ、短剣、盾などはどれも使い込まれており、勝てる勝てないは別として、オーガと対峙できるあたり、ある程度の手練だと判断できる。
勢い任せで声を掛けてしまったものはしょうがない。彼女が怖がる前にここを去るか、もう少し待っていればレイラが来てくれるんじゃないかとも思ったり、優柔不断を惜しみなく発揮し決断に迷っていると、彼女の方から救いの手が差し伸べられた。
「ねぇねぇ、もしかして私を助けてくれた人?」
(えぇ、そ、そうです)
うんうんと頷いて、彼女の仮説を肯定する。それと仮面の呪いで喋られないこともジェスチャーで伝えた。
「本当に助かったわー。あ、私はレオノーラ。こう見えても冒険者なの。たまたま近くを歩いていたら、オーガがたくさん居るじゃない? 村が危ないって思ったら、いつの間にかオーガの前に出てたのよねー。えへへっ」
(は、ははは)
あれ? なんかイメージしていたのとちょっと違うな。軽いというか、天然というか、のほほんとした雰囲気が二人を包んでいるようだ。
「おぉっと! えへへ」
思い出したかのように、慌ててフードを被る。
「……あなたは気にしないみたいね。ほら、私ダークエルフでしょ。知ってると思うけど、色々とあるじゃない? とくにエルフからは、そりゃひどいもんよー」
(そうですか……)
俺にダークエルフの迫害劇を語るが、そののんびりした口調に、イマイチ臨場感に欠ける。
そんなやり取りをしていると、周りが騒がしくなってきた。住人総出で武器を持ち、被害状況を調べ回っているみたいだ。
「それじゃ、私はバレない内に行くね。またどこかで会ったら……その時はキミの名前教えてね」
(わかった。その時までには、この呪いを解いておくよ)
「じゃあねー」
(気をつけろよー)
レオノーラか……変わった女性だったが、身を挺してまでこの街を守ろうとしていたので、悪い人では無さそうだな。ただ、言葉悪く言うならバカっぽい。危なっかしいし、先程も短剣を持ったままリアクションするもんだから、レオノーラ自身に当たらないかヒヤヒヤした。
……これも縁か。
俺は、行き先が同じ方向なら共に行こうと思い、レオノーラを探した。ダークエルフの外見も俺と居ればそんなに目立たないはずだ。それにこの街の周辺にはまだオーガが居るかもしれない。一人より二人。二人より四人だよな。
しかし、レオノーラが去った道を、街の外まで追いかけて行っても、彼女に出会うことはなかった。道をかえたか、人に見つかりそうになった為、どこかに身を潜めているのかもしれない。
(見つからないか……)
俺は街の外からレオノーラと出会った場所に戻ると、そこにはレイラと街の住人たちが勢ぞろいしていた。俺を見つけて嬉しそうに走ってくるレイラと、逆に顔を引きつらせて後退りする住人たちに、小さな笑いが込み上げてきた。
「あ! ケンタ様! ご無事でしたか? 私はこちらの住人の方たちと、街のすべてを一緒に回りました。怪我人は数名居ましたが、犠牲者は1人も出なかったようです。しかし、壊れた住宅と、荒らされた畑の被害が大きいようです」
(そうか……まぁ生きていれば家もまた建てられるし、畑も耕せられる。犠牲者が出なくて本当に良かった)
「あ、あのレイラさん。そちらの方は……ま、魔族の方ですか?」
住人の代表として背中を押された一人の男が、レイラに恐る恐る訪ねてきた。
「ケンタ様ですか? いいえ、ケンタ様は人間族の方です。エルフの森近辺で、私が盗賊に襲われそうになっていた時に助けて頂きました。この容姿はその時に被ってしまった、その仮面の呪いのせいなんです……」
「そうだったんですか。いやはや、疑ってしまい失礼いたしました」
(いや多分魔族も混じってますよ……と言っても伝わらないか。それよりもリタって子を知りませんか? 黒のワンピースにプラチナブロンドの女の子なんですが……)
レオノーラに首ったけになってしまっていたが、走り出した当初の決意を思い出し、身を引き締めた。それと同時に、リタのことも思い出した。
ジェスチャーを交えて住人に話しかけると、レイラが察し、住人にリタについて聞いてくれた。
「あぁ、あのかわいい魔法使いさんか! 彼女なら定食屋でご飯食べてると思うよ。あの子強いねー。俺たちを囲んでいたオーガ三体を一瞬で倒して、俺たちに『ラグー食べたい!』だもんな」
後ろの方からの返答にドッと笑いが巻き起こり、当時の事を思い出し皆は笑みをこぼした。損害は大きかったが犠牲者がいなかった事と、オーガも全て倒しきった事で、安堵が皆を包んでいるようだった。
住人に案内され定食屋に行くと、リタがお店から出てくるところだった。
「また来てね、リタちゃん! 次はちゃんとラグーを用意しとくからね!」
「本当!? おじさん! 絶対食べに来るからね!」
「あぁ! 約束だ!」
いつまでも名残惜しそうに手を振る店主らしき人物。その人に負けないくらいに、何度も振り返りブンブンと手を振るリタ。そんなほっこりする光景をしばらく堪能したあと、俺たちは彼女に声をかけ、現状把握と今後について話し合った。
「……ということで、本来ここで補給し、一泊してから行く予定でしたが、今回の襲撃で宿屋も半壊してしまったということで、このまま首都『サンクテレシア』まで行こうと思います」
(そうだな)
「いいよー」
街の脅威も無くなり、あとは街の復興のみ。ある意味壊す専門の俺たちが居ても、大して役に立たないだろう。荒らされた畑や、壊れた家は、その道のスペシャリストに任せるに限る。
ちなみに、リタはラグーを食べられなかった。まだ仕込み前の段階らしく、代わりに店主が食べようと思っていた賄い飯を頂いたようだった。
「えとね、お肉を口に入れたら、汁がじゅわ~って来て、それで野菜食べたらコリコリっとしてて、少ししょっぱくて、でも美味しいの!」
……ふむ、わからんな。美味しかったっていうのは言葉だけでなく、表情やジェスチャーなどで容易に理解できるが、何を食べたのかは、全くわからないな。賄いの肉料理だと思っておこう。
そんな他愛もない話をしながら、俺たちは街を出発した。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる