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マヨイガの水鏡
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「あの、エニシ様はいつもここでどんな感じなんですか?」
こんな機会はもう無いかもしれない、朱莉は思い切ってそう聞いてみる。
その問いから何かを察したのか、マスターは小さく笑って答えてくれた。
「そうですね、他のお客様がいない時のエニさんは、あなたの話ばかりしていますよ」
「私の話?」
「最初の頃こそ、子育て日記のような感じでしたけど最近は」
気になる所で話を切って、それからマスターは口の前に人差し指を立て、『私が話したというのは、内緒にしてくださいね』と前置きをする。
朱莉が何度も頷くと、目を細めて続きを話してくれた。
「あなたがどれだけ可愛らしいかを、話してくださいます」
ぶわりと朱莉は頬を染めたが、その前の『子育て』という言葉を思い出して肩を落とす。
「それはお父さん目線でって事ですよね」
「どうでしょうか、私の目から見れば違うように見えますが。でもその辺りは本人に聞くのが一番だと思いますよ」
朱莉は力無く首を振った。
「きっと聞きたい答えは返ってこないんです。仕えてる神様に与えられたから可愛がってくれているだけだって、ちゃんとわかってるんです」
朱莉の言葉にマスターは驚いたように目を瞬き、少し考えてから空いたカップに琥珀色のコーヒーを注いだ。
「ごめんなさい私、コーヒーはそのままじゃ飲めなくて」
申し訳なさそうに言う朱莉に穏やかな笑みを返し、マスターはカップに満たされたコーヒーを手で示した。
カップの中でゆらゆらと揺れる水面をじっと見ていると、そこにコーヒーに落とされたミルクみたいに白い何かが動いている。
「何が見えますか?」
「白い猫が」
だんだんと見えて来たのは見慣れた朱莉の部屋の真ん中に座っている、艶のある白い毛並みの猫。
部屋の家具と比較すると、どうやら随分と大きな猫のようだった。
窮屈そうにベッドと机の間に体を納め、その前足の下に毛足の長い黒い犬を押さえ込んでいる。
犬はじたばたと暴れている様子だが、猫の前足はびくともしない。
猫は大きな口を開けて金色の瞳をぎらりと獰猛に光らせている。
「それはあなたが本当に見たいものを見せてくれる水鏡。安定して来たら声も聞こえると思いますよ」
そうマスターが言った途端に、朱莉の耳に聞き慣れた声が飛び込んでいた。
『お前、朱莉に何をした』
地を這うように低く、脅しつける声。それはエニシのものに他ならなかった。
こんな機会はもう無いかもしれない、朱莉は思い切ってそう聞いてみる。
その問いから何かを察したのか、マスターは小さく笑って答えてくれた。
「そうですね、他のお客様がいない時のエニさんは、あなたの話ばかりしていますよ」
「私の話?」
「最初の頃こそ、子育て日記のような感じでしたけど最近は」
気になる所で話を切って、それからマスターは口の前に人差し指を立て、『私が話したというのは、内緒にしてくださいね』と前置きをする。
朱莉が何度も頷くと、目を細めて続きを話してくれた。
「あなたがどれだけ可愛らしいかを、話してくださいます」
ぶわりと朱莉は頬を染めたが、その前の『子育て』という言葉を思い出して肩を落とす。
「それはお父さん目線でって事ですよね」
「どうでしょうか、私の目から見れば違うように見えますが。でもその辺りは本人に聞くのが一番だと思いますよ」
朱莉は力無く首を振った。
「きっと聞きたい答えは返ってこないんです。仕えてる神様に与えられたから可愛がってくれているだけだって、ちゃんとわかってるんです」
朱莉の言葉にマスターは驚いたように目を瞬き、少し考えてから空いたカップに琥珀色のコーヒーを注いだ。
「ごめんなさい私、コーヒーはそのままじゃ飲めなくて」
申し訳なさそうに言う朱莉に穏やかな笑みを返し、マスターはカップに満たされたコーヒーを手で示した。
カップの中でゆらゆらと揺れる水面をじっと見ていると、そこにコーヒーに落とされたミルクみたいに白い何かが動いている。
「何が見えますか?」
「白い猫が」
だんだんと見えて来たのは見慣れた朱莉の部屋の真ん中に座っている、艶のある白い毛並みの猫。
部屋の家具と比較すると、どうやら随分と大きな猫のようだった。
窮屈そうにベッドと机の間に体を納め、その前足の下に毛足の長い黒い犬を押さえ込んでいる。
犬はじたばたと暴れている様子だが、猫の前足はびくともしない。
猫は大きな口を開けて金色の瞳をぎらりと獰猛に光らせている。
「それはあなたが本当に見たいものを見せてくれる水鏡。安定して来たら声も聞こえると思いますよ」
そうマスターが言った途端に、朱莉の耳に聞き慣れた声が飛び込んでいた。
『お前、朱莉に何をした』
地を這うように低く、脅しつける声。それはエニシのものに他ならなかった。
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