【完結】喫茶マヨイガの縁切り猫

オトカヨル

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夜歩くモノ

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「結構前にあんたを街で見かけたんだ。その時、あんまりにも清浄に保たれている血の持ち主なんで気になってよく良く見てみたら、神が直々に魂にマーキングしてるじゃないか。それなら綺麗な血を持ってるに決まってるよね。生半可な穢れは近付けもしないだろうし」
「マーキング?」
「そう、『神のモノ』っていう印だよ」
 神様と言われて真っ先に思い浮かぶのは付喪神である『エニシ』。

「あんたを守ってるあの付喪神がつけたんだろうけどさ、随分と大事にされてるもんだ」
 こんな状況なのに、朱莉はその言葉に胸が暖かくなる。
 家族として大事に守ってくれているだけかもしれないけど、それでも嬉しくて。
 だけど、すぐに気を取り直して質問を投げた。
「エニシ様の事、本当は知ってたの?」
 夜木は素直に頷く。

「俺はさ、結城を美味しくいただくためにどうすればいいかを考えて、調べて。その中であの付喪神の事も知ったんだ。幸い知り合いが繋がりを持ってたから色々教えてくれた。SNSで『縁切り猫』って名乗ってる事も、切りたい縁がある相手の相談に乗ってるってことも。だからそれを利用してあの女に呼び出させたんだよ。……今日見たあの女は俺が血を吸った相手でね、少し操れるからさ」

 得意げに話し続けていた夜木はそこで言葉を切り、たっぷりと間を開けて一言。
「だから、ここには来ないよ」
 なんとかエニシを呼べないかという朱莉の考えをバッサリと切り捨てる。

「もう十分に説明もしたし。そろそろご褒美をもらってもいいよね?」
「……本当に血を分けるだけなんだよね?」
 覚悟を決めるしかない、そう諦めかけた朱莉に夜木は楽しそうに告げた。

「多少魂は穢れるから神との縁は切れるかもしれないけどね」

 と。

「嫌、やだ、離してよ!」
 途端に朱莉は必死に夜木の手から逃れようと精一杯暴れ出した。
「その顔が見たかったんだ、頑張った甲斐があったよ」
 夜木は軽々と朱莉の両手首を片手で押さえ込んで、空いた手でするりと頬を撫でる。

 気持ち悪さと悔しさに滲む涙が朱莉の視界をゆらゆらと揺らす。
「あいつの事、本当に好きなんだ。すごくいい顔になった。やっぱり美味しい血に仕上げるには絶望がないとね」
「お願いだからやめて……」

 懇願することしかできない朱莉の首元にゆっくりと夜木が顔を埋める。
「いや……」
 ひたり、と冷たい牙が肌に触れる。獲物を甚振るように、少しずつ力が加えられる。
 薄い皮膚がたわみ、今にもぷつりと音を立てて牙が沈んでしまいそう。

 こんな事になるのならちゃんと思いを伝えておけばよかったと、朱莉は強く後悔していた。

 ぎゅっと目を瞑って痛みの訪れを待つ。
 が、いつまで経っても何も起こらない。

 恐る恐る薄く目を開けると、どこか困った顔の夜木が辺りを見回していた。
 朱莉を押さえつけている手も緩んでいる。

 今しかないと、朱莉は全身に力を込めて夜木の体を跳ね除ける。

「あっ!」
 慌てた夜木の声。
 落ちる勢いで床に逃れ、朱莉は必死に部屋の扉に飛びついた。

 ドアが開く音。

 転がるように一歩部屋の外へと踏み出して、朱莉はふわりと鼻先を掠めるコーヒーの香りに顔を上げた。
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