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 私は、手早く机と看板を片付けると被っていた衣装を脱ぎ、ハイネックのニットソーとデニムというラフな格好になる。
 そうして少女と一緒にまだ新車の匂いが残るタクシーに乗り込んだ。

「名前は?」
 車内で少女に問われ、私は慌てて手にしていたスマホを置いて、バッグから名刺入れを引っ張り出す。
「サリと申します」
「『あなたの運命、必ず見通します』って、すごい強気」
 それは、肩書きも無いのでキャッチコピーっぽく名前の横に添えた一文。
「嫌いじゃ無い」
 少女は名刺を手に小さく笑う。そんな風に言ってもらえるとなんだか嬉しくなる。
「わたしは、ミク」
「よろしくお願いします、ミクさん」
 真面目な顔で頭を下げる私に、ミクは楽しそうに笑った。


◇◇◇


 タクシーが二人を降ろして走り去る。
 目の前にそびえ立つ壁に、思わず、はーっと声が出た。
「タワマンってやつですね」
 どちらかというと、マンションというよりホテルに見える上品な外観。
「着いて来て」
 内部もホテルっぽい、ワイン色の絨毯じゅうたんが敷かれた内廊下タイプ。
プライバシーを守る為か南と北に分けて数機あるエレベーターの内の一つに乗り込み、ミクは最上階のボタンを押した。
「部屋はここ」
 ミクはエレベーターから出ると、真正面の扉を示す。
 「親はどっちも出張が多くて、明日の夜まで戻らないんだ」
 と言うと扉を開けて私を振り返る。家の中はまだ真っ暗で、その暗闇を背負って私を招くミクの姿には何処か現実味がない。
 和風ホラーの幕開けみたいだと思いながら、
「お邪魔します!」
 私は元気に声をかけて、家へと足を踏み入れた。

 入ってみれば先ほどまでの不穏なイメージはどこへやら、開放的な室内と質の良いインテリアが印象的なおしゃれ空間。
「そこのソファーに座ってて」
 部屋を見回している私に、冷蔵庫を開けながらミクが声をかけてくれる。
 ボトルを2本手にしてこちらへやって来ると、片方を私に差し出した。お礼を言って受け取る。
「夕飯は冷凍でもいい?」
「好き嫌いないので、なんでも大丈夫です」
「家政婦さんが作り置き、冷凍してくれてるから」
 ああ、そういう冷凍。
 市販の冷凍食品を想像していた私は、ミクが冷凍庫から次々フードコンテナを取り出す様子に目を丸くした。
 温めて盛り付けただけで、ちょっとしたレストランのようなメニューがずらり。ミクに促されるまま私は席に着く。
「それじゃあ、遠慮なく」
 私はスープから手を付けることにした。続く綺麗に飾られた温野菜のサラダも美味しい。メインはワインベースのソースで煮込んだお肉。口に入れるとほろりと解ける柔らかさに驚く。
 二人では食べきれない量かもと思ったけど、気がつけば完食していた。
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