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【番外編】君がいたから

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 誰もいないのを幸いと、イウリスは木の根元に膝を抱えて座り込む。

「エウジェは僕の事、嫌いなのかな」
 あの強く美しい子は、自分より弱い相手など眼中にないのかもしれない。
 悲しかった。でもそれ以上に、悔しかった。

 エウジェが離れたくないと思ってくれるだけの魅力がない自分であることが……。

「はあ……」
 イウリスはため息と共に、更に深く顔を伏せる。
 と、次の瞬間、鈍い音が頭上でした。

 イウリスは何が起きたのかを確認する前に、転げる様に走り出す。
 一旦、座っていた場所から離れ、近くの茂みに飛び込んだ。
 極力音を出さない様に移動しながら、座っていた場所をちらりと確認する。

 想像通り、そこには細身の刃が突き刺さっていた。あの時、頭を下げていなければ当たっていた位置だった。

 自分の死を望む者が居る事は知っていた。だからこそのエウジェとの鍛錬でもあったから。

 いざという時、考えるより先に体が動く様にと、同じ様な動作を繰り返し体に叩き込んだ。
 それがきちんと活きた事に安堵しつつも、まだ相手は近くに居る為、気は抜けない。

 息を顰め、少しずつ神殿の入口へ向かう。

 ところが。

「殿下? どこにいらっしゃいますか、殿下!」

 そこにエウジェの声がした。侍従が庭園から姿を消したイウリスに気付き、エウジェにも探す様手伝いを願ったのだろう。
 人が来た事で追い払えればいいが、エウジェを子供と侮ればそちらにまで殺意が向く可能性がある。

 イウリスは咄嗟に茂みを飛び出した。殺意が確実にこちらに向かう様に。

「僕は、ここだ!」
 鋭く叫ぶと、その声に釣られたのか、エウジェと反対側で人の気配が動いた。
 続いて真っ直ぐに刃がイウリスに向かって投擲される。

 それを辛うじて避け切って、イウリスは相手に向かって突進した。
 勝てるとは思っていなかった。それでも、この凶刃をエウジェに向けてなるものかと思った。

 慌てて次の刃に手をかける姿に、飛びかかる。

「うぉおっ!」
 自分を鼓舞するように声を上げ、地面に相手を押さえ込む。
「エウジェ、今のうちに助けを呼んで!」

「殿下!」
 そこに、衛兵達が遅まきながら到着し、イウリスを救い出すと、代わりに男を囲み、拘束した。

 そこまで確認してから、イウリスは情けなくもその場に座り込んだ。

「なんで飛び出したりしたんですか!」

 見上げると、泣きそうな顔のエウジェが居た。
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