【完結】悪役失格 〜どうにも年下騎士の執着から逃げ切れる気がしない〜

オトカヨル

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新たな役割

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 あ、ここ、いつか来たことのある空間だ。私はゆっくりと辺りを見回す。
 
 とうとう戻ってきたんだと思うと感慨深い。
「約束より全然早いし、お話がめちゃくちゃになっちゃったし~~~!」
「なったものは、仕方ないでしょう」
 あっさり言い切ると私は顔を上げる。いつか出会ったあの女神がそこに居た。

「そんなんじゃ悪役失格!」

 キンキンと耳につく声で宣告される。
 そんなことを言われても、だって私が望んだ役ではないんだし。
「それは、女神様の配役ミスでは?」
 この発言が不興を買うなんて事はわかりきっていたけど、それでも一言文句を言わずにはいられなかった。

「だってちゃんとマニュアルも渡したし! たったの十年、マニュアル通りにあの子を虐めてくれればよかっただけなのに!」
 美術品のように整った顔を歪めて、女神は『コツコツ続けてしっかりヘイトを育てる! 悪役マニュアル』を振り回した。

「そう言うなら、女神様ならできたんですか? あの子に、ここに書いてあるような事を」
 私の言葉に、女神はぐっと言葉に詰まる。
「……そんな事できるわけないじゃない」
 尻窄みに小さくなる女神の声。言いながら、マニュアルに沿って『虐め』ている所を想像したのか涙目になる。
「でも、お願いしたのに~!」
 とうとう泣き出した女神に胸を貸し、私はため息をついた。
「仕方ないじゃないですか、私の勝手な望みより、あの子の方が大切だったんだから」
 泣きたいのはこっちなのになと思いながら、私はさらに女神の背を優しく『ぽんぽん』する。

「元の世界に戻る事より、あの子が幸せでいてくれるほうが大切だったんですよ」
 涙をいっぱいに湛えた目で女神が私を見上げる。にこりと笑いかけると、彼女はさらに泣き出した。

 涙でぐちゃぐちゃの、でも美しい顔で女神は私に言う。
「もう元の体には戻せないからね?」
「わかってますよ。覚悟はしました」
 アレクの背中を見送った時にちゃんと覚悟した。元の世界には戻れない、今までいた世界にも戻れない。

「これからアレクは『魔王』を倒して、私のことは忘れて、お姫様と幸せな結婚をする。そのためなら……」
「本当にそうなると思ってます?」
 じとっとした目でこちらを見て、女神が指を鳴らすと、空中に大きな鏡が姿を現した。

 映っていたのは、さっきまで居た世界。

 アレクが、くずれた氷の城に戻って来ていた。ジョンの制止も聞かず瓦礫の中に駆け込み、唯一形が残っていた部屋に横たわるユリアの前に跪いた。

 手にした布袋の中から輝く結晶を取り出し、ユリアの胸の上に置く。
 だけど、当然すでに体から切り離した魔力が元に戻ることはない。

「ユリア様、ユリア様……」

 虚な目をして名を繰り返すアレクの前で、『魔女の心臓』、輝く結晶が一瞬で黒く染まる。そして、その結晶を中心にして真っ黒な魔力がぶわりと膨れ上がった。どす黒いその魔力は大地を這い、空を埋め尽くしてゆく……。
 『魔王』が、新たに誕生した瞬間だった。


「はい! ここでストップです!」
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