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第十章 ファンになってほしいんです
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中は真っ暗で、何も見えない。
外の光だって少しは差し込むはずなのに、そのドアの向こう側が全部吸い込んでしまったかのような漆黒。
自分だけでは出入りはできない、そう言われていたのを思い出す。
ドアから手を引っ込めて、諦めて帰ろうかと思った。だけど、もう一度声がした。
途切れ途切れ、微かにしか聞こえなかったから内容は分からないはずなのに、どうしてだろう私には助けを呼んでいるように思えてしまって。
思わず水に飛び込む前のように息を止めて、私はドアの向こうに大きく一歩、足を踏み出していた。
真っ暗な中で、いつもの気圧差のようなものを耳元で確かに感じた。ちらりと肩越しに後ろを見ると、入ってきたはずの入り口は見えなくなっている。
……もう進むしかない。
全身を包み込む暗闇の中、必死に足を動かしていく。進んでいる感覚は無くて、まるで足踏みを繰り返してるみたい。
どれだけそうしていたのか分からない、もしかしたらほんの一瞬だったのかも。
ぱっと目の前が明るくなって、私は『箱庭温泉』を見下ろす位置に立っていた。
「つ、着いたー」
安心してへなへなと座り込みそうになるけど、ここを目指した理由を思い出し私は耳を澄ます。
しばらくじっとしていると微かな声が聞こえた。やっぱり何を言っているのかは分からない。なのに助けなきゃ、という切迫した気持ちが込み上げる。
声の出どころを探しても辺りに何も見当たらない。……もしかして、と思い箱庭の温泉街に顔を向ける。
メインの通りに並ぶ建物を順番に目で辿っていくと、地獄の手前にある湯宿の屋根に小さな赤い光りを見つけた。
私は懸命に目を凝らす。
あの赤色を知っている、そう思ったから。
「ユノさんが連れてた、男の子!」
茜色の鎧を着た夕やけガニの小さな男の子が、仄かな明かりを纏って屋根に座り込んでいる。まだ妖になりかけの子だから、神気が強い地獄には近づいてはいけないとルリが釘を刺していたはずなのに、なんであんなに近くに……。
まずはルリに連絡しないと!
私は茜鎧の男の子から目を離さず、手探りでバッグからスマートフォンを取り出そうとした。
これはお財布、これは手帳、これはパスケース……。
焦れば焦るほど、指先は違うものを探り当ててしまう。
その時、一際大きな甲高い声がした。視線の先で赤い光が風に煽られたのかふわりと浮き上がる。
「ダメっ、アカネくん!」
思わずそう声を上げる。
ここからでは届かないとわかっていたのに、私は必死に手を伸ばしていた。
外の光だって少しは差し込むはずなのに、そのドアの向こう側が全部吸い込んでしまったかのような漆黒。
自分だけでは出入りはできない、そう言われていたのを思い出す。
ドアから手を引っ込めて、諦めて帰ろうかと思った。だけど、もう一度声がした。
途切れ途切れ、微かにしか聞こえなかったから内容は分からないはずなのに、どうしてだろう私には助けを呼んでいるように思えてしまって。
思わず水に飛び込む前のように息を止めて、私はドアの向こうに大きく一歩、足を踏み出していた。
真っ暗な中で、いつもの気圧差のようなものを耳元で確かに感じた。ちらりと肩越しに後ろを見ると、入ってきたはずの入り口は見えなくなっている。
……もう進むしかない。
全身を包み込む暗闇の中、必死に足を動かしていく。進んでいる感覚は無くて、まるで足踏みを繰り返してるみたい。
どれだけそうしていたのか分からない、もしかしたらほんの一瞬だったのかも。
ぱっと目の前が明るくなって、私は『箱庭温泉』を見下ろす位置に立っていた。
「つ、着いたー」
安心してへなへなと座り込みそうになるけど、ここを目指した理由を思い出し私は耳を澄ます。
しばらくじっとしていると微かな声が聞こえた。やっぱり何を言っているのかは分からない。なのに助けなきゃ、という切迫した気持ちが込み上げる。
声の出どころを探しても辺りに何も見当たらない。……もしかして、と思い箱庭の温泉街に顔を向ける。
メインの通りに並ぶ建物を順番に目で辿っていくと、地獄の手前にある湯宿の屋根に小さな赤い光りを見つけた。
私は懸命に目を凝らす。
あの赤色を知っている、そう思ったから。
「ユノさんが連れてた、男の子!」
茜色の鎧を着た夕やけガニの小さな男の子が、仄かな明かりを纏って屋根に座り込んでいる。まだ妖になりかけの子だから、神気が強い地獄には近づいてはいけないとルリが釘を刺していたはずなのに、なんであんなに近くに……。
まずはルリに連絡しないと!
私は茜鎧の男の子から目を離さず、手探りでバッグからスマートフォンを取り出そうとした。
これはお財布、これは手帳、これはパスケース……。
焦れば焦るほど、指先は違うものを探り当ててしまう。
その時、一際大きな甲高い声がした。視線の先で赤い光が風に煽られたのかふわりと浮き上がる。
「ダメっ、アカネくん!」
思わずそう声を上げる。
ここからでは届かないとわかっていたのに、私は必死に手を伸ばしていた。
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