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第十章 真っ暗聖女、二人の王子
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「メイ、メイナ?」
戻って来たルルタは、メイナが待っているはずの場所に姿を見つけきれず、戸惑う。
「メイ? 何処にいるの?」
繰り返し呼んでも答えはない。ルルタはその場に膝を着くと、地面の足跡を確認する。
「メイ以外の足跡が二つ、いや三つかな」
ここに来ていることは知られないように動いた筈だった。地図については、カルス、ラウミには見られないようにとケイナーンにも頼んだというのに。
唇を噛む。だけど今はそこについて考えている場合じゃない。
今はメイナを取り戻す事が最優先。
ルルタは異常がないかを確認してから、残されて居た馬に飛び乗った。
「メイに少しでも傷をつけていたら、一生後悔させてあげるよ」
手綱を強く握り、ルルタは低い声で呟く。
声に呼応する様に、小さく火花が散る。
馬が怯えたように嘶くが、ルルタはかまわず踵で前進せよと合図を送る。
ルルタは馬上で体を低くし、出来るだけ速度を出した。走りながら頭の中で地図を開く。
どこに向かうにしても、急ぐのなら転移門を使うだろう。それなら一番近い設置場所はわかる。
「待ってて、メイナ!」
そう呼ぶ声は風に攫われて、あっという間に遠くに消えた。
目が覚めたら、真っ暗な部屋の中だった。
暗闇で、『聖女の証』だけがチカチカと小さく光っている。
手で探ってみると、どうも固い木の床へ直に寝かされていたみたい。
でも、自分がどうしてこんな所に居るのかを思い出せなくて、私はぐるりと辺りを見回す。
真っ暗だ。……それにしても自分が真っ暗だからって、暗いところで物が見えるとかそういう特典はないんだなあとぼんやり考えてから、急に頭がはっきりして、自分に何が起こったかを思い出した。
「そうだ! 人攫いに遭って!」
慌てて自分の状況を確認する。拘束されているわけでもなく、そこはほっとした。
でも、なんで攫われたんだろう? 相手は盗賊の類には見えなかったし、何よりルルタを知っていた。
思い返せば、手入れの行き届いた美しい金の髪といい、人に命令を下すことに慣れていた様子といい、ルルタを敬称も無しで呼んだ所といい……。
「もしかしてとんでもなく偉い人、とか」
「……さっきも思っていたが、お前は自国の王太子の顔も知らないのか?」
光と共に、声が降ってきた。
振り返ると扉の隙間から、外の光と先ほどの青年が男性を一人連れて入ってくる。
私は、言われた言葉が一瞬理解できず、目を何度か瞬いた。
「王太子、殿下なのですか?」
「そうだ」
鷹揚にそう答え、青年はゆっくりと歩み寄ってくると私を見下ろす。
「本当にお前が聖女なのか?」
私が返事に詰まっていると、王太子だという青年は私の手を強引に掴んで無理矢理に立ち上がらせると、小さく光る『聖女の証』を確認する。
「証らしきものはあるが、何かの間違いではないのか? 聖女は光に愛される筈だろう。なんだこの闇の凝ったような姿は」
「残念ながら、イウリス殿下。その聖女は本物にございます」
後方に控える男性がそう言う。
二人して酷い言い様だけど、私は言い返す言葉が見つからなかった。もやもやする気持ちを噛み殺しながら、せめて後方の男性を睨みつける。
男性は神官のような衣服を身につけているが、ちょっとこの国とは形式が違った。
神殿で学んだ時に見たことがある、海の向こう、隣国の神官服ではなかっただろうか。
「私を一体どうするつもりなんですか?」
王太子妃と共に視察に出ていると聞いていたイウリスと隣国の神官、そしてここにいる私自身。
関係性がわからず問いかけるしかない私に、王太子イウリスはぶっきらぼうに一言。
「お前を隣国に引き渡す」
そう答えた。
戻って来たルルタは、メイナが待っているはずの場所に姿を見つけきれず、戸惑う。
「メイ? 何処にいるの?」
繰り返し呼んでも答えはない。ルルタはその場に膝を着くと、地面の足跡を確認する。
「メイ以外の足跡が二つ、いや三つかな」
ここに来ていることは知られないように動いた筈だった。地図については、カルス、ラウミには見られないようにとケイナーンにも頼んだというのに。
唇を噛む。だけど今はそこについて考えている場合じゃない。
今はメイナを取り戻す事が最優先。
ルルタは異常がないかを確認してから、残されて居た馬に飛び乗った。
「メイに少しでも傷をつけていたら、一生後悔させてあげるよ」
手綱を強く握り、ルルタは低い声で呟く。
声に呼応する様に、小さく火花が散る。
馬が怯えたように嘶くが、ルルタはかまわず踵で前進せよと合図を送る。
ルルタは馬上で体を低くし、出来るだけ速度を出した。走りながら頭の中で地図を開く。
どこに向かうにしても、急ぐのなら転移門を使うだろう。それなら一番近い設置場所はわかる。
「待ってて、メイナ!」
そう呼ぶ声は風に攫われて、あっという間に遠くに消えた。
目が覚めたら、真っ暗な部屋の中だった。
暗闇で、『聖女の証』だけがチカチカと小さく光っている。
手で探ってみると、どうも固い木の床へ直に寝かされていたみたい。
でも、自分がどうしてこんな所に居るのかを思い出せなくて、私はぐるりと辺りを見回す。
真っ暗だ。……それにしても自分が真っ暗だからって、暗いところで物が見えるとかそういう特典はないんだなあとぼんやり考えてから、急に頭がはっきりして、自分に何が起こったかを思い出した。
「そうだ! 人攫いに遭って!」
慌てて自分の状況を確認する。拘束されているわけでもなく、そこはほっとした。
でも、なんで攫われたんだろう? 相手は盗賊の類には見えなかったし、何よりルルタを知っていた。
思い返せば、手入れの行き届いた美しい金の髪といい、人に命令を下すことに慣れていた様子といい、ルルタを敬称も無しで呼んだ所といい……。
「もしかしてとんでもなく偉い人、とか」
「……さっきも思っていたが、お前は自国の王太子の顔も知らないのか?」
光と共に、声が降ってきた。
振り返ると扉の隙間から、外の光と先ほどの青年が男性を一人連れて入ってくる。
私は、言われた言葉が一瞬理解できず、目を何度か瞬いた。
「王太子、殿下なのですか?」
「そうだ」
鷹揚にそう答え、青年はゆっくりと歩み寄ってくると私を見下ろす。
「本当にお前が聖女なのか?」
私が返事に詰まっていると、王太子だという青年は私の手を強引に掴んで無理矢理に立ち上がらせると、小さく光る『聖女の証』を確認する。
「証らしきものはあるが、何かの間違いではないのか? 聖女は光に愛される筈だろう。なんだこの闇の凝ったような姿は」
「残念ながら、イウリス殿下。その聖女は本物にございます」
後方に控える男性がそう言う。
二人して酷い言い様だけど、私は言い返す言葉が見つからなかった。もやもやする気持ちを噛み殺しながら、せめて後方の男性を睨みつける。
男性は神官のような衣服を身につけているが、ちょっとこの国とは形式が違った。
神殿で学んだ時に見たことがある、海の向こう、隣国の神官服ではなかっただろうか。
「私を一体どうするつもりなんですか?」
王太子妃と共に視察に出ていると聞いていたイウリスと隣国の神官、そしてここにいる私自身。
関係性がわからず問いかけるしかない私に、王太子イウリスはぶっきらぼうに一言。
「お前を隣国に引き渡す」
そう答えた。
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