【完結】喫茶マヨイガの縁切り猫

オトカヨル

文字の大きさ
28 / 38
間話 思い、芽吹く

1

しおりを挟む
 朱莉がエニシをしっかりと『家族』ではないと知ったのは中学生になった頃だった。
 そろそろ理解できる頃合いだろうと、祖母が色々と教えてくれたのだ。

 朱莉がこの神社を守る祭神『ムスビ姫』がどこかから拾ってきた子供で、祖母や父母と血のつながりがないこと。
 ……だけど今まで通り家族なのは変わりはないという事。

 畳の上。まだ苦手な正座で祖母と向かい合い、ゆっくりと朱莉は話を聞いた。
 祖母の顔は真剣で、だけど目は優しくて。
 だから、なんだ、今まで通りだって朱莉は思った。

「私はあなたを後継にと思っていますが、もしこれから先、もっと他の道を選びたくなったらその時は遠慮せずに言うように。変に恩義を感じて我慢したりした時にはただでは済ませませんよ」
 ピシャリと跳ね除けるような口調なのに優しい言葉。
 朱莉は思わず笑ってしまう。

「ありがとう、家族なんだから遠慮なんてしないよ。だからお祖母ちゃんも遠慮しないで。手伝いが欲しい時は言ってね。……欲しいものもあるからお小遣いも必要だし」
 そう言うと、『あまり無駄遣いはしないように』と返された。

 血のつながりがないとはいえ、その気安いやり取りが家族なのだという実感になって朱莉を満たしてくれた。
 だけど、

「あれ? じゃあエニシ様は? エニシ様も家族だよね?」
「あの方はこの神社の祭神ムスビ姫の使い、縁結びのご利益があると言われ、この神社に伝わってきた招き猫が長い年月を経て神霊を宿した付喪神」
「神様ってこと?」
「そうです」

 朱莉の脳裏に、エニシの姿が過ぎる。
 寂しい時にはそばにいてくれて、授業参観だってきてくれて、運動会も他の父母を押し除ける勢いで応援に来てくれて。
 誰よりも近しい家族だと思っていた。

 混乱している様子の朱莉を見て、祖母はしばらく目を閉じて何か悩んでいるようだった。
「どうしたの、お祖母ちゃん?」
「あなたはエニシ様の事をどう思っていますか?」
「えーっと、大好きなお兄ちゃん、かな?」
 朱莉の答えに祖母が、あからさまにほっとしたような長い息を吐く。
 その様子を見ながら朱莉は何かを思い出しかけていた。

 誰かが同じような事を朱莉に聞いてきたような気がする。

「覚えておいてくださいね、朱莉には選ぶ権利がありますから」
「選ぶ権利?」
「そう、未来を選ぶ権利です。忘れないように」
「なんだかよくわからないけど、覚えておくね」

 にこり笑ってみせると、祖母は安心したのかめずらしく頬を緩ませ、笑顔を返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

処理中です...