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縁切り猫
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「陽菜、最近あの人の話しないね? 漣くん、だっけ?」
クラスメイトに急に名前を出されて、陽菜は思ったより冷静に答えを返せた。
「あー、なんか、配信辞めたみたいで」
あの後、漣は自分が何をやっていたのかを全て告白する配信をしたらしい。
陽菜はもう彼の配信を追いかけていなかったので、『りいな』から連絡が来て知った。
どうやら、陽菜が聞いていた以上に沢山の女の子からお金を騙し取っていたらしく、それは借金してでもすぐに返すと宣言していた。
言葉通り、陽菜のお金も早々に戻ってきた。
配信の中でしきりに『猫が』だの『これでいいだろう』だのと訳の分からない言葉を繰り返していたようで、残ってた良心が痛んで少し精神的に追い詰められちゃったのかもね、と『りいな』のメッセージは締めくくられていた。
その配信を最後に彼は引退し、配信チャンネルは消え、SNSのアカウントも消えた。
頭が冷えてみれば、こんな手口に騙されるなんて本当に自分が馬鹿だなと思う。今は彼の名前を聞いても心は全然揺るがない。
「なんだか全部夢だったみたい」
あの時会ったエニという青年は本当に居たのかもわからない。
彼とやりとりしたはずのメッセージは消えていて『縁切り猫』という名前のアカウントもどこにもなかった。
待ち合わせしたはずの店の場所も、何故だか思い出せなくなっていた。
●◯●◯
鼻歌を歌いながら上機嫌で石段を上がる。
最後の鳥居を潜ったところで、エニはぐいっと袖を引かれた。
顔を向けると、緋袴を纏った少女が眉根を寄せて立っていた。
黒く艶やかな髪は肩の少し上で切り揃えられ、柔らかな白い肌を浮き立たせている。
血色の良い唇と少しブラウンが揺れる瞳は真っ直ぐにエニを向いていた。
「あ、朱莉ちゃんどうしたの、そんな怖い顔して」
「どうしたのじゃないですよエニシ様、また縁切りに行ってたでしょう」
「行ってたよ。付喪神とはいえ神様だしね、人の役に立つのが務めかなーって」
しれっと返すと、朱莉の目がきゅっと吊り上がる。
「わかってます? ウチは縁結びがウリの神社なんですよ? 縁切りであちこち出歩いてないで、一人でもここに参ってくれた方の縁を結んでくださいよ!」
「そっちは全然気が乗らないんだもん」
頬を膨らませてそう言うエニに、朱莉は深くため息をついて言い募る。
「いいですか? 気が乗る、乗らないじゃないんですよ! 年々参拝客が減ってるんです。ここで派手に縁を結んで評判になってくれないと、ウチ、潰れちゃいます! そうしたら、エニシ様のお小遣いもなくなりますよ!」
「え、それじゃスマホ使えなくなる」
「コーヒー牛乳も飲めませんし、好きな服だって買えません」
「それは困るよー」
身を屈めて、朱莉を下から潤んだ目で見上げるエニ。
「そんな顔してもダメです。そもそも、当神社に伝わる縁結びの招き猫、その付喪神がエニシ様でしょう。それなのに縁切りにばっかり興味を持って……」
エニがじいっと見つめ続けると、とうとう朱莉の方が先に根負けしたのか、長いため息をついて彼の手を取った。
「もう、これっきりにしてくださいね」
エニは朱莉の言葉を聞き流し、今回の一件について自分がどう活躍したかを話し始める。
ダメだといいながらも興味津々で話を聞く朱莉の横顔を見つつ、エニは彼女が好む時代劇のような『勧善懲悪』のお話に仕立てるにはどうすればいいかと考える。
「いつだって、僕は朱莉に喜んで欲しいだけなんだよ」
「何か言いました?」
「朱莉が大好きって」
