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成長
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「大丈夫、時間はまだ十分にあるから」
私は、誰かにそう一生懸命に言っていた。
声をかけ続けている相手の背中は丸まり、その顔は段々と俯いていく。
「私も手伝うよ」
「もう、無理です!」
悲鳴みたいな声だった。彼女はそう言うと、椅子を蹴って立ち上がる。
「やってもやっても、修正が返ってくるんですよ! こんなの無理です!」
彼女の手には、提出していた企画案に目一杯の修正指示が入った紙。
それを握りしめて私の目の前を通り過ぎていく。まずい、そう思った。
止めないと、今彼女を止めないと。
一直線に上司の席へ向かう彼女の背中に追いつこうとするのに、どうしても手が届かない。
体が動かない。
そして、何かがぶつかる音と怒号が、部屋に響き渡った。
「待って!」
私は叫んで起き上がった。心臓が跳ねているのを思わず手で押さえる。
「なんで今更あんな夢」
あの夢のワンシーンは、随分前の仕事場での出来事だった。こだわりが強いといえば聞こえがいいけど、企画の内容だけじゃなくて、文言の一つ一つまで細かい修正を入れてくるタイプの上司に振りまわされた挙句、後輩がその上司にキレて殴りかかったのだ。
実際は、近くにいた男性社員がギリギリの所で止めに入ってくれて、なんなら代わりに殴られた上で無かったことにしてくれて、事なきを得た。
私はなんにもできなくて、ただ彼女を見送ってしまった事を確かにすごく後悔していたけど、今更夢にみるほどだったのかなと不思議に思う。
ああ、でももしかしたら、あの時から『誰かを育てる』ことに苦手意識が出来てしまったから、それで夢にみてしまったのかもしれない。
アレクをどうやって『育て』るのか、を考えながら寝入ったから……?
私は首を傾げる。なんとなく、夢の中に他の引っ掛かることがあったような気がして。
でもどうしたって夢は夢。内容を思い出そうとすればするほど、煙のようにするりと記憶から消えていく。
しょうがない、わからない事は一旦置いておこう! 私はそう決めると立ち上がる。
今日もユリアとしての一日が始まる。
私は、誰かにそう一生懸命に言っていた。
声をかけ続けている相手の背中は丸まり、その顔は段々と俯いていく。
「私も手伝うよ」
「もう、無理です!」
悲鳴みたいな声だった。彼女はそう言うと、椅子を蹴って立ち上がる。
「やってもやっても、修正が返ってくるんですよ! こんなの無理です!」
彼女の手には、提出していた企画案に目一杯の修正指示が入った紙。
それを握りしめて私の目の前を通り過ぎていく。まずい、そう思った。
止めないと、今彼女を止めないと。
一直線に上司の席へ向かう彼女の背中に追いつこうとするのに、どうしても手が届かない。
体が動かない。
そして、何かがぶつかる音と怒号が、部屋に響き渡った。
「待って!」
私は叫んで起き上がった。心臓が跳ねているのを思わず手で押さえる。
「なんで今更あんな夢」
あの夢のワンシーンは、随分前の仕事場での出来事だった。こだわりが強いといえば聞こえがいいけど、企画の内容だけじゃなくて、文言の一つ一つまで細かい修正を入れてくるタイプの上司に振りまわされた挙句、後輩がその上司にキレて殴りかかったのだ。
実際は、近くにいた男性社員がギリギリの所で止めに入ってくれて、なんなら代わりに殴られた上で無かったことにしてくれて、事なきを得た。
私はなんにもできなくて、ただ彼女を見送ってしまった事を確かにすごく後悔していたけど、今更夢にみるほどだったのかなと不思議に思う。
ああ、でももしかしたら、あの時から『誰かを育てる』ことに苦手意識が出来てしまったから、それで夢にみてしまったのかもしれない。
アレクをどうやって『育て』るのか、を考えながら寝入ったから……?
私は首を傾げる。なんとなく、夢の中に他の引っ掛かることがあったような気がして。
でもどうしたって夢は夢。内容を思い出そうとすればするほど、煙のようにするりと記憶から消えていく。
しょうがない、わからない事は一旦置いておこう! 私はそう決めると立ち上がる。
今日もユリアとしての一日が始まる。
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