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マヨイガの水鏡
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「だって勿体ないじゃないか、望めばあの子はあんたの花嫁になるんだろ? 神様がお膳立てしてくれたのに、あんただってあの子を大事に思ってるのに!」
エニは怒りに燃える瞳で、自分の前脚の下でキャンキャンと吠えている夜木を見下ろしていた。
「大事に思ってるからこそ、僕は朱莉に選んで欲しいんだよ」
今にも踏みつけてしまいたい気持ちを抑えてエニは告げる。
「お前もわかるだろう、僕らが人と同じ時を生きたいと願った時、どちらかが生き方を変える必要がある。もし僕が朱莉を花嫁として迎えるなら、あの子は人として関わって来た全ての人との縁を捨てることになるんだ。それは相当な覚悟がいる事。そうだろ?」
「それはそうだけど、あんたはいいのか? もたもたしていたらあの子を誰かに取られる事だってあるだろ? 純潔を失えば神の花嫁としての資格はなくなるって……」
「そんな事まで誰から聞いたんだか」
エニは前脚を夜木の上から退かし、身体を起こすのを待ってから静かな声で続ける。
「いいと思ってるわけがないよ」
「じゃあ!」
「……僕がどれだけ我慢していると。最初に腕の中に収まった時は誰とも縁の繋がっていないあの子から、やがてか細くて頼りない縁の糸が僕と繋がった。その瞬間からどれだけ大事で愛おしくてかけがえがないと思っているか」
一気にそう捲し立て、エニはぐるる、と一つ唸った。
「他の誰かに渡すなんて想像したくも無い。それでも僕は我慢してるんだよ。大事だから待てる。……僕を望んでくれるのが十年後でも二十年後でも構わないって本気でそう思ってる。だから余計なお世話なんだよ」
もう一度、エニはこつんと爪で夜木を小突くと大きく一つ身震いをして人の形に戻った。
夜木もそれに倣って元の姿になり、立ち上がる。
「大体、人の恋路に自分を投影してアレコレ世話を焼く前に、相手の事をちゃんと見るべきだよね」
エニは羽織っていたジャケットからスマートフォンを取り出すと、画面を夜木に突きつけた。
薄暗い中で光るそこには、エニに縁切りを頼んできた梨花の顔が大きく映し出されていた。
『夜木くん!』
「梨花!?」
夜木は次の言葉を見つけられず、画面とエニに視線を行ったり来たりさせる。
『勝手に身を引こうとするとか、馬鹿なんじゃ無いの!』
「なんで知って」
『……くっつけたい二人が居るから協力して欲しいって言われたから、見えもしないアカウント宛に連絡して、そこの縁切り猫さんを家まで連れて行くのには成功したの。ある程度足止めできればそれでいいからって言われてたし、それくらいならって。だけど、色々話してるウチに嘘だってバレちゃって。そこで夜木くんの話したら、もしかしたら夜木くんとの縁を切らせるつもりもあるんじゃないかって言われて……。それ、当たってたんだ』
悲しそうに顔を伏せる梨花。夜木は焦って口を開く。
「いや、だって俺……、学生だし、吸血鬼だし、一緒にいたら絶対苦労させるし」
「それで僕に縁を切らせようとしたんだろうけど、悪いね。僕には縁を結ぶ力はあっても『切る』力はないんだよね」
その言葉に夜木が『はあ!?』と驚きの声を上げる。
「縁の良し悪しはわかるから、切るべき悪縁が繋がってるなって時は手を回して縁が切れるように仕向けてるだけなんだよ。割と実力行使になっちゃうけどね」
そう言い、 エニはにかりと笑った。
エニは怒りに燃える瞳で、自分の前脚の下でキャンキャンと吠えている夜木を見下ろしていた。
「大事に思ってるからこそ、僕は朱莉に選んで欲しいんだよ」
今にも踏みつけてしまいたい気持ちを抑えてエニは告げる。
「お前もわかるだろう、僕らが人と同じ時を生きたいと願った時、どちらかが生き方を変える必要がある。もし僕が朱莉を花嫁として迎えるなら、あの子は人として関わって来た全ての人との縁を捨てることになるんだ。それは相当な覚悟がいる事。そうだろ?」
「それはそうだけど、あんたはいいのか? もたもたしていたらあの子を誰かに取られる事だってあるだろ? 純潔を失えば神の花嫁としての資格はなくなるって……」
「そんな事まで誰から聞いたんだか」
エニは前脚を夜木の上から退かし、身体を起こすのを待ってから静かな声で続ける。
「いいと思ってるわけがないよ」
「じゃあ!」
「……僕がどれだけ我慢していると。最初に腕の中に収まった時は誰とも縁の繋がっていないあの子から、やがてか細くて頼りない縁の糸が僕と繋がった。その瞬間からどれだけ大事で愛おしくてかけがえがないと思っているか」
一気にそう捲し立て、エニはぐるる、と一つ唸った。
「他の誰かに渡すなんて想像したくも無い。それでも僕は我慢してるんだよ。大事だから待てる。……僕を望んでくれるのが十年後でも二十年後でも構わないって本気でそう思ってる。だから余計なお世話なんだよ」
もう一度、エニはこつんと爪で夜木を小突くと大きく一つ身震いをして人の形に戻った。
夜木もそれに倣って元の姿になり、立ち上がる。
「大体、人の恋路に自分を投影してアレコレ世話を焼く前に、相手の事をちゃんと見るべきだよね」
エニは羽織っていたジャケットからスマートフォンを取り出すと、画面を夜木に突きつけた。
薄暗い中で光るそこには、エニに縁切りを頼んできた梨花の顔が大きく映し出されていた。
『夜木くん!』
「梨花!?」
夜木は次の言葉を見つけられず、画面とエニに視線を行ったり来たりさせる。
『勝手に身を引こうとするとか、馬鹿なんじゃ無いの!』
「なんで知って」
『……くっつけたい二人が居るから協力して欲しいって言われたから、見えもしないアカウント宛に連絡して、そこの縁切り猫さんを家まで連れて行くのには成功したの。ある程度足止めできればそれでいいからって言われてたし、それくらいならって。だけど、色々話してるウチに嘘だってバレちゃって。そこで夜木くんの話したら、もしかしたら夜木くんとの縁を切らせるつもりもあるんじゃないかって言われて……。それ、当たってたんだ』
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「いや、だって俺……、学生だし、吸血鬼だし、一緒にいたら絶対苦労させるし」
「それで僕に縁を切らせようとしたんだろうけど、悪いね。僕には縁を結ぶ力はあっても『切る』力はないんだよね」
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「縁の良し悪しはわかるから、切るべき悪縁が繋がってるなって時は手を回して縁が切れるように仕向けてるだけなんだよ。割と実力行使になっちゃうけどね」
そう言い、 エニはにかりと笑った。
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