上 下
41 / 49
新たな役割

2

しおりを挟む
 女神の声に合わせて画像がぴたりと止まり、前のめりになっていた私は思わずその場でたたらを踏む。
「え! え? アレク、なんで」
「なんでじゃないんですよ! アレク自身で止めを差しても、そうじゃなくても、アレクがあなたを慕っている限り、やっぱり世界が壊れちゃうんですよ~~~!」
「やっぱりって、どういう事ですか?」
「やっぱりは、やっぱりですよ。アレクは何度もああして世界を壊そうとしたんです」
 女神は眉根を揉みながらため息をつく。

「え? だってあの世界は神様達が小説の世界観を再現したくて作った世界だ、って」
「嘘ですよ、そんなの。あの世界は私が管理している世界のうちの一つです」
 あっさり言われて、私は言葉を失う。
「困ったことに、何度繰り返してもあの世界は壊れる流れに辿り着いてしまうんですよね」
 理解が追いつかない。私は、その言葉こそ嘘だって言ってほしくて、なんとか突破口を探す。

「じゃ、じゃあ、あの本『氷の騎士物語』は?」
「私がシミュレートした選択肢をもとにした、世界を壊さない様に進めるための指針です。あの流れでいけば、世界を守れるはずだったのに」
「え? でもあの時、本は回収しようとしてたのに」
 ネタバレになるからって、そう言って……。
「そうすれば、あなたはあの本に興味をひかれ、持っていこうとするでしょう? 人間は、自分が選んだ物を信じる傾向がありますからね。『自分で選んで持って行った、だから中身は信じるに値する』そう思ってもらいたかったんですよ」
 そこは、女神の誘導にまんまと乗ってしまった。でも、あの本は過去のページしか読むことができなかったけど?

 私はその疑問を投げかけようとする、でもその前に女神が口を開いた。

「ユリアの魔力をアレクシスが受け取らなければ聖剣は本来の力を発揮せず『魔王』を倒せないから世界は滅びる、かと言って、魔力をアレクシスが受け取ることでユリアが死んでしまえば、さっき見たようにアレクシスまでもが『魔王』になり世界を滅ぼすスピードはあっという間に倍速に」
「え?」
 とんでもないことを聞いた気がする。
「だからですね、アレクはあなたが死んじゃったら世界ごとまるっと否定しちゃうんですよ!」

 いつかみた夢で聞いた、アレクの声を思い出す。
 『……こんな事でしか守れない世界なら……いっそ俺が全部……』

「で、壊す直前でこうやってストップをかけて、戻してもう一度っていうのを何回もやってるんです」
「何回も?」
「そう。世界は戻る。でも、記憶は引き継がない。だからあなたも覚えていないでしょう? あなたは何回もアレクを育てて送り出してるんです」
「そんな……」

 予知夢だと思ったあの夢は、夢じゃなくて、戻る前の世界であった出来事だったとしたら。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

国を追い出された令嬢は帝国で拾われる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:3,031

奇跡のパン職人:愛と勇気のレシピ

O.K
エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

赤獅子と可憐な花嫁

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:60

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:18,133pt お気に入り:174

処理中です...