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魔女の心臓
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しおりを挟む出発の日が来た。
結局、アレクはソフィアと共に、隣国へ魔王を倒す旅へ出る事になった。
まずは、ソフィアの待つ王城へ。
「これは王城に着いたら開けるのよ。きっと役に立つから」
出発を前にして私は小さな箱を渡す。アレクはお守りのようにそれを胸元にしまい込み、嬉しそうに服の上から撫でた。
氷の聖剣は先にソフィアに渡してある。
「ありがとうございます」
「ジョン、王城まではしっかりアレクを送り届けて頂戴ね」
「かしこまりました」
ジョンが寂しげに微笑む。もしかしたら、ジョンにはわかっているのかもしれない。渡した物がどんな物なのか。
「『魔王』は刻一刻と人の生きる土地を狭めていると聞くわ。隣国へ急がないと」
「はい! 俺、頑張って魔王を倒してきますね。だから帰ってきたら俺のお願いを一つ聞いてくれますか?」
「ええ、約束するわ。魔王を倒して帰ってきたら、あなたの願いを一つ、なんでも叶えてあげる」
私は目一杯、優しく笑う。出会った頃は冷たくしか笑えなかったけど、今は柔らかく笑えているだろうか。
「それじゃあ、いってきます! ユリア様」
手を振って、アレクが馬車に乗り込む。ひらりと手を振り返すと、アレクが嬉しそうに笑った。
馬車が走り去ってゆく。
そうして彼らが森を過ぎ王都へ向かう街道へ出るころ、この城は崩れてしまうだろう。
この日のために、新たな術式を組み上げて氷の大地に結界を張ったから、城はなくても街に魔獣が侵入するようなことはないはず。
アレクに渡したのは、『魔女の心臓』。本当の心臓ではなくて、魔女の全ての魔力を込めた結晶。
それを聖剣に嵌め込めば、『魔王』を倒すだけの力が振るえる。
マニュアルの最後のページには、魔力の全てを結晶化させる方法が、『他に手がない場合に』として、書いてあった。この手を使った場合は、元の世界に戻る権利を失うかも? という注意書きと共に。
まあ、この結末は、女神のお気に召さないという事なんだろう。
私はいつも眠る時のように、大きなベッドに横たわる。
だるくて、ねむくて、しょうがない。
元の世界に帰れないなら、もう一度だけミスミに会いたかった。結局どれだけ待ってもあれから彼は全然現れなくなって、もしかしたら存在自体が夢だったのかなとも思ったりする。
なんだか意識がぐにゃぐにゃと歪む。まともに物が考えらえれなくなってきた。
元の世界に戻れない私は、どうなってしまうんだろう。
消えちゃうのかな。
それでもアレクが泣くよりいいかな、最後にそんな風に思った。
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