【完結】悪役失格 〜どうにも年下騎士の執着から逃げ切れる気がしない〜

オトカヨル

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出会い

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 『怖い』と『そうでもない?』の間で揺れながら彼はこくんと頷いた。それから必死な顔で私を見上げて言う。

「……俺が居たら父さんも母さんも飯食えないんだって、だから氷の森に捨てられた。俺、もう帰る所、ないんだ」

 ぽたぽたと、アレクの大きな目から涙が落ちた。それは彼と私の手を濡らして床に落ちていく。涙で詰まりながらのその言葉に、私はすぐに返事ができなかった。

「俺、なんでもするから! 役に立つから食べないでここに置いてくれよ!」

 そんな風に言われたら、ダメなんて言えるわけがない。 
 そうでなくても、彼を追い出すなんてできないんだけど。

「名前は?」
「……アレクシス」
「アレクシス……」

 予想通りの名前だった。やっぱりこの子が『主人公』の騎士アレクシス。
 ユリアに虐められ、ユリアを倒して氷の魔法を受け継ぎ、最強の騎士になる子。
 どうすればいいんだろう……。私はこの子を虐めるなんて無理だし、でもちゃんと役目を果たさないと元の世界に帰れないし。

 でも、虐めなくてもこの子を最強にできたら、どうだろう? それでちゃんと私を倒してくれたら。
 その考えに、私の中の『優里愛』が、それだ! と飛び上がって手を叩く。
 それだったら、女神様も大筋合ってるからOK!ってなるのでは?

「じゃあ、アレクと呼ぶわ」
 私はテーブルの上の銀のベルを鳴らす。すぐにジョンが姿を現した。
「お呼びですかユリア様」
「この子はアレク、今日からあなたの部下になるわ。ちゃんと綺麗にして、食事を与えて、使えるようにしておいて」
「承知いたしました」

 さすが出来る執事は主人の言葉にノーを言わない。私は自分の思いつきに浮かれながら、でも表情は冷たいままで二人を部屋から見送った。

 二人が部屋を出てから、私は早速自室に戻って『氷の騎士物語』を開く。
 あ、マニュアルは机の引き出しの奥に丁重に放り込みました。

「出会いの所は……」
 本の最初の辺りを捲る。
 最初の章は、氷の城近くの森に、口減らしのためアレクシスが捨てられる所から始まっていた。
 アレクシスは寒さに凍えながら、森の中で唯一見つけた灯りを目指して歩いて歩いて、辿り着いたのがこの城だった、という事のよう。

 お話の通りなら、ユリアはアレクシスを従僕として使えるかもしれないから、と城に迎え入れるが、隙間風が通り抜ける物置小屋に住まわせ、わずかな食糧を与えるだけで朝から晩まで働かせる。

 とんだブラック企業、いやブラック城じゃないか。

 私は唸ると、続きを読もうとした。が、本はそれ以上開かない。もしかして、実際に関わった章までしか読めない?

「ネタバレOKですって言ったのに」

 これじゃあ、先読みして準備ができない。
 あらすじから考えると、この後は城で良いようにこき使われる中でもこっそりと鍛錬を積み、ユリアを倒せるくらい強くなるんだろうけど。

 じゃあそのくらい、強くなるために何をさせればいいの?
 会社で後輩育成するのとは訳が違う。私は首を捻るが全然良い考えが浮かばない。

 明日ジョンにも相談してみようかなと思いながら、とりあえず今日の所は馬鹿みたいに大きなベッドに倒れ込んだ。
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