「はいはい、私も好きですよ」
家族に向けられるものと同じ『好き』の意味をいつか必ず変えてみせる。エニは目を細め、にかりと笑った。
クラスメイトに急に名前を出されて、陽菜は思ったより冷静に答えを返せた。
「あー、なんか、配信辞めたみたいで」
あの後、漣は自分が何をやっていたのかを全て告白する配信をしたらしい。
陽菜はもう彼の配信を追いかけていなかったので、『りいな』から連絡が来て知った。
どうやら、陽菜が聞いていた以上に沢山の女の子からお金を騙し取っていたらしく、それは借金してでもすぐに返すと宣言していた。
言葉通り、陽菜のお金も早々に戻ってきた。
配信の中でしきりに『猫が』だの『これでいいだろう』だのと訳の分からない言葉を繰り返していたようで、残ってた良心が痛んで少し精神的に追い詰められちゃったのかもね、と『りいな』のメッセージは締めくくられていた。
その配信を最後に彼は引退し、配信チャンネルは消え、SNSのアカウントも消えた。
頭が冷えてみれば、こんな手口に騙されるなんて本当に自分が馬鹿だなと思う。今は彼の名前を聞いても心は全然揺るがない。
「なんだか全部夢だったみたい」
あの時会ったエニという青年は本当に居たのかもわからない。
彼とやりとりしたはずのメッセージは消えていて『縁切り猫』という名前のアカウントもどこにもなかった。
待ち合わせしたはずの店の場所も、何故だか思い出せなくなっていた。
●◯●◯
鼻歌を歌いながら上機嫌で石段を上がる。
最後の鳥居を潜ったところで、エニはぐいっと袖を引かれた。
顔を向けると、緋袴を纏った少女が眉根を寄せて立っていた。
黒く艶やかな髪は肩の少し上で切り揃えられ、柔らかな白い肌を浮き立たせている。
血色の良い唇と少しブラウンが揺れる瞳は真っ直ぐにエニを向いていた。
「あ、朱莉ちゃんどうしたの、そんな怖い顔して」
「どうしたのじゃないですよエニシ様、また縁切りに行ってたでしょう」
「行ってたよ。付喪神とはいえ神様だしね、人の役に立つのが務めかなーって」
しれっと返すと、朱莉の目がきゅっと吊り上がる。
「わかってます? ウチは縁結びがウリの神社なんですよ? 縁切りであちこち出歩いてないで、一人でもここに参ってくれた方の縁を結んでくださいよ!」
「そっちは全然気が乗らないんだもん」
頬を膨らませてそう言うエニに、朱莉は深くため息をついて言い募る。
「いいですか? 気が乗る、乗らないじゃないんですよ! 年々参拝客が減ってるんです。ここで派手に縁を結んで評判になってくれないと、ウチ、潰れちゃいます! そうしたら、エニシ様のお小遣いもなくなりますよ!」
「え、それじゃスマホ使えなくなる」
「コーヒー牛乳も飲めませんし、好きな服だって買えません」
「それは困るよー」
身を屈めて、朱莉を下から潤んだ目で見上げるエニ。
「そんな顔してもダメです。そもそも、当神社に伝わる縁結びの招き猫、その付喪神がエニシ様でしょう。それなのに縁切りにばっかり興味を持って……」
エニがじいっと見つめ続けると、とうとう朱莉の方が先に根負けしたのか、長いため息をついて彼の手を取った。
「もう、これっきりにしてくださいね」
エニは朱莉の言葉を聞き流し、今回の一件について自分がどう活躍したかを話し始める。
ダメだといいながらも興味津々で話を聞く朱莉の横顔を見つつ、エニは彼女が好む時代劇のような『勧善懲悪』のお話に仕立てるにはどうすればいいかと考える。
「いつだって、僕は朱莉に喜んで欲しいだけなんだよ」
「何か言いました?」
「朱莉が大好きって」
「はいはい、私も好きですよ」
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