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第三十話 謁見を楽しもう

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「冒険者ケンタは犯罪奴隷落ちとする」
(ど、奴隷落ち……)

 王の名の下に出されたその判決に、俺は耐え難いほどの後悔の念に苛まれていた。



 時間は少し遡る。
 俺は兵士に連れられてサンクテレシア城に案内された。
 ただ、俺が騒ぎを起こしてしまった為、名目上は連行という形を取り、兵士に囲まれ重苦しい雰囲気を醸し出していた。
 城に入るとそんな体裁もすぐに解かれ、アグコルトの一件が知れているのかその対応は客人扱いだった。
 通された部屋に、レイラとリタが居た。
 レイラは曇った表情を見せながら窓の外に視線を向け、リタはお茶菓子を口にしながら、ほっこりとした笑顔を見せていた。

「あ、ケンタ様!」

 俺に気がついたレイラは、俺のもとに駆け寄り、少し申し訳無さそうに謝罪した。

「申し訳ありません。冒険者ギルドに向かう途中、アグコルトに向かっていた兵士さんたちと出会いまして……」


 レイラの話だとこうだ。


「君! 君は確か南街道の途中で出会った仮面の主人を持つ――」
「あ、あの時の兵士さんですか?」

 隊長格であろう兵士は、行きほど大所帯ではないが、それでも数十人の兵士を連れて、街に帰って来たばかりみたいだ。

「おぉ、やはりそうか。いや、実はあの後すぐにアグコルトからの使者に会ってね。ブラウンの髪色で、奴隷の首輪をしたエルフの少女……これは君だろう。それと銀髪で黒のワンピースを着た少女と、仮面の男がすべてを片付けてくれたと聞いてね。ちなみに、君は今一人かい?」
「えぇ、銀髪の少女……と、仮面のご主人様は街を散策していると思います」
「そうか、じゃあうちの兵に探させよう。君は今から俺たちと一緒に来てもらえないかな?」
「……何故でしょうか?」
「いや、うちの上司が詳細を聞きたいらしくてね。なに、そんなに時間は取らせないよ。使者からの情報と、君たちの情報をすり合わせる程度だと思うよ。現金な話だが、来てもらえれば国から報奨も出ると思うぞ」
「報奨ですか」

 奴隷解放に金貨50枚必要な今、このお誘いはレイラにとっては受けておきたいところだったらしい。
 気持ちはわからなくもない。本来なら奴隷解放を断れば事済むのだが、俺の解呪の条件に奴隷解放が必須の為、レイラは辛いポジションにいる。
 少し考え、レイラはこの話に乗ることにした。

「わかりました。ご一緒させてください」
「おう、助かる。よし、お前らは手分けして残りの二人を探してくれ」
「はい」


 リタは冒険者ギルドですぐに見つかったが、俺は街のあちこちを走り回っていたため、中々見つからなかった。しばらくして、捜索中に起きた奴隷商襲撃事件の現場で俺が発見された……というわけだ。
 途中、レイラの耳にも奴隷商襲撃事件の一報は入って来たらしい。



 俺が揃った事ですぐに呼び出された。
 俺たちを待っていたのは上兵などではなく、王と重鎮たちだった。

「今から二件の奴隷商襲撃事件の裁判を始める」

 王自らが裁判官なのか!? この国の裁判事情は全く知らないが、レイラやタルマの驚きようをみるとどうやら通例では無いようだった。
 話と違う展開にレイラはヒトコト言いたそうだったが、俺はレイラを静止した。
 自分の犯した罪の裁きを受けなければならないし、何か裏がありそうだ。下手に動かないほうがいいだろう。

