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喫茶マヨイガ
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「ごめんね、これもういらないんだわ」
翌日、朝イチで資料と届けると外村はそう言い、ぽいっとUSBメディアを投げて返した。慌てて椎奈はそれを受け取り、呆然と彼を見上げる。
「うっかりして、もう終わってた方の企画のデータを渡しちゃったらしくてさ。昨日の夜気づいたんだけど俺もう家だったから、まさか徹夜して作ってくるなんて思ってなかったわー。あとはこっちでやるんで、もういいよ」
軽く言われて眩暈がしそうになる。だけど声が震えないように必死に腹に力を込めて笑顔で、
「そうなんですね、お力になれず申し訳ありません」
深く頭を下げて踵を返した。
その日は寝不足も相まって仕事でも些細なミスが続き、せめてコーヒーでも飲んで気持ちを切り替えようと椎奈は給湯室へ足を向ける。
と、廊下の向こうで椎名の上司と外村が話しているのが見えた。思わず近くの角に隠れてしまう。
「森川がデータを取り違えた?」
「そうなんですよね、ギリギリに資料を持って来たと思ったら、中身が全然違うんですよ。……ああ、本人に注意はしなくていいですよ。こっちで間に合わせましたんで」
「それは悪い事をしたね。この間のプレゼンではいい結果が出ていたから、外村くんから学ばせればもっと成長するかと思ったんだが……」
「ああ、あのプレゼンの時も俺がフォローをしてあげてたんですよ。本人には口止めしてたんですけどね」
「なるほど、そういう事だったのか。迷惑をかけたね」
椎奈は飛び出しそうになって、なんとか堪えた。ここで割って入って説明しても信じてもらえないだろう。
ああ、こうやって人の評価を下げて回っていたのかと、噂に聞いていた彼の姿を目の当たりにして吐き気がした。
吐き気はじわじわと涙に変わりそうで……でも悔しいから絶対に泣いてたまるかと思った。
椎奈は慌てて近くの給湯室に駆け込んで座り込む。頑張って積み上げたものを踏み躙られても、証明する手立てがない現実に息が上手くできない。
壁に背を当てて目を閉じる。
「マスターのコーヒーが飲みたいなあ」
お守りみたいで持っていると落ち着くからと、胸ポケットに入れていた砂時計を取り出す。どう傾けてもひっくり返しても不思議と砂は動かない。
それを眺めながらずるずると体が沈み込む。とっくに限界が来てたんだなと椎奈は他人事のように思う。
眠気と失意と、怒りと疲れ。抗えない波に意識が奪われる間際、
「ゆっくり休んで」
そんな声がした気がした。夢でも、それがマスターの声なら嬉しいなと椎奈は思った。
翌日、朝イチで資料と届けると外村はそう言い、ぽいっとUSBメディアを投げて返した。慌てて椎奈はそれを受け取り、呆然と彼を見上げる。
「うっかりして、もう終わってた方の企画のデータを渡しちゃったらしくてさ。昨日の夜気づいたんだけど俺もう家だったから、まさか徹夜して作ってくるなんて思ってなかったわー。あとはこっちでやるんで、もういいよ」
軽く言われて眩暈がしそうになる。だけど声が震えないように必死に腹に力を込めて笑顔で、
「そうなんですね、お力になれず申し訳ありません」
深く頭を下げて踵を返した。
その日は寝不足も相まって仕事でも些細なミスが続き、せめてコーヒーでも飲んで気持ちを切り替えようと椎奈は給湯室へ足を向ける。
と、廊下の向こうで椎名の上司と外村が話しているのが見えた。思わず近くの角に隠れてしまう。
「森川がデータを取り違えた?」
「そうなんですよね、ギリギリに資料を持って来たと思ったら、中身が全然違うんですよ。……ああ、本人に注意はしなくていいですよ。こっちで間に合わせましたんで」
「それは悪い事をしたね。この間のプレゼンではいい結果が出ていたから、外村くんから学ばせればもっと成長するかと思ったんだが……」
「ああ、あのプレゼンの時も俺がフォローをしてあげてたんですよ。本人には口止めしてたんですけどね」
「なるほど、そういう事だったのか。迷惑をかけたね」
椎奈は飛び出しそうになって、なんとか堪えた。ここで割って入って説明しても信じてもらえないだろう。
ああ、こうやって人の評価を下げて回っていたのかと、噂に聞いていた彼の姿を目の当たりにして吐き気がした。
吐き気はじわじわと涙に変わりそうで……でも悔しいから絶対に泣いてたまるかと思った。
椎奈は慌てて近くの給湯室に駆け込んで座り込む。頑張って積み上げたものを踏み躙られても、証明する手立てがない現実に息が上手くできない。
壁に背を当てて目を閉じる。
「マスターのコーヒーが飲みたいなあ」
お守りみたいで持っていると落ち着くからと、胸ポケットに入れていた砂時計を取り出す。どう傾けてもひっくり返しても不思議と砂は動かない。
それを眺めながらずるずると体が沈み込む。とっくに限界が来てたんだなと椎奈は他人事のように思う。
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「ゆっくり休んで」
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