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魔女の心臓

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 結局、お互いに何にも案が出ず、ソフィアが翌日また来る事を了承して今日は解散となった。
 何か情報が無いか、探してみるという約束をして。

 私は、何を話したのか聞きたい素振りのアレクをあえて見ないふりをし、夕食もそこそこに自室に篭った。

 さっきソフィアと話していて、一気に記憶が溢れてきてから、何というか、自分自身とユリアの境目が分かりづらくなってきている。この氷の大地に親もなく魔女として生まれて、この国と契約を結び、与えられたこの城で暮らしてきた日々が、そのまま今の自分に繋がっている。

 ユリアの記憶というのは今までだって常に私自身の中にあった。ただ、薄い紙を一枚挟んだ向こう側にあるような感じで、知ろうと思わない事は表に出てこなかったのに。

 記憶をあえて探らなくても、『すぐそこ』にある感覚。
 
 で、その記憶の何処にも、『他の手はない』というのが問題で……。

「本当に、何もなかったかしら」
 私は呟いて、自室の隅に置いてる本棚を眺めたが、その中身はとっくに頭の中に入っているし、解決策は書かれていない。

 ヤケになって、あちこち開けてみて……そして私は机の引き出しの奥に丸めて押し込んだ紙の束を見つけた。

 『コツコツ続けてしっかりヘイトを育てる! 悪役マニュアル』

 可愛らしい文字でタイトルが書かれているそれは、女神に渡されたマニュアル。
「こんな物もあったわね」
 結局一度も開いていなかったなと思いながら、ペラペラとページを捲る。ポップな文字で書かれている割に、『成長に影響を与えないギリギリの食事の抜き方』『心を抉る罵倒10選』『後に残らない暴力のススメ』など、胸が悪くなるような内容が続いていた。

 こんな事、できるわけがない。

 暖炉の火にでも焚べようかと持ち上げたところで、長い間引き出しの奥に押し込んでいたのが悪かったのか、手の中でくるりと丸まって指の間を滑り、足元にバサリと取り落としてしまう。

「え?」

 偶然に開いたのは最後のページ。今までのデザインとはガラッと雰囲気が変わって、どちらかといえばこの部屋に並んでいる魔法書のレイアウトに似ていた。

 拾い上げて、そのページに目を通す。
「こんな所に……」
 それから私は、そのページだけを抜き取り他の紙束を暖炉に放り込んだ。
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