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第一章 真っ暗聖女、結婚する
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「ごめんね、びっくりしたでしょ?」
そう言い微笑みかけてくれた青年の琥珀の瞳からは、こちらの気持ちを和らげようという気遣いが感じられる。でも、赤金の髪が彩りを添える整った顔が近くにあるのは逆効果で、混乱と合わさり更に私の鼓動は速くなるばかり。ちなみに、お名前はルルタ・シウナクシア。先ほどのサインで判明した。
「急なお話ではありましたが、大変名誉な事だと思っております、ルルタ殿下」
他に返し様も無い、こちらに否が言えるわけもないのだから。その言葉の外の意図を汲んでくれたのか苦笑して、ルルタは口を開く。
「そう言ってくれると嬉しいよ聖女メイナ。できればこれからは、殿下はやめてぜひルルと」
「はい、ルル……様。では私のこともメイとお呼びください」
言われるままぎこちなく名を呼んでみる。ちょっと舌が絡れそうだ。
「楽にして……というのは難しいよね」
そう言ってルルタは天を仰ぐ。つられて私も同じ様に上を向いた。そこには、国の名前の由来でもある、守護神たる美しい女神シウナクシアが描かれていた。
これは一体どんな天の采配でしょうか女神様、そう私は心の中で嘆く。
つい先ほど初めてルルタと対面し、言葉を交わす間も無く王に急かされながら結婚宣誓書にサインをし、呆気に取られている間に新婚の王族が暮らす為の別棟へ輿に乗せて運ばれて……今やっとまともに二人で話ができたのだ。
正直に言えば、私はまだ混乱の真っ只中だったし、なんなら色とりどりの花弁が上品に散りばめられた広い寝台に二人して腰掛けていても、夢なんじゃないかと思っている。ぎゅっと手の甲を抓ってみたら痛かったけど。
この流れだと、まさか、この後は初夜ということではないだろうか。
私の混乱している様子に気づいたのか、ルルタが少し距離を取る。
「怖がらなくていいよ、王命には逆らえないから結婚は受け入れてもらうしかない。でも、僕は君の在り方を変えたいとは思っていないんだ」
「在り方、ですか?」
首を傾げる私にルルタは頷く。
「そう。僕は聖女である君の在り方を尊重し、君に邪な気持ちをもって触れる事は無いと誓うよ。安心して欲しい」
自分の胸に拳を当てて真剣な顔で告げるルルタに、私は驚いた。
女神シウナクシアを祖先に持つ特別な一族……それが王族であり、女神が百年に一度、自分の目として下界に遣わすとされる聖女の血を王家に取り込むことで、王位の正統性を広く民に知らしめるというのが今回の結婚の思惑だろうなと思っていたから。
まだ生まれても居ない私たちの子が、第一王子の子の婚約者として内定して居てもおかしくないのに。
なのに『白い結婚』を誓う、と。
でも私はその言葉に、なるほど、とあっさり納得した。
だってその誓いは、私を傷つけない様に言葉を選んでくれた結果だと思ったから。
『顔も見えないような女に欲を抱くのは無理』なんて言葉をぶつけられるより、余程に優しい。
「ルル様の誓い、有り難くお受けいたします」
女神に感謝を捧げるのと同じ様に手を組み合わせそう言うと、ルルタは満足そうに頷いた。
「これから、よろしくねメイ」
「はい、ルル様」
二人微笑む、和やかな空気が部屋に満ちた。
そう言い微笑みかけてくれた青年の琥珀の瞳からは、こちらの気持ちを和らげようという気遣いが感じられる。でも、赤金の髪が彩りを添える整った顔が近くにあるのは逆効果で、混乱と合わさり更に私の鼓動は速くなるばかり。ちなみに、お名前はルルタ・シウナクシア。先ほどのサインで判明した。
「急なお話ではありましたが、大変名誉な事だと思っております、ルルタ殿下」
他に返し様も無い、こちらに否が言えるわけもないのだから。その言葉の外の意図を汲んでくれたのか苦笑して、ルルタは口を開く。
「そう言ってくれると嬉しいよ聖女メイナ。できればこれからは、殿下はやめてぜひルルと」
「はい、ルル……様。では私のこともメイとお呼びください」
言われるままぎこちなく名を呼んでみる。ちょっと舌が絡れそうだ。
「楽にして……というのは難しいよね」
そう言ってルルタは天を仰ぐ。つられて私も同じ様に上を向いた。そこには、国の名前の由来でもある、守護神たる美しい女神シウナクシアが描かれていた。
これは一体どんな天の采配でしょうか女神様、そう私は心の中で嘆く。
つい先ほど初めてルルタと対面し、言葉を交わす間も無く王に急かされながら結婚宣誓書にサインをし、呆気に取られている間に新婚の王族が暮らす為の別棟へ輿に乗せて運ばれて……今やっとまともに二人で話ができたのだ。
正直に言えば、私はまだ混乱の真っ只中だったし、なんなら色とりどりの花弁が上品に散りばめられた広い寝台に二人して腰掛けていても、夢なんじゃないかと思っている。ぎゅっと手の甲を抓ってみたら痛かったけど。
この流れだと、まさか、この後は初夜ということではないだろうか。
私の混乱している様子に気づいたのか、ルルタが少し距離を取る。
「怖がらなくていいよ、王命には逆らえないから結婚は受け入れてもらうしかない。でも、僕は君の在り方を変えたいとは思っていないんだ」
「在り方、ですか?」
首を傾げる私にルルタは頷く。
「そう。僕は聖女である君の在り方を尊重し、君に邪な気持ちをもって触れる事は無いと誓うよ。安心して欲しい」
自分の胸に拳を当てて真剣な顔で告げるルルタに、私は驚いた。
女神シウナクシアを祖先に持つ特別な一族……それが王族であり、女神が百年に一度、自分の目として下界に遣わすとされる聖女の血を王家に取り込むことで、王位の正統性を広く民に知らしめるというのが今回の結婚の思惑だろうなと思っていたから。
まだ生まれても居ない私たちの子が、第一王子の子の婚約者として内定して居てもおかしくないのに。
なのに『白い結婚』を誓う、と。
でも私はその言葉に、なるほど、とあっさり納得した。
だってその誓いは、私を傷つけない様に言葉を選んでくれた結果だと思ったから。
『顔も見えないような女に欲を抱くのは無理』なんて言葉をぶつけられるより、余程に優しい。
「ルル様の誓い、有り難くお受けいたします」
女神に感謝を捧げるのと同じ様に手を組み合わせそう言うと、ルルタは満足そうに頷いた。
「これから、よろしくねメイ」
「はい、ルル様」
二人微笑む、和やかな空気が部屋に満ちた。
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