 裁判は進み、俺の犯した罪の発端、経緯、結果、損害の大きさ、被害者の有無、程度など事細かに並べられた。

「死傷者が一切出なかった事を踏まえても、二件の奴隷商店を全壊させた罪は重い。よって、冒険者ケンタは三百日間、犯罪奴隷落ちとする」


 そして今に至る。


 この判決にレイラは相手の立場すら忘れて食って掛かったが、その判決が覆ることはなかった。
 同じく呼び出されていた奴隷商タルマは、金貨100枚で買うように言い渡されていた。
 驚きの表情を見せたが、その命令に逆らえるワケもなく、深々と頭を下げた。


「続いて、アグコルトのオーガ襲撃に対する報告を――」

 アグコルトからの使者と、道すがら出会った兵士たちの代表が、事の顛末を語った。
 レイラとリタの行動が述べられたが、俺は誰にも目撃されることなくオーガを倒して行ったため、その成果は陽の目を見ることはなかったが、同じパーティーメンバーであり、レイラの主人であることから、多少の恩恵を受ける事となった。
 
「ふむ、よくぞアグコルトの街を救ってくれた。その方らに金貨100枚を与えよう」

 王はそう言うとニヤリと笑みを浮かべた。
 罪を犯した俺への罰は必要だ。だが、このまま俺が犯罪奴隷として埋もれていくのは、多分国にとってもマイナスだと考えたんだろう。
 そこで俺の買取金と同額の褒美を与えて、仲間に買い取らせる打算みたいだ。
 多分、俺たちとタルマとの関係も知っているに違いない。

 すべては王と重鎮たちの手の上で踊らされ、一喜一憂し、振り回された形になった。


 兵士と共にタルマの店に戻った俺たちは、早速レイラの奴隷解放と俺の奴隷化手続きを行った。

「では、レイラを奴隷解放いたします」

 レイラから奴隷の首輪が外された。
 
「次に、ケンタ様に奴隷の首輪をつけさせて頂きます」

 首に冷たい首輪が付けられた。その瞬間、一瞬だったが何かが身体を駆け巡ったような気がした。多分これが契約の魔法なんだろう。
 奴隷の首輪は闇の魔法によって契約されているみたいで、国の奴隷担当者立会いの元、首輪のやりとりがなされていた。

 俺を買い取る金貨100枚は、すでにタルマに渡してある。王から貰ったものを、そのまま横に流した形だ。
 タルマに儲けは無いが、快く了承してくれた。しかも、迷惑をかけたからと、レイラの奴隷解放の代金も受け取れないと言っていたが、そこは押し付ける形で受け取ってもらった。

 
「では、ケンタ様の主人は……」
「はいはいはいはいはーい! 私やるー!」
「いえ、ここは奴隷の勝手知ったる私がやります」

 思わぬところで火花が散った。俺としてはどちらでも――いや、ここはレイラに頼もう。なんか、リタだと、漠然とではあるが……不安だ。

(ごめんね、リタ。ここはレイラに頼むよ)
「むー。じゃあ、次のご主人様は私だからね!」

 俺を奴隷に落としたがるなんて……なんて恐ろしい子!
 三百日後、気をつけなければ……。


「色々お世話になりました」
「次は私がご主人様だからね」
(迷惑ばかりかけて、申し訳ない)
「いえいえ、こちらこそご迷惑をお掛けしました。奴隷が要り様でしたら、お声をお掛け下さい」

 その後、俺が全壊させた奴隷商たちは、店が建つまでの間、タルマの元で働くことになった。タルマのノウハウを吸収し、三人で質の良い奴隷を提供していくらしい。これは売り手にも買い手にも、また奴隷にも良い事だと思うので、何か出来る事があれば手を貸すことにした。
 タルマも最終目標の全奴隷解放に向けて、良い結果になったと思っているに違いない。


 とりあえず、この街での目的は果たしたが、ほぼ全てのお金が、レイラの奴隷解放と俺の奴隷購入代金に消えてしまったため、旅費を稼ぐ必要がある。
 しかし今日は、なけなしのお金で取った宿屋に戻り、長かった一日の休みを取ろう。

 明日から、冒険者ギルドで依頼三昧だ。

 
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